「女性活躍というお仕着せの言葉に縛られない、自由な働き方を」オリコム中島明美社長、場づくりに尽力

性別や人種、年齢などの区別なく「一人の人」として活躍の場が広がっていくことが期待されている現在。新たな社会の潮流を生み出す、広告・メディアビジネスの世界で活躍するリーダーたちは、どのような考えで挑戦を続けているのでしょうか。本稿は広告会社オリコムの中島明美社長にインタビュー。試練に揉まれ、手探りでキャリアを積み重ねてきた、中島社長が目指すキャリアの理想郷とは?

写真 人物 中島明美氏

中島明美氏

オリコム
代表取締役社長

(なかじま・あけみ)東京都出身。1988年4月オリコミ(現オリコム)入社。 企画制作本部コミュニケーションデザイン局長、企画制作本部長を経て、2017年から取締役。 2019年4月から2022年3月まで、プロモーションやクリエイティブ、デジタル、R&Dなどの領域を統括する統合プランニング本部長を兼務した。2023年4月より現職。新潟大学法学部卒。

中島社長のキャリアの軌跡
〇自力で長く働ける場所を求め、選んだのは広告会社
〇ロールモデルがいない中、粗削りにキャリアを積み重ね、管理職へ
〇クライアントに育てられ、切磋琢磨しながらスキルやノウハウを学んだ
〇固定観念を外し一人ひとりが自然体で力を発揮できる土壌づくりに尽力
〇難しい状況に臆せず、「人をまん中に」面白がって前へ進む集団を目指す

長く働ける場所を求め、選んだのは広告会社

――中島社長が広告会社で働くことを選んだ、その決め手は何でしたか?

中島:下町生まれ下町育ちで、私の周りに会社勤めの人はいなかったんですね。職人と商人の町。そこに女も男もない、みんな働いていた。だから物心ついた時から、自分は何で食っていくのか、それしかありませんでした。

「大学までは行かせてやるから好きにしろ」と言われて、法学部に行けばつぶしが効くかなと思ったものの、入ってみたら向いていなくて、とにかく自分に向いていそうで長く勤められる仕事は何か、そこをぶらさずに業界を比較検討する中で、一番関心が向いたのが広告界。

せっかく働くなら、世の中をすこしクスッとさせられるような、アイデアでお金がもらえて、考えることで商売になる仕事がいいなと思いました。するとラッキーなことにオリコムに拾ってもらい、マーケ部門で入社が決まり、モチベーションが一気に高まりました。

――入社する前と後で、キャリアイメージのギャップはありましたか?

中島:広告の仕事に対する期待値はあったものの、果たして本当に自分が思い描いた働き方ができるのだろうかと、懐疑的ではありました。当時は男女雇用機会均等法が施行されたばかり。自分が受け入れられるのか、ちゃんと扱ってもらえるのか、そればっかりでした。自分は仕事をしに来たんだとイキってましたね、完全に。ロールモデルなんて発想はなかったです。いないんだから。

マーケ部門で良かったのは、いわゆるバブリーな飲み会が一切なかったことですね。新人の頃、他部門の飲み会要員にもカウントされず、これ幸いと仕事ができた。意味が分からない、女性だけの職場の習慣は、何でこうなっているのか聞きまわって、やるのをやめた。「女の子はワープロは一日3時間までだよ」と上司に言われたので、頭にきてその日は徹夜。今思えば大分酷い。良い関係もあったもんじゃない(笑)。もう少し、周囲に優しかったら良かったかもしれないです(笑)。

クライアントから学び育てられた

――管理職へとキャリアアップする過程で、ご自身の支えとなったものは何でしたか?

中島:クライアントにはすごく育てられたと思っています。マーケの本分は、お客さんの事業を成功させること。お客さんの商品、売り場、顧客、そういうものをつぶさに見て、市場変化に対してどう応えていくか。ここに、とことん向き合うことでキャリアを伸ばしていくことができました。

お客さんと飲むのは大好きでしたし、育休明けも、時には保育園のお迎えに直行するため、ママチャリでお客さんのところに行ったりしていました。お客さんも夕方にアポを入れてくれたり、仕事を続けるためにたくさん助けて頂きました。スキルやノウハウは、内部の人はもちろん、仕事を依頼していたリサーチ会社や外部のコンサル、クリエイター、様々な外の人たちからも学ばせてもらいましたね。

管理職に就くとは思ってもいなかったので、マネジメントの心得は社内外の先輩に相談しながら、組織運営に問題が起きる度に、ひるみながらも必死で対処してました。それと、当時の部下でものすごく勉強する社員がいて、マネジメントや人材育成についての気になる記事やコンテンツ、セミナーを逐一共有してくれた。彼から教えてもらって、外で学ぶ機会も持ちました。

そのうち、マーケターとしての経験を、自社の推進のために活かせば良いのでは、と思うようになりました。対象を理解する、全体最適を考える……、今振り返ると、あらゆるところで人に助けられたなと、しみじみ思います。

仕事で挫折感を味わってもここでまた頑張りたいと思える会社にしたい

――仕事をする中で、失敗をして落ち込んだりすることもあるかと思うのですが、そんな時はどのようにケアされていますか?

中島:もういいか、と思うまでとことん落ち込みます。ちょっと人に当たったりもするけど、小出しにね(笑)。実は、結構気にして、くよくよしちゃう性格なんです。それで「宇宙レベルだと塵以下だな。大したことない」と思い直したり、でもまたくよくよしたり。その繰り返し。それをやってるうちに「もういいや!」となって、忘れていく。社長に就任した時に、別の会社の社長から受けたアドバイスは「終わったことは気にしない」ということ。やっぱりな、と思って共感しましたね。

――逆に、身近で落ち込んでなかなか立ち直れない人に遭遇したら、「頑張れ」などと声をかけて励ましたりしますか?

中島:他人の気持ちや事情を知りもしないで、「頑張れ!」「できる!」などと直接的な関与をするのは傲慢だと思っていて。やっぱり一度はとことん落ち込んだらいいと思うんです。それで開き直って次の一歩を踏み出そうとした時に手伝うことがあれば喜んで助けます。冷たいのかもしれないけど、声かけより見守るほうかな。手を貸したところで「これで良かったのかな」といろいろ考えてしまうから。

――関与しすぎると干渉になってしまいかねない、と。

中島:社員が失敗して落ち込んでも、立ち直って新たな気持ちで仕事に取り組もう、と前向きになってもらえるような会社にしていきたいなと思います。本人の仕事に対して持っている“軸”と会社の方向性が一致していれば、どんな状況に遭遇しても、きっと自分の力を発揮できるのではないかと。何もしないより、何かやってみる。やってダメでも、また考えてやってみる。そうするうちに、いつか仲間が増えている。そういう場所でありたいです。

写真 人物 中島明美氏

「活躍」を押し付けず、誰もが自分らしく働き、力を発揮することで会社は前進する

――現在、ジェンダーギャップ解消の取り組みの例として、女性活躍推進法の施行や、企業では女性の管理職への起用などが代表的なものとして挙げられますが、こうした活動についてどう思われますか?また中島社長が必要だと思う取り組みはどんなものでしょうか。

中島:ジェンダーという言葉を出した途端に、つい身構えてしまう人がいるほど、まだまだ日本では難しい問題だと感じます。私は自身のキャリアにおいて、降りかかってきた理不尽にはいつもぶつかってきました。女性だからと括られて、私個人を見てくれないことに反発してきました。ただもう今は、「括ること」や「レッテル」そのものの基準や意味を疑わないといけない時代になっているように思います。

データやデジタルの時代だからこそ、人間自身の力が問われる場面が多くなっています。性別とか年齢とか関係なく、フラットに一人ひとりの力が発揮できるように力を尽くす、それが会社の競争力になるように仕向ける。それが経営の姿だと思っています。

「女性活躍」という言葉は個人的には嫌いで。そもそも活躍するかどうかを人に決められるなんて、余計なお世話だと思いません?補助にしたり機会均等にしたり活躍といってみたり。透けて見えますよね。そうした押し付けがましい言葉に頼らず、本当に自分らしく働き、成長し、それが組織の力となるような環境や仕組みを作る。人を育てる。それだけだと思うんです。うちは決して大きな規模ではないので、それをつぶさに、地道にやる。とはいえ、それができているのか。難しい……。

――オリコムをどんな会社にしていきたいとお考えですか?今後の抱負をお聞かせください。

中島:世の中に一つでも多くの「良い関係」を創造する、それが私たちの理念です。だからこそ、長い歴史で培ってきた良い部分を活かしながら、この変化の激しい時代に、存在価値を発揮していきたいと考えています。

イメージ ロゴ 刷新したオリコムの企業ロゴ。

刷新したオリコムの企業ロゴ。

10月に新しい企業ロゴに変えたところなのですが、その根底には「人がまん中にいる会社」という思いがあります。古い固定観念に縛られず、自由に、この難しい世の中を、面白がって前に進む集団でありたい。誰かが作った神輿に乗る時代は終わり、仮説も目的もないまま他の誰かに振ることを、もう仕事とは呼びません。自分で考え行動し、率直に意見を出し合い、周りを巻き込むことで1+1を3にも4にも5にもする。そんな集団としてクライアントに向き合い、社会に責任を果たせる存在にしていきたい。その第一走者になれればと思っています。

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