1931年、記者から広報へ転身 のちに副社長に
ポール・ギャレット(Paul Garrett)は、アメリカの広報実務業界において非常に重要な人物であり、特にゼネラル・モーターズ(GM)での活動で知られています。彼は広報の分野で数々の功績を残し、企業広報の重要性を広く認識させた人物として評価されています。
ポール・ギャレットは、『ニューヨーク・イブニング・ポスト』紙の金融部門担当記者から、1931年にゼネラル・モーターズ(GM)に広報部長として入社しました。その後、世界最大の産業組織であるGMの広報活動を統括する副社長に昇進し、広報活動を企業経営の重要な機能として確立するためのリーダーシップを発揮しました。
ギャレットは、アメリカで初めて大手産業組織における広報担当の副社長に就任した人物です。彼は広報を単なる企業のプロモーションツールではなく、企業の経営戦略の一部として位置づけ、広報活動の重要性を強調しました。
広報に関する多くの影響力のある講演や記事を執筆し、広報の専門性とその応用についての理解を深めました。彼の活動は、広報業界全体に大きな影響を与えました。
自動車業界全体の広報戦略の構築と強化に尽力
GMの自動車ショー(General Motors Automotive Show、通称: Motorama)会場で面会する、左からネルソン・ロックフェラー、ポール・ギャレット、アルフレッド・スローン(GM会長)(1938年11月10日)(出所: Waldorf Astoria New York)
ギャレットはまた、現在の全米自動車工業会にあたる業界団体(Automobile Manufacturers Association)の広報委員会の初代委員長を務め、1938年から1948年まで自動車業界全体の広報戦略の構築と強化に尽力しました。
彼は1955年にThe Automotive Hall of FameからDistinguished Service Citation Awardを受賞しました。1939年に設立されたThe Automotive Hall of Fameは、初期の自動車開発の先駆者たちの業績を永続させることを目的としています。受賞者はAutomobile Old Timersと呼ばれ、世界中の自動車産業の革新者たちがその実績を称えられています。
ギャレットは、広報という職業の地位向上に多大な貢献をした人物であり、特に企業広報の分野で先駆的な役割を果たしました。彼の業績は、今日の広報活動の基盤を築いたといっても過言ではありません。
以前ご紹介したAT&Tのアーサー・ペイジとギャレットは、パブリック・リレーションズ・プログラムの企画実践やその評価について、新しい科学的な企業プログラムを導入した広報実務家のパイオニアでもありました。
ギャレットの一本の電話が、ドラッカーの地位を築いた
最後に、ギャレットとピーター・ドラッカーとの逸話をご紹介します。これは、ギャレットがドラッカーの経営コンサルタントとしての地位を築くきっかけを作ったものと言えるでしょう。
1943年の晩秋、ちょうど34歳の誕生日を迎えるころのことだ。「ポール・ギャレットと申します」と電話の主は名乗った。「ゼネラル・モーターズ(GM)の広報部長です。当社副会長のドナルドソン・ブラウンに代わって電話しています」。世界最大企業、GMの経営方針や構造について第三者の目で調査してくれないかという。青天の霹靂とはまさにこのことだ。
『私の履歴書』(2005年2月、日本経済新聞掲載)
ギャレットからの電話をきっかけに、ドラッガーは18カ月かけてGMを調査し、提言をまとめました。ドラッガーは、この経験が経営の権威としての地位を築くきっかけになったと述べています。
広報豆知識(Public Relations Tips)~普段使っている専門用語の由来を知る
ステルス広報
ステルス広報(Stealth public relations)とは、企業や組織が広報活動を行う際に、その意図や出所を明示せずに情報やメッセージを伝える広報手法のこと。ステルス広報は通常、その広報活動の意図や背後にあるスポンサーシップを明示しないことが多い。つまり、情報がどこから来ているのか、またはその情報の背後にある目的が読者にわからないようにしている。
広報メッセージは、ニュース記事、ブログ投稿、ソーシャルメディアのコメントなど、編集コンテンツや一般の話題として巧妙に組み込まれると、読者はその情報が広告であることに気付かない場合があり、ミスリードやフェイクニュースとして拡散することもある。
ステルス広報は、特定のブランドや製品に対する関心やエンゲージメントを高めるために用いられる。情報が編集コンテンツや一般の議論の一部として提示されるため、読者が自然に関心を持つように設計されている。たとえば、ニュースメディアやブログ、影響力のある人物(インフルエンサー)を利用して、特定の製品やサービスについての肯定的な情報を伝えるが、背後にあるスポンサーシップやプロモーションの意図は明示されない。
また、広報メッセージをニュース記事や特集、調査報告などの形式で提供し、編集コンテンツとして読者に提示するほか、ソーシャルメディアの投稿やコメントにおいて、製品やサービスについて自然な形で言及し、広告であることを隠すことになる。
この結果、読者が広告やプロモーションの意図に気付かずに情報を受け入れる可能性が高く、より自然に受け入れられることがある。その一方で、ステルス広報は、倫理的な問題を引き起こす可能性がある。読者が広報活動であることに気付かないと、誤解や不信感を招くことがあり、規制や法律に抵触する可能性もあるため、透明性の確保が重要となってくる。
ステルス広報は、効果的にメッセージを伝える手法である一方で、倫理的な配慮や透明性が求められる方法といえる。