博報堂は、複雑化するクライアント課題への解決策提供の一環として、ブランドデザイン・コンサルティング機能を強化している。2024年4月にはグループの「博報堂コンサルティング」(東京・千代田)に博報堂ブランド・イノベーションデザイン局などの機能とスタッフを統合し、80人体制に。今後も人材採用などでさらに拡大していく計画だ。
博報堂コンサルティングはブランド領域に強みを持つコンサルティングファームとしてすでに20年超の歴史があり、独自のポジションを確立している。このたびの新体制は、「生活者発想」「クリエイティビティ」など博報堂グループの哲学や強みを生かしながら、独立性を持ったコンサルティング機能を集約、先鋭化させていく試みともいえそうだ。
博報堂コンサルティングのエグゼクティブマネジャー・宮本祐也氏とシニアマネジャー・川口真輝氏に、体制強化の狙いや同社が考えるブランド経営について聞いた。
コンサルティング機能強化に込められた狙い
――まずは、新生「博報堂コンサルティング」についてご紹介ください。
宮本:博報堂コンサルティングは2001年の設立以来、ブランドコンサルティングに特化して800件以上のプロジェクトに携わってきました。クライアントは大手企業を中心に、省庁や地方自治体にもサービスを提供しています。
コンサルティングファームにはそれぞれの得意分野や強みがありますが、ブランド領域では規模も歴史も国内最大手の一つだといえます。
博報堂コンサルティング エグゼクティブマネジャー 宮本祐也氏
川口:博報堂グループは、これまで培ってきた広告事業からの領域拡大の柱の一つとして「コンサルティング」を位置付けました。もう一つの軸である「ブランド」は、長年、博報堂グループが強みとしてきた領域です。それらの結節点である「ブランドデザイン・コンサルティング」への注力と強化を掲げました。
そこで、博報堂コンサルティングに、博報堂でブランドおよびイノベーションのデザインやコンサルティングを担ってきたメンバーを統合しています。それにより、博報堂グループならではの経営課題解決と生活者価値創造を実現する「ブランドデザイン・コンサルティングファーム」をつくろうというのが、新体制の狙いです。
ブランドが企業価値の向上に直結する
――「ブランディングは経営トップの仕事」とよく言われます。改めて、経営がブランドにコミットすべきと考える理由を教えてください。
川口:ブランドについては、これまでマーケティング文脈で扱われることが多くありました。近年では、企業や事業にとってのブランドの役割は拡大しており、経営アジェンダになっています。
ブランドは、企業や事業と様々なステークホルダーとの約束であり、求心力と遠心力を生むものです。低成長時代にあって、経営者にとっての課題のひとつに挙げられるのは、いかに企業価値を高められるか。有形資産だけでなく、無形資産も含めて企業価値を積み上げる必要があります。
企業が存在意義としてのブランドパーパスを定め、生活者、従業員、株主や地域社会の体験を描き、関係を結び直し、価値創造プロセスとして仕組みにすることが求められます。
ブランドは、企業に対するステークホルダーの信頼や期待を高める重要なものです。ブランドをデザインし、価値創造のために仕組み化することは、経営や事業運営そのものともいえるのです。ブランド経営が求められる時代になりました。
博報堂コンサルティング シニアマネジャー 川口真輝氏
宮本:2010年代半ばから「パーパス経営」という言葉が聞かれるようになりましたが、上場企業でパーパスを掲げているのは5~10%程度。多くの企業はいまだに企業の存在意義や、社会との約束を十分定められていません。また、ブランドパーパスを定めただけで、それを経営の仕組みの中に落とし込めていない企業も多く、有言不実行のパーパスウォッシュだという批判も聞かれます。
今の時代、生活者は意味を求めます。「なぜこの企業と関わるのか?」という問いに答えるために、経営はブランドパーパスを定めて、ステークホルダーに対する約束を表明すること、約束を履行することが求められているといえるでしょう。
課題発掘から未来構想、実施の橋渡しまで
――クライアントからどのような相談を受けることが多いですか。また、その課題をどのように解決に導いていますか。
川口:ご相談はあらゆる業種の企業や組織からいただいています。経営トップが変わるタイミングや、中計策定、M&Aや企業の統廃合、企業の周年、事業環境の変化などがきっかけになっています。企業や事業の意味をどう捉えて展開していくのかといった、経営視点で企業や事業を根本から見直すための相談を受けるケースが多いように思います。
博報堂コンサルティングの考える「ブランド経営」
ブランド経営とは、ブランドパーパスを軸にステークホルダー視点で経営すること、あるいはその仕組みをつくること。企業の本質としてのブランドパーパスを明らかにするだけでなく、ステークホルダー視点の体験に落とし込み、それを機能させる経営の仕組みづくりが重要です。
宮本:ほかにも、歴史のある企業が再び成長していくにあたってブランドを起点としてステークホルダーにきちんと選ばれる仕組みをつくりたいといった話もよくあります。新規事業系の部門の方からは、新規事業を内製で立ち上げようとしてもうまくいかない、立ち上げてはみたもののどうしていいかわからないといった際にブランドが軸になることも多いですね。
結局のところ、多くの日本企業では組織のサイロ化による機能不全が大きな課題になっているのではないでしょうか。ステークホルダーの要請に基づいてバラバラと個別の仕組みをつくり続け、全体が統合されないまま何も生むことができていないように見えています。クライアント企業からご相談を受ける際、起きている事象だけではなくその裏に潜む文脈やナラティブを解きほぐすようにしています。対話やディスカッションを通じて、本当の課題を見定めてからご提案するようにしていますね。
論理と感性、異なる視点を持つことが強み
川口:我々の独自性は、経営と生活者の視点を行き来できること。異なる視点と様々な専門性を持ったメンバーがチームとなり、いろいろな角度から問いかけ、この企業や事業はどういう未来を描けるのかという仮説構想を広げることができます。生活者と社会の洞察を踏まえた、構想力や未来を描く力は広告事業で培ってきたものがあります。コンサルティングで磨いてきた戦略構想力や経営洞察力とともに、クライアントにはコンサルティングとクリエイティビティの合わせ技に期待していただくことが多いです。
宮本:我々は論理と感性をどちらも大事にしています。戦略を立てるコンサルティングファームと、アイデアを生んで形にしていくデザインファームの懸け橋となる存在はほとんどいないのですが、我々はそこを一貫して対応できることも強みだと思います。特にブランド経営には、企業経営の仕組みに対する洞察力や、生活者における価値創造の視点など、非常に複雑で多様な視点が求められます。我々は、その両軸を行き来する稀有な存在だと自負しています。
博報堂コンサルティングの独自性
博報堂コンサルティングは、企業と多様なステークホルダー双方の視点を行き来しながら、経営としてのブランドづくりを支援する点に独自性があります。
――今後の展望をお聞かせください。
宮本:ブランドデザイン・コンサルティング領域には、まだまだ成長の余地があると考えています。そのため、博報堂DYグループとしても博報堂コンサルティングとしても、この領域をもっと拡大し、数カ年で人員も売上規模も大きくしていきます。ブランドの力で、生活者と企業をむすび、より大きな社会的価値を生み出していきます。
個人的には、コンサルティングサービスの質を高めていくことで、もっと他社にはないサービスが提供できるようになるのではと考えています。経営にリベラルアーツと呼ばれるような人文知や倫理観を埋め込んでいくといったような、より今の時代に沿った経営を実現できるようなサービスを提供していきたいですね。
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