本コラムでは、インドの都市プネーで開催された二つの広報・PR関連の国際イベント、「PRAXIS 2024(プラクシス2024)」と「IPRN AGM 2024」へ、筆者が現地参加した際に得た知見や抱いた所見を読者のみなさまにお届けします。昨年、プエルトリコの首都サンファンで実施されたイベントを元にした同シリーズは、こちらです。
これらのイベント開催中には多くの方とともに、多くの知見にも出会います。ただ、出会う知見はいつも新しいとは限りません。海外からの事例なのに、日本でおなじみのことを感じたりもします。私は、世界中で同じようなことをしていると気づくことは、まったく新しいことに出会うのと同様に、意義があると思っています。日本にいる自分の現在地がより分かってきます。
筆者は、コミュニケーション・広報のコンサルティング会社Key Message International(KMI)の代表取締役をしています。昨年同様に、これまで国内/外資のファームなどで積んだ、デジタル・グローバルな広報・PR経験をふまえながら、グローバルPR市場からの知見や課題を独自の視点からお伝えします。
ヘマン・ゴール氏が語るインドのPR市場とは?
連載第2回目はインドのPR市場について報告します。筆者がインド滞在中に築いたネットワークを通じて、インド国内で唯一の広報・PRを専門とした大学院であるSCoRe(School of Communications & Reputation)の学長、ヘマン・ゴール(Hemant Gaule)氏に取材させていただきました。
ヘマン・ゴール氏の近影(ゴール氏提供)
SCoReの授業風景(SCoRe公式サイトから筆者によるスクリーンショット)
インドのPR市場/業界の独自性とは?
インドのPR市場は、3つの異なる現実が共存し、しばしば絡み合って織り上げられたタペストリー(つづれ織りの壁掛け)のようです。
第一に、言語と文化の驚くべき多様性です。22以上の公用語と無数の方言があり、インドの言語環境の多様さは文化遺産とも言えます。この多様性は画一的なアプローチが通用しないことを意味します。つまりインドでは、多様な各言語・文化集団に響くようにメッセージを調整する必要があるのです。
例えば、インドは世界最大の英語人口を抱える国であるにもかかわらず、広く読まれている新聞トップ10のほとんどは、地方言語によるものです。これは、地域メディアの重要性を浮き彫りにしています。つまり、読者に効果的にリーチするためには、英語のプラットフォームを超えたPR戦略の必要性を示しています。
次に、インドはグローバリゼーションと自文化復興との岐路に立っています。国民の一部がグローバルなトレンドやテクノロジー、国際的な価値観を急速に受け入れている一方で、土地に根付いた文化や伝統を保護、促進しようとする動きも同様に強くなっています。この二面性は、両方の感性に訴えかける戦略を練らなければならないPRの専門家にとって、ユニークな課題となっているのです。
加えて、インドは生産年齢人口世界一を誇り、ネット接続が世界で2番目に多い国でもあります。若者の人口が多いだけでなく、オンラインへの関心も高いため、デジタル・プラットフォームはPR活動にとって重要な手段となっています。インドのPR市場のユニークさは、言語的多様性、文化的二面性、デジタルへの精通といった多様な特徴を、まとまりのある効果的なPRキャンペーンに調和させる必要性にあるのです。
インドの手織りカーペット(筆者撮影)
インドPR市場の課題と機会とは?
課題は、「think local, act global(ローカルに考え、グローバルに行動する) 」というマントラ(サンスクリット語の聖なる言葉、真言)に集約されます。PRの専門家は、文化的なニュアンスを鋭く理解した上で、オーディエンスをセグメント(細分化)しなければならない。そのためには、単にメッセージを翻訳(translation)するだけでなく、メッセージの核となる意図を失うことなく、メッセージのエッセンスを文化的文脈に適合させるトランスクリエーション(transcreation)=クリエイティブな翻訳が必要です。文字通りの意味でも比喩的な意味でも、オーディエンスが使う地方言語を話すように、コミュニケーションすることが重要です。オーディエンスが進化していくのにつれて、コミュニケーションの声も進化させ、関連性や共鳴性を確保しなければなりません。