生成AIの浸透で増殖するMFAサイト 最先端のアドベリフィケーションとは?(前篇)

2017年にアドベリフィケーション推進協議会が発足し、2021年にはJICDAQ(デジタル広告品質認証機構)が活動を開始。日本国内においてアドベリフィケーション対応の重要性は認識されるようになっている。しかし、生成AIの浸透が、アドフラウドなどの悪質行為を行う、悪意を持ったプレイヤーがより広告費を稼ぎやすい環境を生み出している。いま、改めて求められるアドベリフィケーション活用について、電通デジタルの富田匠氏と大山春香氏に話を聞いた。
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富田 匠氏

電通デジタル
ストラテジー部門
ソリューション戦略2部
プロセスマネジメントグループ
グループマネージャー

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大山 春香氏

電通デジタル
ストラテジー部門
ソリューション戦略2部
プロセスマネジメントグループ

5年間でスコアは改善傾向もAIによる新たな脅威が出現

2023年10月から11月にかけて電通デジタルとアドベリフィケーションベンダーのMomentumは「インターネット広告のリスク調査2023」を実施した。同調査では実際に国内で利用されている広告プラットフォームにて広告配信を行い、Integral Ad Scienceの広告計測ソリューションを用いてアドベリフィケーションに関するスコアの推移を計測。2018年にアドベリフィケーション推進協議会で実施した調査レポートとの比較と、入札戦略の違いによるスコアの推移を分析した。

調査によると5年前に比べ、プラットフォーマー側の努力でブランドリスクやアドフラウドに関する最低限のリスク対策が進み、指標が改善しつつあることが分かった。その一方でAI技術の進歩に伴うBotの巧妙化やMFAサイトの横行など、新たな脅威も生まれてきている。こうした状況改善のために求められるのが、“守り”の対策に加えた広告主側の“攻め”の一手だ。

JICDAQの登録アドバタイザー数は2024年8月時点で139社を数える※。(※JICDAQ 月次登録・認証動向より。)しかし、その一方で「脅威に対する認識はしているものの、どのように手を打つべきかが分からないという企業が多いのでは」と富田氏は話す。

「問い合わせで増えてきているのは、これまでセーフリストを用いて配信してきたが、各プラットフォームの広告効果を最大限活用できていないという相談。国内大手広告主を中心に、自社独自のブロックリストを作成し、移行する傾向にあります」(富田氏)。

そのためにも各ブランドや広告キャンペーンにおいて、“どこまでを許容範囲とするのか”という判断基準を、広告主自身が持つことが肝要なのだと大山氏は話す。

それでは具体的に、いま広告主はどのような課題を捉え、対応を行うべきなのだろうか。

ひとつは先述のMFAサイトへの対応だ。生成AIの登場により低コストでコンテンツを量産できるようになったことで近年、日本国内でも拡大に拍車がかかっているMFAサイト。表面的にはCVが増えているように見えるが、ユーザーのコンテンツ体験を阻害している上に、そうした質の低いサイトに出稿していることによるブランド毀損は免れない。

また、KPIとしてアテンション指標を用いることも、リスクだけでなく広告効果を高めることまで踏まえた対策のひとつだ。「クリックされた=広告が見られている、とは言えません。きちんとターゲットにリーチできているのか。CVは取れていても果たして顧客になり得る人を獲得できているのか。場合によっては部門間連携も行いながら、CRMと組み合わせて捉える必要もあると考えます」と富田氏は話す。

そしてもうひとつが、ブランドスータビリティ(ブランド適合性)の考え方だ。商品やブランド、業界によって、何をネガティブとするかは異なる。例えば通信障害に関するニュース記事に、通信事業者が広告を出稿することを良しとするのか。また、広告配信先のコンテンツにより、特定の考え方を支持するような見え方はしていないかどうか。先述のアテンション指標を向上させるためにも、掲載面の文脈に沿わせる“攻め”の判断も重要になってくる。

悪質な配信面や巧妙な詐欺広告など“いたちごっこ”とも言える状態は避けられず、これらを目視で追いかけていくことは不可能に近い。「グローバルと比較すると日本はまだ改善の余地がある状況です。最新の動向をキャッチアップすると共に、まずはアドベリフィケーションツールによって自社の出稿状況の現在地を確認してもらいたい」と大山氏。

日進月歩で変化していく状況に対し、広告会社、メディア、広告主、ソリューションベンダーが一丸となって取り組むことの重要性を強調した。

アドベリフィケーションを取り巻くこれまでの歴史

2015年 IAS(Integral Ad Science)が日本で事業を開始
2017年 米国でP&Gのマーク・プリチャード氏がスピーチ(※1)
2017年 KDDIと電通が出資するSupershipがMomentum(2014年創業)を買収
2017年 アドベリフィケーション推進協議会発足
2018年 NHK「クローズアップ現代」で「漫画村」問題が取り上げられる(※2)
2018年 JAA「デジタルメディア委員会」が海外視察を実施
2019年 デジタル広告の課題に対するアドバタイザーズ宣言が発表
2020年 DoubleVerifyが日本で事業開始
2021年 JICDAQが活動を開始

※1 P&GのCBOであるマーク・プリチャード氏が、インタラクティブ広告業界団体IABのカンファレンスにおいて広告の透明性に関して批判・提言を行った。

※2 違法にコピーした漫画などのコンテンツを掲載した海賊版サイトの「漫画村」。著作権の侵害に加え、Botによる広告表示・クリックが行われて実際よりも多く広告インプレッション・クリックがカウントされ(アドフラウド)、その分の広告費がサイトの収益になっていた。

押さえておきたい4つのキーワード

MFAサイト
MFA=Made for Advertisingの略で、広告収入を得ることを目的に設計されたウェブサイト。サイトに広告を大量に配置・提供することで、サイトへのトラフィック誘導費用と、サイトが生み出す広告収益の差額で儲ける仕組み。広告を掲載するためだけに作成された低品質なコンテンツで構成されており、生成AIにより大量に作成されるようになった。電通デジタルがMomentumと共同で実施した調査では、実際にあるプラットフォームにおいて、全682件のCVのうち400件がMFAサイトと思われるサイト上で発生したことを確認している。

 

ブロックリスト/セーフリスト
ブロックリストは、広告の出稿先に適さないドメインを管理したリスト。登録したリスト以外に広告を配信するため、様々なメディアに広告を出稿できるメリットがある。しかし広告主側のみで高品質なリストを作成することは難しい。セーフリストは、広告を出稿したいドメインを管理したリスト。登録したリスト以外には広告が配信されないため、ブランド毀損などのリスクを避けられるメリットがある一方で、ブロックリストに比べると出稿先が少なくなる傾向にある。

 

アテンション指標
広告に対しどれだけの関心が示されたかを把握するための指標。広告が表示されている時間(タイムインビュー)や視認できる範囲に一定時間表示された広告の割合(ビューアビリティー)、エンゲージメント率、CTR(クリックスルーレート)だけでなく、広告とコンテンツの比率、広告枠の数といった配信先の状況や、ユーザーの視線の動き、オーディオの操作、画面スクロールの計測により実際にどの程度広告を見ているかをリアルタイムで計測する。実際にアテンションスコアの最適化により、広告パフォーマンスの向上やブランドへ好影響を与えることが分かっている。

 

ブランドスータビリティ
一般にどの企業にとっても不適切とされるコンテンツを避ける(ブランドセーフティ)だけでなく、その企業・ブランドにとって適した掲載先を選択することをブランドスータビリティ(適合性)という。例えばそのブランドにとってネガティブな情報はないかといった、掲載面の記事やコンテンツの文脈をチェックして数値化し、制御していくことが求められる。

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お問い合わせ

アドベリフィケーション推進協議会(株式会社電通デジタル)

URL:https://ad-veri.jp/index.html#contact


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