これらのイベント開催中には多くの方とともに、多くの知見にも出会います。ただ、出会う知見はいつも新しいとは限りません。海外からの事例なのに、日本でおなじみのことを感じたりもします。私は、世界中で同じようなことをしている、と気づくことは、まったく新しいことに出会うことと同様に、意義があると思っています。日本にいる自分の現在地がよりわかってきます。
筆者は、コミュニケーション・広報のコンサルティング会社Key Message International(KMI)の代表取締役をしています。昨年同様に、これまで国内/外資のファームなどで積んだ、デジタル・グローバルな広報・PR経験をふまえながら、グローバルPR市場からの知見や課題を独自の視点からお伝えします。
もう目が離せない国、インド!
さて、もちろん、インドはむこう数十年、大注目の国です。
ガンジス川のほとりにて(筆者撮影)
路傍で昼寝をする男性(筆者撮影)
人口世界第一位の国インドの喧騒(筆者撮影)
アーグラ城塞から眺めるタージ・マハル廟(筆者撮影)
昨年にインドの人口は中国を上回って、世界人口第一位になりました。その人口は国連によれば、14億人以上。2060年前後までには17億人前後に伸びる見込みとのことです。インドの人口構成は、3人に1人が10歳から24歳で、15歳から64歳の生産年齢人口や消費者人口が増える「人口ボーナス期」が、30年間近く続きます。
国民総生産(GDP)は現在、日本に次いで世界第五位。国際通貨基金(IMF)によれば、来年は日本を抜いて第四位、その額は4兆3,398億ドルに達する見通しです。2027年にはドイツを抜いて、世界第三位になるとのことです。
そんな大注目の国インドで、9月20日から25日にかけて広報・PR関連の国際イベントが二つ立て続けに、しかも同都市で開催されました。その都市とはプネー(Pune)です。インド西部、マハラシュトラ州の州都ムンバイ(旧ボンベイ)から約170キロ南東(車で3時間程度)、ITや自動車産業が集積した同州第二の都市です。
夕闇にたたずむプネーの街並み(筆者撮影)
ビジネス界隈からは隔たった住宅区(筆者撮影)
プネーの街角(筆者撮影)
PRAXIS 2024について
一つ目のイベントはPRAXIS 2024(プラクシス2024)です。今年のテーマは、「基本に立ち返る――文化、コミュニティ、クリエイティビティ」でした。
開演間際のPRAXIS 2024会場(筆者撮影)
参加者全体集合写真(PRAXIS 2024運営社提供)
登壇したインドの有名俳優(PRAXIS 2024運営社提供)
PRAXIS 2024会場の様子(PRAXIS 2024運営社提供)
PRAXISとは、Public Relations And Corporate Communications India Summitの頭文字をとったものです。レピュテーションマネジメント(ここでは広報・PRとほぼ同義)の専門家や実務家が集う、世界最大規模の祭典です。サミットは2012年11月に誕生し、毎年インドのさまざまな都市を巡回しています。主催者は、さまざまな組織から集まった数十人のボランティアで構成されています。
PRAXISの目的は、同好の士が集い、学び、分かち合い、交流する場を提供すること。ラテン語でPRAXISは「行動する」「実行する」を意味します。数日間にわたるサミットには、主にデリー、ムンバイ、コルカタのインド三大都市圏から500人以上のプロフェッショナルが参加し、インド国内外から招待された講演者の話へ耳を傾けます。
PRAXISはインドを拠点とする多くの大手PR会社の支援を受けています。参加者は、コミュニケーション・ディレクター、PR会社のCEO、コンサルティング会社や社内企業の中間管理職、その外注先の代表者などが中心です。参加者の多くは同じホテルに宿泊しながら親睦を深めます。インドの有力な広報・PR関連誌「REPUTATION TODAY」は、このPRAXISから誕生しました。
PRAXISの運営責任者の一人、アミス・プラブは、「PRAXISを開催し、プロフェッショナルのコミュニティが毎年ひとつになる姿を見ることは喜ばしく、達成感を覚えます。今年は11カ国から参加者があり、本当に思い出深いものとなりました」と、コメントしています。筆者は日本から唯一の参加者でした。
PRAXIS 2024運営責任者の一人、アミス・プラブ(Amith Prabhu)氏(PRAXIS 2024運営社提供)
PRAXIS 2024入場登録を済ませる筆者(写真中央奥)(PRAXIS 2024運営社提供)
もう一つのイベントが、IPRN AGM 2024です。IPRNとはInternational Public Relations Networkの頭文字をとったものです。日本語では「国際的PRネットワーク」です。AGMとはAnnual General Meetingの頭文字をとったもので、日本語では「年次総会」にあたります。
IPRN AGM 2024参加者登録ページ(筆者によるスクリーンショット)
IPRN紹介動画の一コマ(筆者によるスクリーンショット)
IPRNの設立は1995年。2024年10月現在、世界30カ国以上から、50以上のメンバー会社や個人が、100以上の大都市で活動する規模の組織に成長しています。独立系のPRに携わる会社や個人による国際的ネットワークとしては、世界最大級とのことです。
ちなみに今年はインドのプネー、昨年はプエルトリコのサンファン。その前はというと、順に2017年までさかのぼると、コロンビアのカルタヘナ、ポルトガルのリスボン、コロナ禍でのオンライン、ポーランドのワルシャワ、中国の北京、ロシアのモスクワなどで開催されてきました。
以下、IPRNの代表であるロドリゴ・ヴィアナ・デ・フレイタス氏からのコメントです。
「9月にインドのプネーで開催された年次総会は、世界でも有数の新興経済国の文化に浸るまたとない機会となりました。三日半の間、世界各国から集まった会員たちは、優れた事例、新たなビジネス機会、コミュニケーションのトレンドなどについて議論しました。また、参加者たちのビジョンは、イベントをより特別なものにしました。」
IPRN代表のロドリゴ・ヴィアナ・デ・フレイタス氏(筆者撮影)
AGMでは、組織の運営に関わる事項についての議論に続いて、全世界の所属メンバーが応募したPRのグッドプラクティス(好事例)の中から、さらにセレクトされた十数例が発表されます。本コラムでは、その中からさらに選りすぐりのグッドプラクティスを紹介していきます。
IPRN AGM 2024にて筆者の席から見た会場(筆者撮影)
IPRN AGM 2024参加者(その一部、オンライン参加メンバーなどを除く)(IPRN提供)
グローバルな共通項としての「広報・PR」?
「広報・PR」というものがもしグローバルな共通項、ひとつの定数だとしたら、変数として、市場や社会、文化や言語などが、より浮き彫りになるように思います。一方で変数から見てみると、共通項としての「広報・PR」の共通性が、ゆらいでいるように感じることもあるのです。
国際的なイベントに参加することで、グローバルな視野に立って、日本で「広報」に関わる自らの現在地を確認できる経験は貴重です。共通点と差異、予定調和と予定不調和、双方を実感できることには、大きな意義があると思います。
イベントのあとに残るものは、新しい知見、新しい人間関係、新しい仕事、そしてこういった記事かもしれません。多くの読者の皆様にとっても意義あることを切に願いつつ、コラム連載を続けていきます。
第二回は、インドのPRマーケットの特徴や傾向、日本との比較について、お届けいたします。どうぞご期待ください。