広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
厚木市・前場渓花さんからの紹介で今回登場するのは、糸満市の上原盛太さんです。
Q1.現在の仕事内容について教えてください。
ハイサイ!
沖縄本島最南端の糸満市で広報担当している上原です。入庁して11年目、広報担当としては2年目になります。
ちょこっと糸満市の紹介をさせてください。
糸満市は人口約6万2千人で、古くから「海人(うみんちゅ=漁師)のまち」として知られますが、市域の南にはサトウキビ畑やニンジン畑が広がり、漁業だけでなく農業も盛んな市です。600年の歴史を持つ勇壮な海の祭り「糸満ハーレー」や、五穀豊穣を祈願する「糸満大綱引」をはじめとする伝統行事も多く受け継がれていて、これらは旧暦に基づいて開催されるため、平日に国道を封鎖して綱引きをしたり、行事参加のために休みになる学校もあります(笑)。
また、糸満市は沖縄戦の激戦地にして終焉の地で、市内には避難壕として使われていた大小のガマが点在し、当時の名残をとどめています。国内唯一の戦跡国定公園に指定されている平和祈念公園も市内にありますが、修学旅行で来られた人もいるのではないでしょうか?
糸満ハーレー最大の見せ場であるクンヌカセー(転覆競漕)!
沖縄戦が終戦となった6/23は、沖縄県の条例で祝日となります。当日、平和祈念公園では、在りし日に思いをはせ、平和の礎に刻まれた名前を前に手を合わせます。
このように、歴史や文化が薫るまちで生まれ育った私が取り組んでいる業務は、月1回発行の市広報紙作成、市公式SNSの管理運用、市ホームページの管理がメインの広報業務と、市民から寄せられるご意見・ご要望の対応をメインとする広聴業務の2つです。
Q2.貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。
広報紙発行、市ホームページのデザインやレイアウト、市勢要覧発行、ラジオ広報・声の広報に関すること、SNSの管理運用、報道機関との連絡調整、パブリックコメントに関することの7つが広報業務になります。
Q3.ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。
私は広報担当として「市役所らしくない広報」を目指して業務に取り組んでいます。
先にお聞きしたいのが、皆さん自治体の広報紙って文字だらけで読みにくいと思ったことありませんか?恥ずかしながら、私自身も市の広報紙を読み始めたのは入庁してから。それまでは、ほとんど手に取ることもありませんでした…。だって、文字多くて読むの疲れるから(笑)
そういった経験や考えもあり、広報紙はできる限り内容をかみ砕きながら文字量を減らし、写真やイラストを多くすることで、広報紙が目につくように、少ない時間で読めるように努力しています。
ここまで聞くと、足りない情報ない?デザインを重視しすぎでは?と思う方もいらっしゃると思います。
しかし、手に取られない広報紙や見られない情報を発信することに意味があるのでしょうか?自治体の広報紙は、それぞれが好きなもの、興味があるものが掲載されている市販の雑誌とは違います。また、近年は共働き世帯が多数を占め、家でじっくりと情報を見る時間が少ないため、さっと情報が分かる・知れるタイパ(タイムパフォーマンス)が重視されていたり、紙媒体ではなくネット上の情報をよく見るようになっています。そう考えると、まずは手に取って読んでもらう必要があると私は感じます。
多くの市民が行政情報に触れる頻度を増やす工夫として、デザインやレイアウト、文章の構成などを従来の「文字だらけ広報」から「市役所らしくない広報」にすることで、広報紙を手に取り、「行動変容」や「市民に伝わる広報」につながり、市の施策や取り組みに興味を持ってもらえると信じながら日々業務に取り組んでいます。
ちなみに最近では、戦隊シリーズをイメージしたインパクトのあるデザインを表紙にしました!笑
Q4.自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。
私が苦労した・苦労している点は2点あります。
1点目は、人員の少なさです。市の広報担当は私一人で担っていますが、人事異動が発表されて、事務引き継ぎを行ったのは3日。糸満市は広報紙のほとんどを内製化しているため、異動当初はデザインソフトの使用方法や一眼カメラの使い方、記事の書き方など、他の部署では経験しない業務を手探りで行っていました。特に、一眼カメラなんて触れたこともなく、撮影しても「広報紙で使えるような写真じゃない!」なんてこともしばしば…。担当が2人いると業務や広報としての心得なんてものも学びながら、糸満市広報の信念や信条のようなものを築き、受け継いでいけるのではないかなと感じます。
1年半をかけ、ようやく機材にも慣れてきました…。
2点目は苦労というより悩みに近いですが、職員の広報視点が薄いことです。
先ほどの話と重複してしまいますが、市役所職員が作る文章は、仕事柄堅苦しくなってしまいます。やたらと文章が長く、事細かに情報を載せようとするため、広報された側の市民としては読みづらく感じてしまいます。
それでは伝わらない前に見てくれない!と手を変え、品を変え職員に伝えていますが、「書いていないと言われると困る」「書かなかったことによる責任はどうするか」というように、なかなか理解されないのが現実です…。
逆に、広報担当としてのやりがいは市民とのつながりです。
私が取材に行くと、そのたびにさまざまな団体や活動を紹介いただきます。自治体広報だからこそ、このような市民とのつながりの輪ができて、まちの小さな話題や、なかなか表に出ない活動も取り上げることができると思います。「広報紙で取り上げてくれるとは思わなかったから、うれしかった」「広報紙に載ったから、連絡が来るようになった」と言われると、広報担当としてこれ以上ない幸せで、このようなダイレクトな反応を見聞きできることもやりがいにつながっています。
自治体広報は行政情報から市民活動、まちの小さな話題まで取り扱うため、情報の範囲や量は膨大で、大変なことも多々あります。そんな自治体広報ですが、新聞や雑誌とは違い、自身の記事で「住んで良かった」「これからも住みたい」と思われる可能性を秘めていて、未来のまちづくりを担っている感覚になります。
未来の糸満市を想像しながら、これからも日々学び続け、取材に撮影に編集に汗を流したいと思います。
【次回のコラムの担当は?】
都農町 総務課 秘書広報係の松村直哉さんです。