自分の尺度のつくり方のヒント
本書は、クリエイター50人それぞれの視座の在り方とその源泉を紐解いていくもの。どのページも、個人的で深く純度の高いエピソードが並ぶ。デザインを自分の手で、自分の尺度でやりたいと思っている人には、ぜひ読んでいただきたい。
教科書どおりでなくて良い。教えられる通りでなくて良い。自分の尺度のつくり方のヒントがあると思う。各者各様の視点や着眼点、ブレイクスルーとなった原体験の数々を読むうちに、自分なりの発見があるのではないだろうか。
最初は誰もが「まなぶ/まねぶ」ところから始まるのである。まねを昇華させ、自分のものとする。感覚を磨きながら、技術的にもそして人間的にも成長を続けるのが理想である。自分が影響を受けたもの、学んだものからのつくり方と広げ方。それは生き方かもしれない。
現代的な意味でのいわゆる「デザイン」というものの歴史は浅い。昭和初期の日本では、「デザイナー」より「図案家」の方が一般的だったでしょう。それ以前は「図案」「意匠」「装飾」「文様」などがそれにあたるか、近いもので「美術」「アート」との違いも曖昧だったはず。
日本語の文字組だって不思議なもので、本来縦書きだった文字を横に組み、それが今では当たり前になっていたりと、「デザイン」の当たり前も時代によってどんどんと変わってゆく。だからこそ自分なりのデザインの見方で、自分なりのやり方でデザインすることが大事だと思っている。
『日本の文様』光琳社出版(1970)。
本書の西川圭さん(サントリーコミュニケーションズデザイン部 シニアデザインディレクター)の回「日本らしさの誤解を解いた文様のデザイン」では、「『日本の文様』を全30巻、まとめて購入。そして自宅に届いた本を見て、本当に驚きました。これまで自分が思い描いていた“日本らしさ”とは異なる、斬新な文様が数多く掲載されていたからです」「古いものを深く理解しようとした結果、表現の奥にある意味に意識が向き、私自身、思慮深くデザインするようになりました。そのきっかけは、間違いなく『日本の文様』です」と語られている。
そう。優れた作品は時を超えて、なお、人を刺激して優れたものを生み出す。ここにものづくりの美しい連鎖があるんだと思う。それぞれの時代で普遍、絶対と思われていた物差しを、自分なりにコレクションし、重層的に連ねることによって、本質を炙り出すことができるのである。ずっと学んできたデザインを捨てるわけではなく、過去から学ぶことでそれらをさらに強固にし、自分なりのリアリティを持つ。
良いデザインが、良いデザインを生む。デザインの輪廻。そうやって、今を生きるデザイナーが未来へデザインを紡いでいければと思っている。
「デザインの見方」の見方
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○登場者:浅葉球/粟辻美早/池澤樹/石井原/居山浩二/色部義昭/上西祐理/えぐちりか/大島依提亜/大島慶一郎/大塚いちお/岡崎智弘/柿木原政広/金井理明/河合雄流/木住野彰悟/北川一成/木村浩康/河野智/小杉幸一/佐々木俊/佐藤夏生/シマダタモツ/清水恵介/関戸貴美子/立花文穂/田中元/田中せり/田中千絵/田中良治/田部井美奈/丹野英之/戸田宏一郎/中野豪雄/中村至男/西岡ペンシル/西川圭/西田剛史/庭野広祐/野間真吾/浜辺明弘/菱川勢一/平野篤史/藤田重信/松田行正/三澤遥/八木義博/矢後直規/山田和寛/YOSHIROTTEN
○発行元:宣伝会議
○編集:月刊『ブレーン』編集部
○定価:2,200円(本体2,000円+税)