ノーベル物理学賞受賞者から見通す、 生成AI “ChatGPT o1”の活用

生成AIの台頭により、業務の効率化が実現するとともに、メディアの在り方や、企業と人との接点のつくり方をも変えるような大きなインパクトが予測されます。マーケターは、これらの技術をどのように受け入れ、業務に生かしていけばいいのでしょうか。今回は、最新のAI“ChatGPT o1”の特徴を、今年のノーベル物理学賞と絡めながら富士通の山根宏彰氏が解説します。

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山根宏彰氏

富士通
研究本部 人工知能研究所
研究員

2024年のノーベル物理学賞とマーケティングの関係性

2024年、ノーベル賞でサプライズが起こった。ノーベル物理学賞がジョン・J・ホップフィールドとジェフリー・E・ヒントンに授与されたのだ。一見、物理学の受賞がマーケティングと何の関係があるのかと思われるかもしれないが、この受賞は現代のマーケティングにも関連する生成AIへの基礎を築いた功績に対するものだ。この出来事が示す意味を、今後のマーケティング戦略に活かすためにも、最新のChatGPTの機能も含めて概説したい。

ホップフィールドとヒントン、この二人のAI研究者の業績は1980年代に遡る。ホップフィールドは物理学の概念を応用し、パターンの保存と再構築が可能な連想記憶ネットワークを考案した。この技術は、現在の生成AIが不完全な情報から全体を推測する能力の基礎となっている。

一方、ヒントンは統計物理学の知見を用いて、ボルツマンマシンを提案した。これは、データの特徴的要素を自律的に学習できるシステムであり、現代の画像生成AIや自然言語処理の根幹をなす技術だ。特に、ヒントンの制限付きボルツマンマシンを多層化させる深層学習に関する後続の研究は、(さらにAlexNetを含む実績)GPT-3をはじめ、Midjourney、DALL-Eといった高度な生成AIシステムの開発を可能にした。

最新のAIモデルChatGPT o1の登場 長考するAIが持つ可能性は何か

さらに、OpenAIの最新のAIモデルであるChatGPT o1の登場により、AIの能力は新たな段階に突入した。これらの基盤技術をもとに、近年の生成AIは急速に進化し、マーケティングにおいても新たな可能性を提供している。o1は競争力のあるプログラミング問題で89パーセンタイルにランクされ、米国数学オリンピック(AIME)の予選で米国の上位500人の学生の中に入り、物理、生物、化学問題のベンチマーク(GPQA)で人間の博士レベルの精度を超えている

o1の強みは「思考の連鎖」にある。人間が難しい問題に直面したときに長考するように、o1も問題解決時に思考の連鎖を用いる。強化学習を通じて、o1は問題解決において、複雑な問題を小さく分けて考える能力を持ち、これにより戦略を効率化することが可能だ。間違いを認識し修正する能力、複雑な問題を単純な要素に分解する能力、そして行き詰まったときに別のアプローチを試みる能力を学習している。

このようなAI技術の進化は、マーケティング戦略の立案に、大きなインパクトを与えうる。特に、連載の第4、5回で触れた、企業のユニークバリュープロポジション(UVP)の達成に向けた多面的なアプローチが可能となる。

例として、下記のようなプロンプトを入力してChatGPTの進化を見てみよう。

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