デザイナーは、環境問題のために何ができるだろう

デザイナーやアートディレクターの視点から、循環型社会を実現するために、何ができるだろう。「自然と健やかさ」や「社会課題」といった軸を元に仕事をしている清水彩香さん、経営に寄り添いクライアントをサポートする八木彩さん。2人の視点から、今考えていること、実践していることを語ってもらった。

※本記事は月刊『ブレーン』2024年12月号特集「アップサイクルで循環する社会をデザインする方法」への掲載内容から抜粋してお届けします。

デザイナーと社会の関係性を見直した

清水:私は2017年にアートディレクター/グラフィックデザイナーとして独立した後、「自然と健やかさ」「東洋の伝統文化」「社会課題」「芸術と文化」という4つの物事にまつわる仕事が自然と増えていきました。そして今は意識的に、この4つの軸に関連する仕事のみお受けするようにしています。

前々から、デザインは、本当は良くないものも良く見せてしまったり、自分がつくったものによって遠くの誰かが不幸になったり、といった力も持ち合わせていると思っていて。一時期「デザインって本当に必要なのか……?」というところまで考え詰めてしまったりもしたんですが、今のところは、先の4つに絞って支援をしていくことが、自分にとって、社会に対する矛盾との折り合いがつくポイントなのではないかと考え、仕事をしています。

八木:私も2023年に電通から独立し、建築をバックグラウンドに持つ青田剛と共に、アレンスというブランディングデザインの会社を立ち上げました。

その背景が、清水さんと少し似ていて。長年打ち上げ花火のような、いわゆるマス広告をメインで担当してきたのですが、ある時からつくった広告が掲出・放映期間を過ぎ、すぐさま次の広告が打ち出されていくことに、「消費されている」ような感覚を覚えてしまったんです。その重要性や面白みも十二分にわかっているのですが、私は何か「残る」ものをつくっていきたいと思いました。

そこで自然と流れついたのが、ブランディングという分野。一つひとつのデザインがブランドに資するような仕事になるよう心がけながら、日々デザインに向き合っています。

清水:八木さんは通常のブランディングよりも一歩踏み込み、デザインよりも前の段階から一緒にプロジェクトに取り組まれているように見えました。

八木:そうですね。ブランドオーナーの方や経営者の方と議論をしながら、デザインより前の段階から入らせていただくことが多いです。

たとえば今年8月にローンチされた、ぶどうの皮をアップサイクルした製菓材料「ぶどうのワンピース」。ワインの醸造過程で出るぶどうの搾り粕が、山梨では大量に廃棄されていて、醸造家や農家の方が、何かうまく使う方法がないか模索していました。そんな相談を受けた商品企画の会社を経営している私の友人が、「ぶどうの皮を使った製菓ブランドをつくろう」と企画する中で、声をかけてもらって、ぶどうの皮を砂糖漬けにした製菓材料や、それらを使ったレーズンサンドやグラノーラにアップサイクルしていきました。

イメージ 八木さんがアートディレクションを手がけた、ワインの醸造過程で捨てられてしまうぶどうの皮や種などをアップサイクルした製菓材料「ぶどうのワンピース」。
イメージ 「おつまみレーズンサンド」「塩山グラノーラ」といった菓子

八木さんがアートディレクションを手がけた、ワインの醸造過程で捨てられてしまうぶどうの皮や種などをアップサイクルした製菓材料「ぶどうのワンピース」。それを活用した「おつまみレーズンサンド」「塩山グラノーラ」といった菓子も展開。

私は試食をしながらより多くの方に受け入れられるように意見を言ったり、デザイン面を担当したりしました。その他にも、スキンケアブランドでは香りのディレクションをするなど、対象となるブランドや商品の成り立ちから参加させてもらうことは多いですね。

清水:「ぶどうのワンピース」は、アップサイクルの取り組みでありながら、社会課題的な意識を感じさせないほどにデザイン自体が洗練されているのが素敵です。デザインをするときに意識したことは何でしたか?

八木:私がいつも心がけていることは、社会に貢献するプロジェクトである場合も、説明的になり過ぎず、キャッチーで魅力的であること。多くの人は日常の消費行動において社会課題への意識が高いわけではない、ということを前提に、「おいしそう」「なんか良いな」と思って手に取ってみたら、実は社会貢献に参加できていた、という順番をつくれるといいなと思っています。

地域の人も巻き込む仕組みづくり

清水:23年4月に三重県志摩市にオープンした、環境課題解決型の複合施設「CO Blue Center」のロゴやサインを担当しました。

イメージ ロゴ

イメージ 施設の看板は、地域で廃棄されるはずだったプラスチックを集め、アップサイクルして制作した。

清水さんがアートディレクションを手がけた、三重県にある環境課題解決型の複合施設「CO Blue Center」。施設の看板は、地域で廃棄されるはずだったプラスチックを集め、アップサイクルして制作した。

環境課題に取り組む企業から、地域を盛り上げる若者まで、さまざまな人がコワーキングスペースを利用しています。入口のメイン看板は、同じく三重県の鳥羽市にある、海洋プラのアップサイクルに取り組む「REMARE」に依頼。クライアントの東山迪也さんの思いつきで、地域の人々に声をかけ、捨てるはずだったプラスチックを持ち寄ってもらい、それを活用してサインをつくったんです。名付けて「プラスチックファウンディング」。振り返ってみて面白かったのは・・・以降は月刊ブレーン24年12月号本誌、もしくはデジタル版記事(ご購読が必要です)でご覧ください。

この後のトピックス

・グラフィックデザイナーのための環境配慮研究所「Lab. for E.G.」
・経営を理解することが企業を変えることに繋がりうる

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月刊『ブレーン』2024年12月号

書影 ブレーン2024年12月号

【特集】
アップサイクルで
循環する社会をデザインする方法

・廃棄物を「循環」の視点から見直す 「ゴミうんち展」
佐藤卓

・子ども服の廃棄を減らすサステナブル・レーベル
ゴールドウイン「GREEN BATON」

・「髪に良いことが地球にも良い」 再生を後押しするヘアケアブランド
uka「リジェネラティブ グッド」シリーズ

・デニムやTシャツも カカオのアップサイクルで地球環境に貢献
明治「ひらけ、カカオ。」

・初対面の際にも話題に? 食べられなくなった「米」を「名刺」へ
亀田製菓「Re Kameda」

・〈対談〉デザイナーが 環境問題のためにできること
清水彩香、八木彩

【青山デザイン会議】
地域発、アップサイクルの担い手たち
伊藤昌徳×田中達也×山本直人

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