自治体広報職員は「羅針盤を持った船頭」のような役割 船に乗る仲間を増やしたい (熊谷市・富田卓弥さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
茨城県古河市役所の藤井恵さんからバトンを受け取り、登場いただくのは埼玉県熊谷市の富田卓弥さんです。

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富田卓弥氏

埼玉県熊谷市 市長公室広報広聴課 主任

実業団チームでスポーツ選手として活動後、ラグビーワールドカップ2019に向けて新設されたスポーツ枠採用職員として、2017年4月に入庁。スポーツ振興の部署に配属後、2020年4月より現職。

Q1:現在の仕事内容について教えてください

主にシティプロモーション担当として、まちの魅力づくりや魅力発信の仕事をしています。具体的には、シティプロモーションを推進するための計画や方針の策定、ロゴや動画の制作に関する業務委託などです。熊谷市では令和5年度からシティプロモーションの仕事が広報の部門に割り当てられ、昨年度末に「シティプロモーション推進方針」を定めたばかりなので、まだまだ土台づくりや仲間づくりの段階といったところですね。

今回は#自治体広報と#キャリアというタグが付いたリレーコラムなので、個人的なキャリアの話をさせていただくと、元々企業のスポーツチームに所属していて、転職して公務員になったという経緯があります。現役を引退してスポーツによるまちづくりがしたいと感じていた時に、熊谷市でラグビーワールドカップの開催に向けた新たな採用枠の職員募集があったので応募してみたという感じです。採用後、最初の配属先はスポーツ振興課(現スポーツタウン推進課)で、その後の異動で現在の広報部門になりました。

イメージ スポーツ振興課

イメージ スポーツ振興課

Q2:広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください

熊谷市では市長公室広報広聴課という部署が広報部門を担っていて、仕事の主な分類は広く発信する「広報」と、市民の声を聞く「広聴」の2つです。「広報」は市報やホームページ、SNS、といった媒体を通じての情報発信を、「広聴」は市に対する要望や意見を取りまとめる仕事を行っています。そして「広報」の中に「シティプロモーション」が追加されたので、仕事の領域は少し広がった感じです。

「広報」と「広聴」、どちらの仕事も各課との連携が大切になるので、視野の広さやコミュニケーション能力が求められる部署だと思います。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

シティプロモーション担当になってからは手さぐりの日々が続いていますが、行政として立てた「計画や方針」を、各課と協力しながら「事業」として具体化していくことが重要だと考えています。例えば、シティプロモーション推進方針では、以下3つの理念を掲げていますが、これらをどのように実践するのかということは問い続けなければいけませんし、時代に合った発信方法なども学び続けることが必要です。そのほか、具体化した事業を仕組み化するところまで責任を持たなければいけないとも思っています。

イメージ シティプロモーション推進方針

また、熊谷市のシティプロモーションでは「熊谷のファンを増やす」ということを目的に掲げており、そのためには、市の魅力に関わる皆さんに、図の下段に記された「継続・紹介・発信」といった行動(ファンの行動)をとってもらう必要があると考えています。市の魅力のファンになった方が身近な人に紹介することによって、紹介された人が「参加」しやすくなる効果(A)や、広く発信する行動によって、情報の総量を増やし、「知る」機会を増やす効果(B)も意識しながら、ファンを増やす取組を進めていきたいと考えています。

イメージ 図 ファンを増やす取組

例えば、熊谷市では、関東一の祇園と称される「熊谷うちわ祭」という伝統的な祭りがありますが、市の公式インスタグラムでは、山車などの華やかな写真を掲載するだけでなく、祭りを楽しんでいる参加者を短い動画でつないで、一つの動画として発信するということもしています。このような動画は本人への許諾など、配慮しなければならない部分はありますが、生き生きとしたまちの姿が表現されるだけでなく、本人や知人が思わず拡散したくなる特性を持った動画です。

魅力づくりは広い意味で「まちづくり」の活動とも捉えられますし、これらの活動は公民連携や共創の時代に変わってきているので、良い関係を築きつつ、人を巻き込みながら発信することがカギになるのではないでしょうか。

イメージ 「熊谷うちわ祭」という伝統的な祭り

イメージ 「熊谷うちわ祭」という伝統的な祭り

そのほかにも、市内で活動する『人』にフォーカスした「Our Place~私たちがつくる熊谷の未来~」という番組づくりも進めています。

この番組を仕組み化するプロセスは、➀市内事業者で公的な考えを持ち、かつSNSで活発に発信をしている方を「くまがや応援隊」として任命する、②番組の企画構成を考え出演をオファーする、という事前準備から始めました。そして番組のスキームとして、③応援隊自身の繋がりからゲストを呼び、2人でまちの未来に向けた話をする、④できる限り普段の雰囲気で話してもらうために台本は作らない、⑤出演者の魅力が最大限引き出せる場所でのロケ撮影を行う、といった形で番組づくりをしています。良い意味で個性のある皆さんなので、できる限り自由に話していただきながらも、「まちの未来のために」という軸がぶれないように声掛けをしながら、一緒に魅力づくりと魅力発信をしています。

イメージ 市内で活動する『人』にフォーカスした「Our Place~私たちがつくる熊谷の未来~」

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

これは自治体広報に限らず苦労する点だと思いますが、広報担当と事業担当の意識の違いから、情報共有がされず、効果的な発信ができないというケースがあります。その対策として、現在では「シティプロモーション通信」という庁内向けの啓発資料を作成し、インナープロモーションとして意識啓発を行う活動もしています。将来的には外部講師を招いて、担当者がプレスリリースの手法などを学ぶ機会なども作りたいと思っています。

イメージ 「シティプロモーション通信」という庁内向けの啓発資料

イメージ 「シティプロモーション通信」という庁内向けの啓発資料

やりがいについては、前職のスポーツチームに所属していた時の感覚に似ていますが、ファンの皆さんが楽しむ姿を見ながら、同じ時間を共有できたときに大きなやりがいを感じます。昔とは立場が変わりましたが、今の仕事は、その瞬間を切り取って、まちの魅力として伝える仕事だと思っているのでやりがいを持って仕事ができていますね。

あとは広報部門に来てから「デザイン」という言葉の可能性を強く感じるようになりました。「デザイン」は狭い意味でとらえれば「モノの姿や形」ですが、元々の語源である「計画する、立案する、企てる」といった部分まで広げれば、事業の軸をつくりながら、人を束ね、共感をつくり、行動を促すことができます。

これは聞いた話ですが、「隣の席と仕切られたラーメン屋で、のれんの下からラーメンが出てきて、スープを飲み干すとどんぶりの底にメッセージが書いてある」という体験ができるあのお店は、全てがつながっている「デザイン」なんだという話を聞いて、なるほどと思ったことがあります。こういった体験をデザインする視点を自治体の広報担当から行政職員に広げることができれば、一つ一つの業務にもっと多角的なアプローチができて、おもしろいアイデアが生まれるのではないかと感じています。

今、シティプロモーションとして取り組んでいる市の産品をブランド化する事業でも、このデザインアプローチを意識しながら事業構想やコンセプトをまとめたり、興味を持った学生にフィールドワークとして関わってもらう仕組みをつくったりしています。この事業の目的には、農業の担い手不足などの課題解決や、地産地消の拡大、事業者間のマッチングなど、農・商・工の分野をまたがる課題を設定していますが、デザインの可能性を信じながらチャレンジしていきたいと思います。

イメージ 興味を持った学生にフィールドワークとして関わってもらう

イメージ 興味を持った学生にフィールドワークとして関わってもらう

最近、広報職員は「羅針盤を持った船頭」のような役割ではないかと考えるようになりました。今まさに心強いメンバーが集まりつつあって、そのメンバーのおかげで船に乗る人が増えたりもしながら、楽しい船旅が始まったような感覚でいます。10月からはシティプロモーション活動に協力してくれる民間企業などを「サポーター」として認定する事業も始まる予定なので、もし興味があれば市のホームページをのぞいてみてください。

楽しむという心や、好きという気持ちは人それぞれですが「まちの未来に向けて行動したい」という考えは多くの人が持っています。シティプロモーション推進方針の未来像にも掲げている「みんなのファンを、このまちのチカラに」という言葉のとおり、皆さんの力を借りながら、私自身もより良い未来を目指す旅を楽しみたいと思います。

【次回のコラムの担当は?】

千葉県流山市 秘書広報課広報係 斉藤勇希さんです。

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