広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
神奈川県葉山町の宮崎愛子さんからの紹介で今回登場するのは、神奈川県厚木市の前場 渓花さんです。
Q1.現在の仕事内容について教えてください。
厚木市の広報シティプロモーション課に在籍して6年目です。主に広報紙の作成を担当し、月2回(1日号・15日号)発行しています。
毎月編集会議を行い、何を載せるかの企画や取材、撮影、執筆、編集、レイアウトなど全て職員が手掛けています。
Q2.貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。
市民の声を聴く広聴係と、市内外への情報発信を担う広報シティプロモーション係の2係があります。
課名が「広報課」から「広報シティプロモーション課」に変わったのは今年の4月です。プロモーションの仕事が大幅に増えたので、係内で業務を広報関係とプロモーション関係の2つに分け、広報紙の作成やホームページ、プレスリリース、LINEやインスタグラム、YouTubeなどのSNSの運営、広報番組や市外向けのPR動画の作成、魅力発信やフィルムコミッション…などを管轄しています。
広報シティプロモーション係の人数は係長含め8人と多い方だと思いますが、広報紙に関しては実質4人で担っています。
今年公開した子育て環境のPR動画。
Q3.ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。
厚木市の広報では代々、「市民の声を伝える」ことを一番大事にしています。
行政が伝えたいことをそのまま伝えると上から目線になりがちで、皆さんの興味を引くものにはなりません。「行政が伝えたいこと」と「市民の皆さんの関心のあること」の交わった部分を探すイメージで、同じ市内で暮らす皆さんの姿を届け、その姿を通して伝えたいことが伝わるように心がけています。登場する人が多いほど紙面を見てもらえる機会は増えるし、逆に誰も市民の顔が見えない広報はただのチラシと同じです。
紙面に使う写真や文章も、なるべく良いものを、目を引く写真を、伝わりやすい文章をと心がけているので、納得のいく一枚が取れるまで何度も現場に足を運んだり、ギリギリまで撮り直したり、入念にロケハンしたりします。原稿の素案を係内で供覧すると校正で真っ赤になります。そういう「伝えること」に対して妥協しないマインドみたいなものも、ずっと受け継がれていると思います。
職員の異動が毎年ある中で、一定のクオリティや、崩してはいけない理念のようなものを保ち続けるには、一人だけが頑張っても意味がないし、全員が共通認識を持っていなくては続いていきません。編集会議ではもちろん、常に「これどうかな」「どうしたらいいかな」など係員同士でたくさん会話するようにしています。
編集会議の様子。
Q4.自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性について教えて下さい。
外部とのやりとりよりも、内部で苦労することの方が多いです。発信する・PRするという考えがそもそもなかったり、お役所言葉にこだわったりする部署もあります。市民に伝えるよりも前に、同じ役所の中で意識共有ができていないと元も子もないので、全ての部署で広報的な視点を醸成することが課題です。
自治体の仕事では、仕事の成果が目に見えて形に残り、周りから感想を言われたり感謝されたりする仕事はあまりないので、やりがいを感じやすいと思います。取材に協力してくれた方に、「すてきな文章にしてくれてありがとう」「いろんな人に広報見たよって言われたよ」などと言ってもらえると、やっていて良かったなと安心します。
【次回のコラムの担当は?】
厚木市の友好都市、糸満市秘書防災課の上原盛太さんです。