「ヤングカンヌ」日本代表になるまで 電通の営業&クリエイターがやったこと

世界最大級の広告賞「カンヌライオンズ」に付随する、30歳以下を対象にしたコンペ形式の大会「Young Lions Competitions」、通称「ヤングカンヌ」。
 
2024年、日本からは国内予選を経て6組が出場した。今回は、PR部門で出場した電通の厚木麻耶さん、東加奈子さんのチームに、予選を通過するまで、そして惜しくも入賞を逃したカンヌでの本選で学んだことを振り返ってもらった。
 
本記事では、2023年10月に行われた国内予選について分析する。
写真 人物 集合 電通の東さん(左)、厚木さん。

PR部門で出場した電通の東さん(左)、厚木さん。

ヤングカンヌは「真面目な人こそ勝てるコンペ」

皆さんこんにちは。前半の記事はクリエイティブの厚木が担当します!

これまで私は、広告賞は、ぶっ飛んだ発想が得意なクリエイターだけが勝てるコンペだと思っていました。特に、一番の憧れだったヤングカンヌなら、なおさら「ぶっ飛び力」が必須なのでは、と。

しかし、ヤングカンヌは、真面目な人でも勝てるコンペ、いや、「真面目な人こそ勝てるコンペ」かもしれない……と思っています。

今回は、営業とクリエイティブの、異色で真面目な2人のコンビが、真面目さを武器にヤングカンヌに向けて戦った挑戦記をお話しさせていただきます。前半となる本記事では、日本予選について、後半ではカンヌ現地での本戦についてお話します。

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厚木麻耶(あつき・まや)

クリエーティブ・テクノロジスト/コミュニケーション・プランナー。栃木県生まれ栃木県育ち。 やんちゃな父親に育てられたことで、義理と人情に厚く、情熱的。真面目なところにはめちゃくちゃ真面目。 展示・空間体験設計、テクノロジーが好き。

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東加奈子(あずま・かなこ)

ビジネスプロデューサー。就活時から営業志望。クリエイティブな案件を生み出せるビジネスプロデューサーになりたい、という想いからコンペに挑戦。

営業とクリエイティブが、コンビを組む理由

厚木と東は会社の同期で、入社後の新人研修でも同じチームでした。お互いの性格を理解していたからこそ、どんな意見も言い合うことができ、普段の仕事やバックグラウンドが違うからこそ、お互いの考えをリスペクトし合えるのです。そして、お互い社会的な課題に興味があったので、コンビを組むこととなりました。

写真 人物 厚木麻耶

ヤングカンヌ日本予選では、厚木が企画を広げ、東がディレクションするような役割分担でした。事前に相談してこの役割分担でいこうと決めたわけではないですが、このおかげで話が進みやすかったように思います。その後の本戦では、2人で一緒に企画を広げたり絞ったりと柔軟に立ち回りを変えています。

グラフ その他

普段の仕事だけでなく、得意・不得意も全く違う2人。だからこそ、アイデア、企画に対する見方や意見も異なっていました。

グラフ その他

見方や考えが異なるからこそ、それぞれが補完し合いながら、「この企画の方向性は掘っていくべき/掘っていくべきでない」などと、判断がしやすかったように思います。普段の仕事や考え方が近いもの同士よりも、“遠い”2人が組んでみることの良さは、ここにあるのかなと思います。

前回は日本予選落ちという悔しい結果に

しかし、このコンビで初めて挑戦した2023年度のヤングカンヌでは、5部門全て日本予選落ちでした。

課題は「海洋汚染プラスチックごみ問題を解決するクリエイティブアイデア」。

私たちは、ペットボトル飲料の広告に水筒を重ねて乗っ取り「それ、水筒で飲まない?」と呼びかけるアイデアを提出。ですが、ほかのチームと被らないような視点の異なる企画を出すことにこだわりすぎ、実現性が低い&参加するモチベーションを設計できていないものに。

また、課題発表から企画提出までの1週間で考えすぎて煮詰まってしまい、冷静に企画を選んだりブラッシュアップしたりすることができず、反省点ばかりが残る戦いになりました。

実データ グラフィック #Takeover Plastic Ads
実データ グラフィック #Takeover Plastic Ads

厚木さん、東さんが提出した作品。ペットボトル飲料の広告に水筒を重ねることで、マイボトルの利用を推進しようとした。

2024年度、2度目の挑戦で日本代表に

昨年の反省点を踏まえて、アイデアを飛ばすことに比重を置くよりも、人が動くと思えるものか、実現可能性があるかをより強く意識しました。また、長時間考えて煮詰まりすぎないように気を付けました。

2024年度の日本予選のお題は、「アジアの美術館における女性アーティスト作品の比率を上げるためのクリエイティブな提案」(※所蔵品の中の女性アーティストの作品比率は平均10-13%)でした。

スクリーンショット 2024年度日本予選お題

国内予選で発表された課題。芸術を通じて女性を応援することが狙いとされている。

私たちが提出した企画は、「美術館からはみ出された」(選ばれなかった)女性アーティストたちの作品展を、美術館のまわりでやってしまおう、という企画。美術館最寄りのバス停や駅内広告など、屋外広告に作品を展示して美術館をハックするものです。

このことで、女性アーティストが美術館に入れてもらえない現実を知らしめ、 社会的気運を高めることで美術館に変革を迫ります。タイトルの「Outside Museum for Unwanted Outsiders」は、「屋外」のOutsideと、「部外者、のけもの」のOutsiderをかけています。

実データ グラフィック 「Outside Museum for Unwanted Outsiders」
実データ グラフィック 「Outside Museum for Unwanted Outsiders」

国内予選で提出した作品「Outside Museum for Unwanted Outsiders」。

アイデアがシンプルなので、ほかのチームと被ってしまう恐怖もありました。しかし、東が「この企画なら絶対勝てる!」と言ってくれたので、自信を持って戦えました。どちらかが自信がなかったり気が落ちていたりするとき、もう一方は自信がみなぎっていてテンションが高いことが多いので、そういう意味でも良いコンビだと思っています(笑)。

結果、この企画で国内予選にてPR部門ゴールド、メディア部門シルバーをダブル受賞。PR部門の日本代表としてカンヌの本戦に参加することになりました。

得意不得意が異なる2人ということ以外に、わたしたちが日本代表になれた理由は、2人とも真面目であるがゆえに緻密な準備を重ねたことにあったと思っています。

日本代表に選ばれるには、審査員に「この人たちなら安心して世界に送り出せる」と思ってもらえるかが重要であると先輩方から聞いていたので、プレゼン審査当日までの1週間は、以下のような、できるかぎりの準備と練習をして挑みました。

・話す内容のつくり込み

プレゼン時間は5分と短いので、話す内容を一度全て文字に書き起こし、企画の意図がきちんと正しく伝わるかを確認。英語のプレゼン大会に出場経験のある東が原稿をつくり、厚木が新鮮な頭でそれを聞いて、きちんと理解できるかのテストを繰り返しました。

スクリーンショット プレゼン原稿

・審査員の気を引く、ユーモラスなプレゼンのつかみを考える

審査員に、企画の肝である「Outsider(除け者)」という言葉を強い印象として残すため、プレゼンの初めに審査員1人を除け者にする、ユーモラスな挨拶をしました。

グラフ その他

・質疑応答集を6ページ分ぎっしりとつくり、穴を埋める

審査員からどんな質問が来ても答えられるよう、6ページ分の想定質問とその応答を作成。想定質問は、アドタイをはじめとした過去の先輩方の体験記を参考にしました。

スクリーンショット 質疑応答集

・補足用の小道具も準備

企画を実際に体験できるような小道具として、「Outside Museum」のマップとチケットを制作しました。

実データ グラフィック 「Outside Museum」のマップとチケット

・企画のブラッシュアップ&補足資料作成

企画資料は10ページ分作成しました。資料に入れ込めなかった内容は、プレゼンで補足。プレゼン時は、資料を配った上で説明を行いました。

スライド プレゼン資料

・とにかく練習

土曜日は厚木の家に集まって一日中プレゼンの練習をしていました。話す内容だけでなく、表情や姿勢も確認。日本代表として戦えるチームであることを、プレゼンの雰囲気でも印象付けました。

このような準備を重ねた結果、審査員からは「細部まで考え抜かれた完成度の勝利」という評価もいただけました。
 
 
広告賞は、ぶっ飛んだ発想、funnyな企画づくりが得意なクリエイターだけが勝てるコンペだと思っていました。しかし日本代表に選出いただき、企画の実現可能性を考え抜き、緻密に準備を重ねることの重要性をひしひしと感じました。

だからこそ、ヤングカンヌは「真面目な人でも勝てるコンペ」、「真面目な人こそ勝てるコンペ」だと思っています。

次の記事では、カンヌでの本選についてお話しします。

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