「ごみ」は「ごみ」ではないかもしれない?と疑ってみる
私たちが普段当たり前のように「ごみ」と呼んでいるもの。でもそれは、本当に「ごみ」なのでしょうか?
オランダには、独自のアプローチで建築業界のサーキュラーエコノミーに取り組む会社があります。それが、建築物の資源循環に関するデータプラットフォーム「マダスター」を運用するマダスター・サービス社です。アムステルダムの郊外、緑豊かな場所に彼らの拠点はあります。元々は軍用地だった場所で、事務所になっている建物も1960年代に建てられた入隊者のための施設でしたが、1980年代に入って難民のための保護施設として使用されることになったそうです。
マダスター・サービス社が入居するコミュニティスペース「DE GROENE AFSLAG」。 オランダで「緑の始まり」を意味する。(撮影:松野良史)
施設が役割を終えた後に、建物を取り壊し、高級住宅街を作る計画が立ち上がり、取り壊されるまでの使用契約で入居していたところ、オーナーの方針変更でクリエイティブやサーキュラーを実装する拠点として維持することとなり、今に至っています。
私たちを迎え入れてくれたパブロ・ヴァンデンボッシュさんは私たちにこう問いかけます。「私たちの住む惑星である地球は閉ざされたシステムであり、外から何も入ってこないし、出ていくこともありません。それなのに、なぜ我々はごみが出てしまう前提の経済システムを作ってしまったのでしょうか」。
『サステナブル×イベントの未来 オランダ・スウェーデンで出会った12のマインドスイッチ』大髙良和、松野良史、西崎龍一朗著/定価:2,200円(本体2,000円+税)
ごみはアイデンティティのない資源
パブロさんによると、ごみとは「アイデンティティのない資源」。逆にごみにアイデンティティを与えれば、それは単なる「ごみ」ではなく、再度使うことのできる資源になります。ここでいうアイデンティティとは、建築材料の特性や、どこから調達されたのかといったライフサイクル全体に関わる情報を含みます。人のパスポートのように、その資源がどこから来て、どんな性質を持つものなのかわかれば、その資源の価値を証明し、再度売買の取り引きをすることが可能になります。
マダスター・サービス社が作り上げたのは、建築設計時に建物や内装を形作るあらゆる製品(マテリアル)に、人間のようにパスポートを与えるプラットフォーム「マダスター」です。
データによって資材の再資材化を可能にするプラットフォーム「マダスター」。
この仕組みをイベントに導入するとどうなるでしょう。イベント終了後に廃棄されてしまう造形物ですが、この仕組みを活用することで、これらを形作る資源は新たな生命を与えられるでしょう。2025年の大阪・関西万博では、前回記事で紹介したRAU Architectsのトーマスさんが設計するオランダパビリオンで、世界で初めてすべての資材がマダスターに登録されます。これは、マダスターの可能性を実証する画期的な取り組みです。
イベント産業をはじめ、あらゆる分野でこうした仕組みを用いることで、資源の廃棄がなくなり、システム全体を変革することにつながるのではないでしょうか。