電通×アクセンチュア対談、クリエイターのAI活用の現在地

クリエイターはAIとどのように付き合うことでその創造力を高めていけるのだろうか。アクセンチュアソングの太田郁子さんと電通の並河進さんに、自身や自社での導入状況や共創におけるさまざまな課題について聞いた。

※本記事は月刊『ブレーン』2024年10月号「AI×発想力 人の心を動かす創造性の拡張」特集への掲載内容から抜粋してお届けします。

AIは“1回目のブレスト”の段階

(左から)太田郁子(おおた・いくこ)アクセンチュア ソング マネジング・ディレクター。2001年に博報堂に入社。ストラテジックプラナーとして、さまざまな企業の経営戦略、マーケティング戦略の立案や商品開発に参画。12年、博報堂ケトルに出向。19年より代表取締役社長 共同CEO/エグゼクティブクリエイティブディレクターを務めた後、22年から現職。/並河 進(なみかわ・すすむ)電通 エグゼクティブクリエーティブディレクター/主席AIマスター。1997年電通入社。ソーシャルプロジェクトや、AI×クリエイティブのプロジェクトを数多く手がける。2021年、電通にて、カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター発足とともに、センター長に。著書に『Communication Shift』(羽鳥書店)他多数。東京藝術大学 客員教授。

並河 クリエイターのAIの活用方法としては、主に「時間をつくる」「気軽にはみ出す」の2つがあると思います。簡単な作業はAIに任せて、創造的な仕事のために時間をつくる。また、専門領域外にも気軽にはみ出して何かをつくってみることができるのもテクノロジーの強いところですね。

太田 「はみ出す」とは、たとえばアートディレクターでなくてもAIで絵をつくってみたり、ということですよね。

並河 その通りです。それに関連して、電通では8月にグループとしてのAI戦略「AI For Growth」を発表したのですが、その中でAIコピーライター「AICO2」をリリースしました。

通常、LLM(大規模言語モデル)ベースの生成AIにコピーを書かせると“コピーっぽいもの”は出ても、コピーライターが読んだときに実際に使えるものがなかなか出てこないんですよね。その点、AICO2にコピーライターの“思考”方法を学習させたところ、コピーの質が上がるという結果が出たんです。コピーライターが思考の幅を広げるときに思わぬ視点が参考になるなど、コピーライターをサポートするツールとして導入しようとしています。

2024年8月、電通が発表したAIコピーライター「AICO2」(電通・電通デジタル有志メンバーが開発)。2017年に発表された初代の「AICO」は、電通のコピーライターが考案したコピー約1万作品を学習し人間のコピーライターに多くの発想をもたらす一方で、利用を繰り返すと過去のコピーと類似したものを出力したり、テーマとかけ離れたコピーを生み出したりする傾向があるなど、表現力に限界があったという。今回発表された「AICO2」では、電通のコピーライターの思考プロセスや推論能力を高めるべく学習したGPT-3.5 Turboモデルが実装されている。「AICO2」に、キャッチコピーとして「伝えたいこと」や「商品名」「解決したい課題」などを入力すると、「伝えるべきこと」と「表現方法」が理由とともに表示される仕組み。

太田 なるほど。AICO2には、コピーライターの思考方法をどうやって学習させているんですか?

並河 企業秘密の部分もありますが(笑)、少しだけ。コピーライターはクライアントへのプレゼンの際に「なぜこのコピーが良いのか」と、思考を言語化して話しますよね。良いとされるコピーと、言語化した思考とをセットで学習させているんです。

太田 過去の名作コピーについてコピーライターが座談会みたいな状態で話して、それをデータ化して読み込ませた……みたいなことなんですね。

並河 はい、最初は過去の実在の名作コピーで実験もしましたが、ツールとして開発する際には、社内でコピーの勉強会を実施したときに生まれたコピーなど著作権上問題のない学習データを使っています。

太田 私たちアクセンチュアでも、生成AIは標準装備されてきていますね。社員を支えるパートナーAI「ピアワーカー」がその日のスケジュール確認や会議の議事録作成などを担ってくれるんです。

アクセンチュアでは仕事におけるパートナーAI、通称「ピアワーカー」を導入。レポートにまとめる、メモをとる、といったことはもちろん、社内システムへのデータ登録、有識者に意見を求める、といったこともAIがサポートをしている。

このようにAIは日常業務に入ってきていますが、今の段階で言うと、広告業界の人は企画を考えるときに、とりあえず最初にメンバー皆が集まって、誰でも考えつくようなアイデアを1周目にブレストしますよね。そうして全方向で考えた後に、それをベースに企画を重ねていく。あの1周目のレベルが、今のAIの現在地という感じがします。「これは一旦みんな思いつくアイデアだよね」というものを一通り並べるまでのスピードが、AIによって上がったという感覚です

並河 まさに網羅性はAIの強みであり、クライアントの方々とのすり合わせにも役立ちます。たとえばクライアントの方が「こういう方向があるんじゃないか?」と言ったときに、クリエイターは既にそれを頭の中で組み立ててアウトプットを考えた上で、「その方向は厳しい」とジャッジしていることも多くて。その点AIを導入したミーティングにすると、即座にラフなアウトプットが生成できる。つまり共通認識ができるので、その後のすり合わせがしやすくなるというメリットもあります。

太田 共通言語化の基盤をつくってくれる感じはありますね。当社も発展途上ではありますが、会議の議事録や要約をしてくれる「ブレインバディ」というAIサービスを活用していて。そのAIに「あなたも意見言ってみてよ」と言うと、それまで聞いていた会話から「あなたたちがまだ言っていない範囲だとこういうアイデアがあると思うし、このアイデアとこのアイデアがあるってことは、ここもあると思う」というように、足りない部分を埋めてくれるんです。

並河 それはいいですね。AIから言われると、反対意見も言いやすいですしね。

「人間は非合理で、AIは合理」ではない

太田 まさに、AIがビジネスに介在する一番のメリットだと私が感じているのは、「人格がない」ということです。それぞれの立場の正義と正義がぶつかり合い、意見を“言いたいけど言えない”という時に、AIは空気を読まないで正しいことを言ってくれるので。その力は圧倒的ですね。

並河 たしかにAIを使うとコミュニケーションが非常に円滑になる可能性はありますね。余計な気遣いをして進まなかったところが急に進むことがあったりして。

太田 ある人がこだわりや愛を持ってやっていることでもそれでは効果がないから難しい、というときに、AIは「それ意味ないと思います」と提示してくれる。人間は本心では否定的でも「そういう考え方もあるかもしれませんね」などと濁してしまって、時には忖度してしまうことがあるので。

並河 そこはAIの強いところですよね。

太田 そのように、AIって過去を学習して最適なことを考える「合理化の思考」が強いじゃないですか。でも、私が社内で「人間は非合理で、AIは合理」と言ったら、「いや、AIだって非合理になれるんです」という論者もいたりして。そうすると、「AIってもはや何?」と混乱してくるんですが(笑)、並河さんはどう考えていますか?

・・・以降は月刊ブレーン24年10月号本誌、もしくはデジタル版記事(ご購読が必要です)でご覧ください。

〈以降の主なトピックス〉

  • 「考える」の上位概念は。
  • AIがあれば新人でもCDになれるのか?
  • 自分の分身AI「並河進B」の活用中。
  • 「好奇心」と「倫理観」が不可欠の時代へ。
  • AI時代にクリエイターに求められることは。

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  • AI時代のクリエイターの役割は クリエイティビティを伴う「意思決定」
    太田郁子(アクセンチュア ソング)×並河 進(電通)
  • 見据えるのはAIとの自由対話ができる未来
    澤邊芳明(ワントゥーテン)
  • 「一本釣りから網漁に」AIを発想にどう使う?
    中島琢郎(tacto)
  • AIで人の心は動かせるか 「11の手段」を元に考える
    松井正徳
  • 生成される画像の価値は? AIの思考過程を可視化する展覧会
    ライゾマティクス
  • 米コンテンツ会社、AIを活用してリブランディング実施
    マット・ホール(Studio Rx)

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