組織は自分を必要としているか、自分もその組織を求めているか

自動車用点火プラグなどを製造する日本特殊陶業の深尾奈美さんは、同社で採用責任者を務めていた2021年、突然異動の打診を受けました。新たなポジションは「コーポレートコミュニケーション室長」。長年、人事のプロとしてキャリアを積んできた深尾さんにとっては寝耳に水の出来事だったそう。これまでと異なる業務に悩みつつも、受け入れることを決断。そこにはどんな思いがあったのか、マスメディアンのキャリアコンサルタント・荒川直哉がインタビューしました。

 

※インタビュー内容、役職、所属は取材当時(2024年6月)のものです。

【前回はこちら】思いがけない「人事」への異動が自分の市場価値を高めてくれた

経験ゼロの広報リーダーが誕生

──現職への入社前に転職活動をしている時、人事のプロフェッショナルとしていくつか選択肢があったと思います。日本特殊陶業への入社を決めたのはなぜですか。

いわゆる従来型のオペレーション的な「人事部」ではなく、戦略的な人事を目指す「戦略人事部」を目指していたからです。私は前職で働いていた時にMBAを取り、経営戦略を人事戦略にアラインする重要性を学びました。でも、それを実際にやろうとしている企業は少なく、経営戦略と人事戦略は別々に存在することが多い。そんな中、日本特殊陶業は「戦略人事」をまさに部署名として入れていました。そこに会社の強い意思を感じたというか。私が理想とする人事像とオーバーラップしたんです。

──そんな深尾さんが、なぜ広報に携わることになったのでしょうか。

入社当初は、採用マネージャーとして学生向けの採用広報も強化していました。当社は愛知県に本社を置く会社なので、地元で会社説明会を開くとたくさんの学生が集まってきてくださいます。でも、関東や関西に行くと知名度さっぱりで人もなかなか集まらない。

「東海圏以外ではこんなに知名度が低いのか」とがく然としました。ただしこれは、採用広報だけでは解決できない。企業広報全体の強化が必要だと思い、経営陣に話をしたところ、広報部署への異動になりました。

写真 人物 深尾奈美氏

日本特殊陶業 グローバル戦略本部 コーポレートコミュニケーション室長
深尾奈美(ふかお・なみ)氏
大学卒業後、食品メーカーで人事、商品開発を担当。人材紹介会社でキャリアコンサルタントを経験したのち、2007年より機器メーカーの採用・教育を担当。2013年よりIT企業で人事企画グループマネージャーを務め、MBAを取得。2019年に日本特殊陶業に入社し、教育・採用責任者に。2022年より広報部門の強化を目的として、現職に就任。20人ほどのチームを率いている。

──ずっと人事としてキャリアを築いてきて、2019年に日本特殊陶業に入社後も人事としての活躍が期待されていた。気持ちの切り替えはできました?

いえ、正直すぐには切り替えられませんでした。打診を受けたときは「少し考えさせてください」と。これから先の人生も人事のプロとして生きていくつもりでしたし、「40歳を過ぎて、全く経験のない新しい仕事は難しいのではないか?」「期待されているのに期待に応えられなかったらどうしよう」とか、少し悩みましたね。

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荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)
荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

荒川 直哉(マスメディアン 取締役 国家資格キャリアコンサルタント)

マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。

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