生活者の意識・行動の変化が激しい時代。生活者の支持を得るブランドになるためには市場の動向に合わせてスピーディーな意思決定も必要です。こうした市場で顧客を増やし成長を遂げるスタートアップ企業では、どのようなマーケティング戦略が企画され、また実行されているのでしょうか。新興企業の戦略から新しいマーケティングの方法論を導き出します。今回はオリゼ 小泉泰英氏に話を聞きました。
※本記事は、月刊『宣伝会議』12月号の連載「急成長スタートアップ企業に聞く!『わが社のマーケティング戦略』」に掲載されています。
【オリゼ会社概要】
・設立年:2018年
・従業員数:約50名
・事業概要 「オリゼ甘味料(米麹発酵糖分)」の製造・販売米麹を利用したD2Cブランド「フードコスメORYZAE」の企画・運営
食文化の変化に合わせて麹の新しい楽しみ方を提案
味噌、みりん、醤油など、和食には発酵食品が欠かせない。その発酵食品の多くに用いられるのが、麹だ。今回取り上げるオリゼでは、そのなかでも米麹を使った発酵甘味料を開発している。そして、開発した甘味料を活用したグラノーラやジャムなどの販売を行うことで、麹の新しい楽しみ方を提案している。2024年には、総額4.7億円の資金調達を実施。今年4月からは宇都宮大学との共同研究を開始するなど、注目を集めるスタートアップだ。
同社創業のきっかけは、代表取締役を務める小泉泰英氏の学生時代まで遡る。宇都宮大学農学部で発酵食品の研究をしていたという小泉氏は、発酵食品とは切っても切り離せない麹に注目するようになっていった。
麹が使われるのは、基本的には和食だ。「外国人が和食を食べる機会はもちろん少ないでしょうし、日本国内でも、食の多様化により和食を食べる頻度は減少傾向にあります。このままでは、麹が衰退していってしまうのでは?という危機感を覚えました」と小泉氏。麹は、日本の農業とも密接に関わっている。例えば、米であれば、収穫した米を白米や玄米として出荷するだけでなく、米からできる麹を用いて、味噌や日本酒、みりんなどの食品の生産も行っている。つまり、麹を使った食文化が衰退することは、日本の農業の衰退につながりかねないのだ。
そこで、麹の和食以外での食べ方を提案するべく作られたのが、オリゼ社であり、麹由来の甘味料である「オリゼ」なのだ。同社では、この新しい麹の活用方法を浸透させ、かつ多くの人を健康にしていくことを目指して事業を行っている。
オリゼが展開している商品。左から、ORYZAE GRANOLA、ORYZAE SAUCE、ORYZAE AMAZAKE。
複数の部署が関わることで全体最適化した選択につながる
同社のマーケティングの特徴のひとつは、専任のマーケティング組織を持ちながらも、社員全員がマーケティング的な視点を持っていることにある。商品開発、生産管理、配送部門などを含めたすべての部署がマーケティングに関わっているという。たとえば、Amazonで商品を買う人が求めているものは、到着までの速さだ。顧客の求めるスピードを実現するためには、配送や物流の改善が欠かせない。そこで、マーケティング部門から配送部門へ改善するように意見することもある。反対に、商品開発部などの部署から「この商品は、こんな訴求にした方が顧客に響くのではないか」とマーケティング部に提案することもある。
こうした「みんなで売る」ことを考える組織体制は、ガバナンスの面でも利点が多い。マーケティング部門に限らないが、ひとつの部署で物事を進めていると、部分最適に偏ってしまうことがある。しかし、複数の部署が関わり、それぞれが個別最適的に動くことで、結果的にガバナンスの利いた全体最適化された意思決定につながりやすいのだ。
…この続きは11月1日発売の月刊『宣伝会議』12月号 で読むことができます。