ステルスマーケティング告示の指定、いわゆる「ステマ規制」が2023年10月1日に導入されてから、1年以上が過ぎました。この間、3社への措置命令が行われました。
・第1号:医療法人社団祐真会の「マチノマ大森内科クリニック」(令和6年6月6日)
・第2号:RIZAP株式会社運営の「chocoZAP」(令和6年08月08日)
・第3号:大正製薬株式会社販売のサプリ「NMN taisho」(令和6年11月13日)
今回は、前回のコラムに続き「ステマ規制」第2号となった「chocoZAP」に対する措置命令についての解説です。クチコミマーケティング協会(WOMJ)運営委員会委員長の藤崎実が、詳しく解説していきます。
措置命令対象は「優良誤認」表示と「ステマ」の2種類
消費者庁の指摘によれば、2024年1月から3月にかけ、RIZAPが運営する低価格のジム「chocoZAP」において、
(1)自社ウェブサイトおよびInstagramのアカウント投稿にて、セルフ脱毛やセルフネイルのサービスについて、24時間使いたい放題と謳っていたのに、実際には利用できる時間が限られていた、ということがありました。
(2)また、自社ウェブサイトの「お客さまの声」に、宣伝を依頼した複数のインフルエンサーのコメントが、あたかも一般の利用者から寄せられた体験談かのようにして掲載されていました。
今回の指摘は、2つの内容に分かれている点に注意が必要です。
(1)の行為:「優良誤認表示」
(2)の行為:「ステマ告示」
前回のコラムでは、(1)「優良誤認表示」について解説しましたので、このコラムでは(2)の「ステマ告示」について解説します。
SNSは「タイアップ」表示したが、自社サイトでの脱落を指摘
(2)「ステマ告示」にあたる内容は以下です。
今回、自社ウェブサイトの「お客さまの声」に、クチコミ投稿を依頼した複数のインフルエンサーのコメントが掲載されていました。それがあたかも一般の利用者から寄せられた体験談かのようにして掲載されていたということです。
該当例を見ていきましょう。まず、以下の自社サイトの一部分です。
自社サイト内での「お客さまの声」のページ内では、「◯◯とのタイアップ投稿」表示が見当たらない
投稿内容についてはジムを使った体験が書かれており、不審な点はないように思われますが、よく見ると、「#PR」などの表記が見当たりません。RIZAPのプレスリリース資料によれば、これらの記事は、インフルエンサーに依頼したInstagramへの投稿の一部を抜粋して転載した結果、「◯◯とのタイアップ投稿」表記が脱落した、ということです。
「お客さまの声」となった引用元の投稿には「◯◯とのタイアップ投稿」表記があった
(出所:RIZAPグループのリリースより)
問題となった引用先のウェブサイトのみで、「◯◯とのタイアップ投稿」表記が脱落し、事業者の表示であることが困難と判断されました。なお、引用元のSNS投稿については特におとがめはなく、内容的にも、「◯◯とのタイアップ投稿」表記にも問題はなかったと言えます。
「事業者の表示」であり、かつ判断が困難である場合に、ステマ認定となる
さて、「投稿した時点ではきちんとルールを守っていたんだから、こちらの措置については、厳しい処分だ」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、サイトを閲覧する消費者が、元のクチコミを確認できることは常識的に考えても難しく、クチコミが自然発生した第三者によるものなのか、タイアップなのかは、その場その場で確認できることが必要と言えます。
これについては、消費者庁の運用基準のなかにも参考となる記載があるので、以下の図に挙げました。
事業者の表示が明瞭となっているものとみなされるもの(消費者庁、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準をもとにWOMJがまとめ直し)
そもそも、運用基準の「第3−2−(2)」では、「事業者の表示であることが一般消費者にとって明瞭であるまたは社会通念上明らかであるものは、告示の対象となるものではない」として、表記を省略してよいとしています。
例えば、「ア 放送におけるCM」「イ 番組放送や映画などにおけるエンドロールなどでの事業者の名称等の表示」「ウ 新聞の広告欄」「エ 商品や役務の紹介自体が目的の雑誌その他の出版物における表示」などが挙げられています。そして5つ目には「オ 事業者自身のウェブサイトにおける表示」とあるのです。
ですから、前提としては、自社サイトやキャンペーンのランディングページでは、あらためて「事業者の表示である」との文言は入れなくてもよい、ということです。しかし、ここには、「ただし、…」と続きます。
(ア)ただし、事業者自身のウェブサイトであっても、ウェブサイトを構成する特定のページにおいて当該事業者の表示ではないと一般消費者に誤認されるおそれがあるような場合(例えば、媒体上で、専門家や一般消費者等の第三者の客観的な意見として表示をしているように見えるものの、実際には、事業者が当該第三者に依頼・指示をして特定の内容の表示をさせた場合や、そもそも事業者が作成し、第三者に何らの依頼すらしていない場合)には、第三者の表示は、当該事業者の表示であることを明瞭に表示しなければならない。
という表記です。今回は、このただし書きに該当する案件だった、と言えます。
どうすれば安心? 自社サイトへのクチコミの掲載方法
クチコミのまとめサイトを作ったり、自社サイトに転載したりすることは、ウェブマーケティング施策においても非常に一般的になっています。今回の「chocoZAP」への指摘内容は、あからさまなステマでなかったこともあり、「どうすればよいのか?」と心配になる担当者もいらっしゃるかもしれません。
今回の件を踏まえて、実務面で気を付けるべきことを考えてみましょう。
◎自然発生的なクチコミを掲載する場合の注意点
まず、事業者から依頼を行っていない、自然発生的なクチコミであれば、以下の3つの要件を満たして自社の媒体などへ掲載する場合、ステマとはなり得ません。
〔第三者のクチコミがステマとならない要件〕
・恣意的な抽出をしない:第三者のSNS投稿から評判を向上させる意見のみを抽出しているにもかかわらず、そのことが消費者にわからないように表示することはしない
・表示内容の変更をしない:第三者のSNS投稿には良い点・悪い点の記載があるのに一方のみ取り上げ、もう一方の意見が無いかのように表示することはしない
・そのまま引用する:第三者の表示であることがわかる内容で表示する
ただし、第三者のクチコミには著作権がありますので、投稿者本人への転載などへの同意は必要です。
さらにいえば、「明示的な依頼・指示がなくとも“表示内容の決定に関与した”と認められるもの」という規定があるため、金銭などの支払いがなくとも、インフルエンサーなどに対して言外に将来的な取引などと匂わせていた場合は、事業者の表示とみなされます。「お金を払っていない」だけでは認められないケースもありえることを覚えておきましょう。
◎クチコミを依頼した場合の注意点
次に、今回のようなクチコミ依頼をしている場合では、以下の2点を遵守します。
・事業者の表示だと明瞭にわかる文言を掲載する
・その文言は、目立つ場所に、ファーストビューで分かるように大きく記載する
〔事業者の表示だと明瞭にわかるとされる文言の例〕
・(自社サイト内でも)「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」と記載
・「弊社からお客様に依頼をして、SNSに投稿頂いたコメントを編集して掲載しています。」
・「Instagramでのタイアップ投稿(広告)から抜粋して紹介しています。
自社サイトにあらためてこのような記載を入れることには抵抗があるかもしれませんが、依頼関係のない第三者のクチコミと、依頼したクチコミとの区別を明瞭とすることが大切です。今一度、制作担当者・マーケティング担当者とも、自社サイト内での記載について、確認をしてください。
社会的なインパクトは大きくクライアントへの影響は大
ステルスマーケティングの措置命令は注目度も高く、多くのメディアで報道されます。SNSでの拡散力も十分あり、デジタルタトゥーとなって長期間インターネット上に残るため、自社や取引先のレピュテーションに大きく影響します。
最後に、今回のポイントと対策をまとめておきます。
1. 不当表示対策について
広告で言えないことは、インフルエンサーにも言わせることはできないと心得る。自社では訴求できないけれど、SNS投稿ならOKという考え方は捨てるべきです。
SNSの投稿は、「事業者の表示」つまり広告とみなされている以上、事業者のサイトで言えないことは、インフルエンサーの投稿でも言わせてはいけない、ということです。
また、事業者の表示である限りは、「インフルエンサーが勝手に言った」では済まされません。事前に不当表示となるような内容を書かないように、インフルエンサーなどと丁寧なコミュニケーションを取っていく必要があります。
2. ステマ告示対策について
今回の措置命令では、インフルエンサーの投稿内容と事業者の表示はOKであっても、自社サイトに引用した際に「◯◯とのタイアップ投稿」の表示が脱落したことが問題です。事業者の表示となる第三者の発言には、「PR」「弊社からお客様に依頼をして、SNSに投稿頂いたコメントを編集して掲載しています。」などの記載が、自社サイトでも必要となります。
また、今回の指摘からは外れますが、SNS投稿でなく、顧客、有識者、著名人、医師などの第三者に依頼してコメントをもらい、自社サイトに掲載されている場合には、それが依頼に基づくものであると明瞭に説明していない限り、今後ステマと判断されうる、と踏まえておくべきでしょう。
クチコミ投稿の二次使用に注意
2024年11月13日には、ステマ措置命令の第3号(大正製薬株式会社販売のサプリ「NMN taisho」)が発表されました。こちらの指摘内容もchocoZAPの指摘と同じく、依頼したクチコミ投稿の自社サイトへの二次使用の方法でした。
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SNS上での運用についてこなれてきたところで、そのクチコミを不適切に転用したり、都合良く抜粋したりするなどの利用方法をしていないかに、チェックの目がシフトしてきているのかもしれません。
クチコミには人を動かす力がありますが、ステマのリスクは冒さないよう、企業の担当者だけでなく施策の企画者、自社サイトの運営担当者など、関係者全員が正しい知識と認識を持って、適切な掲載方法を今後も心がけていきましょう。