「広告電通賞」選考委員の3名が語る、広告コミュニケーションの潮流

優れた広告コミュニケーションを実践した広告主を顕彰し、日本の社会、経済、文化の発展に寄与することを目指す「広告電通賞」。2025年3月から募集を開始する第78回では、「イノベーティブ・アプローチ部門」に「C.データ」カテゴリーが新設される。選考委員を務める萩原史雄氏、萩原幸也氏、小川丈人氏の3名を迎え、「広告電通賞」および広告コミュニケーションの未来について議論を交わした。
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萩原史雄氏

赤城乳業
取締役
開発マーケティング本部 本部長

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萩原幸也氏

リクルート
マーケティング室
クリエイティブディレクター/部長

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小川丈人氏

ナディア
取締役 CCO
Interactive Communication Experts 理事

受賞作から見出される広告コミュニケーションの潮流

――第77回の受賞作品を振り返った感想をお聞かせください。

萩原(幸):総合賞受賞のサントリーホールディングスのコミュニケーションは、やはりすばらしかったです。私が選考を担当した「イノベーティブ・アプローチ部門」では、NTT/WITH ALSの「Project Humanity」が最高賞、日本マクドナルドの「ハイヤリング(あなたらしい笑顔で働こう)」が金賞を受賞しましたが、どちらも既に海外の広告賞を受賞している作品。選考では「受賞したことのない作品を発掘したい」という気持ちが個人的にはありましたが、それでもやはり非常に優れていました。

小川:作品全体を見て感じたのは、広告主の皆さんが勇気と熱意を持って取り組み、広告界を盛り上げようとさまざまな事例を生み出していること。デジタル広告の黎明期にはいろいろなアワードがありクリエイターも燃えていましたが、広告電通賞がそうした場にもなっていると感じました。イノベーティブ・アプローチ部門で最高賞を受賞した「ProjectHumanity」は、ALS共生者が“筋電”の活用によりデジタル空間上で身体性を得るテクノロジー。当事者だけでなく、それをサポートする人たちも含めた課題を解決していくという、すばらしい取り組みでした。

萩原(史):サントリーや大塚製薬などは、ストーリーの中に商品があるという王道のやり方ですが、軸がブレることなく、企業が大切にしている意思が伝わってきました。広告電通賞は、いまの時代に求められる常識やバランス感覚、その基準を学ぶことができ、広告の“王道”を知る上で重要な賞だと感じます。

小川:海外の広告賞の審査を担当していて感じることですが、広告を評価するには、その地域の文化や企業の歴史を深く理解する必要があります。広告電通賞の選考でも、対象となる企業がこれまでにどのようなコミュニケーションを行ってきたのか、そしていま、この国の人々はどのようなコミュニケーションを求めているのか、そうした文脈が色濃く反映されることを改めて実感しました。

萩原(幸):例えばカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルは世界中の広告主から作品応募があり、審査員も各国から集まるため、世界的な潮流の理解につながります。一方で、この賞は日本全国のすべての広告主に応募資格があり、部門やカテゴリーも国内の手法に準じているため、いま日本の広告主が注目すべきテーマや社会情勢がわかります。選考委員は全部で約500名と、作品に対する評価の視点に偏りがないのも大きな特徴であり、優れた点だと感じています。

――社会課題解決を呼びかける広告も多数受賞しています。企業の社会的姿勢が重視される時代において、マーケティングコミュニケーションとコーポレートコミュニケーションの融合についてどうお考えですか。

萩原(幸):企業がパーパスを打ち出すこと自体は重要ですが、それだけで商品が売れるわけではありません。パーパスという土台の上に、どのようにマーケティングメッセージを乗せられるかがポイントであり、その点で、サントリーホールディングスの広告は企業の姿勢が商品レベルまで反映されていて、非常にうまく設計されていたと思います。採用に重点を置いた日本マクドナルドの「ハイヤリング(あなたらしい笑顔で働こう)」篇も同様です。日本マクドナルドでは非常に多くのアルバイトスタッフが働いており、その中でコミュニケーションを構築することは大変重要。「スマイル0円」という1980年代から掲げていたフレーズをアップデートし、あえて「スマイルあげない」としたことは驚きました。この取り組みがしっかり成果を上げている点も印象的で、企業姿勢とマーケティングコミュニケーションがしっかり融合していると感じました。

小川:コロナ禍を経て多くの人の情報を見る目が鍛えられたのでしょう。SNSやさまざまなメディアを通じて、世界中の人々が同じタイミングで同じ悩みを共有し、国はどう対応するのか、企業や有名なコメンテーターはどんな姿勢を示すのかといった視点で注目する機会が増えた結果、商品購入時も「この企業はどんな姿勢?」と見極めようとする意識が高まったと感じます。日本マクドナルドの「スマイルあげない」も、サントリーホールディングスのザ・プレミアムモルツ「無言の父たち」篇も、まるでこちらの気持ちに寄り添ってくれているような感覚があります。そこが伝わると、自然とその企業の商品を買って応援したいと思えますよね。

萩原(史):広告主側の視点で言うと、私たち赤城乳業では長年、面白くて生活に寄り添うブランディングを行っています。私自身、約20年間ガリガリ君のブランディングに携わってきました。その経験を通じて感じるのは、商品のマーケティングコミュニケーションを地道に積み重ねて、初めてコーポレートコミュニケーションが成立するということ。あくまで消費財メーカーとしての意見ですが、コーポレートコミュニケーションは短期では構築できないと感じています。

第78回では新たに「データ」カテゴリーが登場

――第78回では「イノベーティブ・アプローチ部門」に「C.データ」カテゴリーが新設されます。マーケティングコミュニケーションにおけるデータの利活用について、どのようにお考えですか。

萩原(幸):カンヌライオンズでも同様の部門がありますが、それを見ているとデータの解釈方法が重要だと感じます。マーケティングにおけるデータ活用は当たり前で、問題はそれをどのようにクリエイティブに結びつけて活かすか。また、人々や社会のためにどのように使うかも考えなければ、評価が難しいのではないでしょうか。

萩原(史):データの活用は重要でも、リアルとの融合が不可欠です。まずユーモアを交えたアイデアがあり、それがデータで裏付けられて結果が出ることが重要。例えば、当社では愛犬用アイス「ワンワン君」の発売時にデータを活用し、「97.7%のワンちゃんがおいしいと言った」というコピーを使いました。面白さを引き立てるという観点で、データの使い方を少しひねった方が良いのかもしれません。

小川:手元のデータを見るだけでなく、世の中を洞察する姿勢が大切ですよね。AIと気軽に会話を交わす時代が来る中で、単にブラウザ上でデータが収集されるだけでなく、データを受け取る場所や形態も変化するし、データの活用方法も変わっていくはずですから。

萩原(幸):今回、広告電通賞の「イノベーティブ・アプローチ部門」に新設された…という意味合いを考えると、個人的には、データそのものでイノベーションやソリューションを生み出している事例が評価されるべきだと考えます。例えば、これまで他部門では評価されなかったような独自の価値を持つ新しいサービスや、ソリューションが評価されるような流れが生まれると良い。それが最終的に企業の活動につながり、社会課題も解決しながら顧客を増やすといった新しいマーケティングが生まれれば、カテゴリー新設にも意義があります。

――コミュニケーションを通じてより良い世の中にしていくという観点では、企業自体が持続的に成長していくための視点は欠かせません。事業活動に寄与するために、マーケターやクリエイターには何ができるでしょうか。

萩原(史):ガリガリ君は、緩和ケアを受ける患者さんの生活の質を向上させる商品として日本緩和医療学会から表彰されたり、夏休み宿題ドリルの表紙に使われることで「子どもが勉強してくれる」と広く支持を得てきたり、生活の中で「良かった」と感じてもらえる取り組みを20年前から継続的に行ってきたことが確実にブランド価値につながっています。ただ、こうした取り組みはすぐに売上には結びつかない。だからこそ短期的に儲けるという発想を少しずらして、「リハビリが楽しくなる」「カロリーが少ないからダイエットのお供になる」といった新たな発想を探し続ける必要があります。

萩原(幸):従来のように差別化を重視したアプローチだけでは通用しない時代だからこそ、企業間や業界間をつなげることが重要な役割になっているのではないかと考えます。私たちの仕事は、広くマーケットや生活者を捉えて人々の気持ちを考えること。もっと視点を広げて「社会はどうあるべきか」「競争ではなく共創をつくるためには」といった発想にシフトすることで、いまの時代に必要なマーケティングができるはずです。それが企業のサステナビリティにつながるかは正直わかりませんが、VUCAの時代、ジリ貧のまま勝負し続けてすべてを失うより、もっと利他的な視点でマーケティングを捉え直すことの方が、意味があると感じます。

小川:お客さまにとって耳当たりの良いことだけを語るのはもうやめるべきだと思います。大切なのは、サステナビリティをはじめどんな課題に対しても議論のパートナーとしての視点を持つこと。クリエイターは確固たる意思を持ってその意図を語る必要があるし、その上でマーケターと議論を交わしながら、アウトプットの品質を高めていかないと、消費者の心も動かせないし社会を変える力も持てません。

――最後に、来年以降の「広告電通賞」応募作品に期待することをお聞かせください。

萩原(幸):「C.データ」に今まで出せなかったような新しいアイデアや挑戦的な作品を応募いただけると嬉しいですね。

萩原(史):これまで気づかなかったようなデータを活かして、人々が思わず動きたくなるような、革新的で驚きのあるアイデアが登場することを楽しみにしています。

小川:コミュニケーションを通じて消費者と企業が出会ったとき、「素敵だな」「この企業は信頼できる」と感じてもらえるような広告が集まり、広告界がさらに盛り上がることを期待しています。

ロゴ 広告電通賞

 

第78回 広告電通賞 概要
広告電通賞は、1947年12月に創設された日本で最も歴史ある総合広告賞。優れた広告コミュニケーションを実践した広告主を顕彰することにより広告主の課題解決の道を広げ、日本の産業・経済・文化の発展に貢献することを目指す。賞の運営は、公的機関である「広告電通賞審議会」によって行われており、取り扱い広告会社・制作会社にかかわらず、すべての広告主に応募資格がある。選考は、全国の広告主・媒体社・クリエイター・有識者ら約500名から構成される広告電通賞審議会の選考委員によって行われる。
 
応募情報登録期間
2025年3月3日(月)10:00 ~ 4月1日(火)17:00
 
応募方法
Webサイトの応募入口から応募者マイページを作成し、作品情報を入力。指定された期間内に作品を提出する。(応募費無料。ただし、応募作品の編集費や輸送費などは応募者負担となります。)
 
入賞作品の発表
2025年7月末ごろニュースリリースにて公開予定。
 
部門(7部門・25カテゴリー)
プリント広告部門/オーディオ広告部門/フィルム広告部門/ OOH広告部門/ブランドエクスペリエンス部門/エリアアクティビティ部門/イノベーティブ・アプローチ部門
 
各賞の名称
〇総合賞(1点) 〇最高賞(各部門から1点)・金賞・銀賞(各カテゴリーから1点) 〇地区広告賞・準地区広告賞(各1点) 〇特別賞(推薦があった場合に審議) 〇SDGs特別賞(1点)・SDGs特別賞優秀賞(2点)
 
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お問い合わせ

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広告電通賞審議会事務局

メール::d2award@dentsu.co.jp
Webサイト:https://adawards.dentsu.jp/

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