日々多くの情報が舞い込むメディア。広報担当者がアプローチする上では、メディア研究が欠かせません。制作現場ではどのようにコンテンツがつくられているのでしょうか。またどんな情報提供や広報対応が喜ばれるのでしょうか。本稿では2024年11月に開催した「広報会議サミット」での対談をレポートします。
取材先選びは2パターンある
━━どのような情報を扱う媒体なのか教えてください。
大松:『がっちりマンデー‼』は、儲かっている人に話を聞く番組で、これまで多岐にわたるビジネスを取り上げてきました。視聴者層はビジネスパーソンをメインに30~60代の男女。「なぜ儲かっているのか」を軸に20年番組づくりをしています。
日曜7時30分から放送の『がっちりマンデー‼』。「儲かっている人から学ぼう」がコンセプト。この1年で視聴率が高かった回のテーマは「おにぎり」「園芸」「元素」「新聞全面広告を出す会社」と、領域は幅広い。
泉谷:『ハフポスト日本版』は、時事ニュースだけでなくオピニオン報道にも力を入れているニュースメディアです。この5年は、ビジネスパーソンのための新しい教養、「新時代をどうやって生き抜くか」といった企画も入れています。「社会課題の理解と解決を促すニュースメディア」をコンセプトに情報をお届けしています。
社会課題の理解と解決を促すニュースメディア『ハフポスト日本版』。SDGs、ウェルビーイングなども独自目線で取り上げる。最近よく読まれたのが「電気がいらない炊飯器」の記事。災害時に備えてほしいという開発者の思いを取材した。
━━取材先選定の流れは?
大松:ディレクターや放送作家が集まってテーマを設定し、それにもとづきリサーチャーが儲かっている企業を200~300社調べます。そこから厳選して3、4社を取材する流れです。テーマ決めの会議から放送までは約2カ月。各回をディレクター1名、AD1名が担当し、8班に分かれ動いています。
泉谷:メディアが取材先を決める方法は2つのパターンがあると思っています。一つは新聞型。記者がボトムアップで報じるテーマを挙げていきます。もう一つが雑誌型。チームで会議をしてテーマを決めていく。『ハフポスト』の場合は新聞型です。その日、記者がつかんだ情報を、記者の裁量で記事にします。記者が「これ面白い!」と思ったら、そのまま記事になる可能性は高く、記者個人の裁量が大きいとも言えます。
『がっちりマンデー‼』は、毎回のテーマに即した取材先をチームでリサーチするのに対し、『ハフポスト日本版』は、一人の記者の関心から記事が上がってくるケースが多い。制作過程の違いについて、広報会議サミット参加者は聞き入っていた。
━━関心を持っているテーマは?
大松:番組でホットなトピックを取り上げようと思っても、企画から放送まで時間がかかるため、切り口をいかに斬新にできるかが重要です。例えばAIなら、「AIの裏側」とか、「AIじゃないほう」を取り上げてみようか、といった議論が起こります。テーマを「ずらす」ことを常に意識しています。
泉谷:記者の関心にもとづく記事だけでなく、メディアとして集中して取り上げているテーマもあります。SDGs、サステナビリティ、気候変動、ウェルビーイング、ダイバーシティ、キャリアなどです。
オンラインでの記事の読まれ方が変化しているので、記事のつくり方自体も変わってきています。これまではSNSでバズった記事が読まれていたのですが、最近はGoogle検索で記事を読みに来る割合も高まっています。SNS上で流れてきたコンテンツを読む場合とは異なり、自分から情報を取りに来ているのです。生活で役に立つ記事が求められていると感じます。
“生煮え”の情報も歓迎
━━どのような情報提供があると取材先の選定に役立ちますか?
大松:番組宛てにたくさんのプレスリリースをいただきますが、残念ながら新商品のお知らせはあっても、「儲かってます」というリリースはなかなかありません。情報提供していただくのであれば、メディアのコンセプトはそれぞれ違いますから、相手先が欲しがっている情報と合致しているかどうかが重要だと思います。私たちの場合は「まさかの売り上げ○円突破」などと言われると手が伸びてしまいます。
泉谷:リリースは大事な情報源であるものの、リリース前の “生煮え” の情報が、ありがたかったりもします。リリースを出す時点で社内チェックを通すなどして、情報の鮮度が落ちていることもあるからです。「今後こういう取り組みを始めようと思っている」という段階で教えてもらえると、その後注目して取材したくなりますね。
━━広報担当の対応によって番組や記事の制作に影響はありますか?
大松:取材先に伺うスタッフも生身の人間なので、番組のことを知ってくださっているとテンションが上がりますし、番組に寄り添って「こういう映像、よく番組で出されていますよね」と素材を提供していただいたり、「売上の数字を出してもいいよ」と言っていただけたりすると、結果、番組の内容が良くなることは多いです。
泉谷:取材先で「生の声」がどの程度聞けるかがキーになります。どんなにいい商品であっても、何か意外な部分やエピソードがないと読者には響きません。広報の方は、防衛的な仕事もしなければいけないことは理解しているのですが、例えばリリースに書かれているコメントを深掘りしようとして電話しても「書いてある以上のことは話せません」という回答だと、悲しくなってしまいます。ネット炎上しないようにメディアも気をつけていますから、そこは信頼してほしいな、と思うことがありますね。
力強く、熱く語ってほしい
━━「わが社は事業が複雑で……取材してもらえる魅力はあるのだろうか?」と悩まれている広報担当者にアドバイスをお願いします。
大松:BtoB企業に取材することは多いのですが、「なぜうちに取材に来たの?」とよく言われます。ディレクターは最初の打ち合わせで「世の中一般からするとすごいことだらけなので自信を持って下さい」と励ますんです。長くその会社で働いてきた方ほど、当たり前すぎて気づかない魅力もあると思います。取材に伺った際は、力強く熱く、愛を持って、皆さんの企業について語っていただければ嬉しいです。
泉谷:ダイバーシティや、女性管理職の目標などで、企業広報の方とやりとりすることがあるのですが、取材であって研究ではないので、「完璧な取り組みでなくてもいいですよ」と伝えたいですね。目標に向かって努力して頑張っている、その人のキャラクターが伝わってくれば、面白い記事ができると思います。(敬称略)
おおまつ・まさかず 1996年東京放送(現・TBSテレビ)入社。バラエティ制作の現場で『ガチンコ!』『関口宏の東京フレンドパークⅡ』などを担当。2004年より『がっちりマンデー!!』の総合演出。現在はプロデューサーも兼務。
いずたに・ゆりこ 2005年毎日新聞社入社。記者を経て、シンガポールでのNGO勤務などで広報職員の仕事も経験。2016年から『ハフポスト日本版』のニュースエディターを務め、2021年より編集長。2児の母。