「日本の広告費2023年」(電通調べ)によると、ラジオの広告市場は1,139億円で、前年比100.9%。新型コロナが直撃した2020年に1,066億円まで落ち込んだ後は、少しずつ持ち直しています。
「radiko」などを活用した、デジタルオーディオアドの開発に注力する放送局もありますが、ラジオならではのマネタイズ法として、古くから親しまれてきたのが「ラジオ通販」です。EC全盛期に、ラジオ通販にどのような価値があるのか。なぜ、リスナーは声のコミュニケーションだけで時に高額の商品の購入を決めるのでしょうか。ラジオ通販で50年近くの実績を持つニッポン放送の担当者に話を聞きました。
※本記事は情報、メディア、コミュニケーション、ジャーナリズムについて学びたい人たちのために、おもに学部レベルの教育を2年間にわたって行う教育組織である、東京大学大学院情報学環教育部の有志と『宣伝会議』編集部が連携して実施する「宣伝会議学生記者」企画によって制作されたものです。企画・取材・執筆をすべて教育部の学生が自ら行っています。
※本記事の企画・取材・執筆は教育部修了生・黒田恭一が、また取材には佐藤良佑、石崎正文が参加しました。
「しゃべりだけで画を見せたい」 原稿はあってもパーソナリティがアレンジ
――ニッポン放送の通販コーナーである「ラジオリビング」は、1976年4月に「あおぞらリビング」という名称でサービスを開始したそうですね。テレビ通販、さらにECが全盛となる中で、ラジオ通販が選ばれる理由はどこにあると思いますか。
和久井:ラジオ通販の魅力とは商品を紹介してくれるパーソナリティの力の賜物、その一言に尽きます。ラジオですから当然、画はありませんが、早朝番組の上柳昌彦(注1)は、「しゃべりでリスナーの頭の中に映像を浮かべてもらうことを心掛けている」と言っています。
基本の原稿はありますが、実際の放送ではパーソナリティが自分の感情も込めて、リスナーの皆さんへ商品について説明していきます。しゃべりだけで商品イメージをリスナーの方に持っていただくため、「自分が使ってみての感想」や「実際に持った時の重さ」、あるいは「商品開発の背後にある物語」などを加えていくのです。
これがテレビだと映像がありますので、テロップなども使えますが、ラジオの場合には、パーソナリティの味付けが購入に結び付いていると感じます。
――パーソナリティが実感したことを伝えることで、説得力が増しますね。
和久井:どの番組でもそうなのですが、例えば午後の『ザ・ラジオショー』では、オープニングの30分がフリートークです。そこで、「昨日何があった」とか「誰がどうした」とか、いわゆる井戸端会議のようなプライベート話が続きます。こうした話を習慣的に聞いていると、リスナーがパーソナリティに対して、「時々、井戸端会議をするご近所さん」みたいな親近感を抱いてくださるようになります。そういう親近感、信頼感がベースにあるからこそ、音だけのコミュニケーションであっても、購入に際しての安心感につながっているのだと思います。
【ラジオリビングのwebサイト】