広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えていたのでしょうか。横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。Shippioの小川 晶子さんからの紹介で今回登場するのは、M&Aクラウドの細山加央里さんです。
Q1:現在の仕事の内容とは?
「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」をミッションに掲げるスタートアップのM&Aクラウドで広報を担当しています。「M&Aクラウド」や「資金調達クラウド」といったプロダクトの開発・運営、専門的なスキルを持ち合わせたM&AアドバイザーによるM&A支援に加え、独立したM&Aアドバイザーの活動支援をするサービスも運営しています。
広報活動を本格始動させたのは2022年ですが、以降経営方針に沿って広報戦略を設定しチームの形も変えながら活動を進めてきました。スタートアップ広報は、早期のポジショニングが重要であることから、「M&Aプラットフォーマー」かつ「スタートアップM&Aが得意」というメッセージはぶらさずに継続して発信しています。
M&Aという秘匿性の高い情報を扱うことから、情報の整理や発信タイミングの確認は、事業部やお客さまと密に連携しています。また、メディア関係者の方とのコミュニケーションでは、当社の取り組みを理解いただきつつ、時事ネタや業界ニュースも交えながら、そのメディアと読者の方にとって価値のある情報を提供することを意識しています。
Q2:これまでの職歴は?
大学卒業後、地元新潟の企業にUターン就職しました。地方創生を軸に40法人以上を多角的に展開するグループ企業で、私は学校法人の学生募集担当として配属になりました。広報業務から学生課業務まで幅広く業務に従事しました。4年間現場を経験した後に、人事部へ異動となり新卒採用がメイン業務に。当時、各法人別の採用からグループ一括採用に切り替わるタイミングであったため、プロジェクトメンバーとして新しい採用スキームの構築に携わりました。課題の抽出から戦略の立案やKPIの設定、施策の選定や実行。各法人の人事担当者と連携しながら高い目標に向かうプロセスは、とても貴重な経験でした。
学生募集や採用活動を担当し、組織の理念や目指す将来像を伝えて、組織のファンになってもらうことや、相手に応じた継続的なコミュニケーションを通して意識変容・行動変容を促すことへの興味が強くなりました。また、ベンチャー企業に身を置いて裁量を持って働きたいという思いが高まり、入社後6年で転職を決意。再度上京し2017年から広報キャリアをスタートさせます。
エアークローゼットには、未経験ながら企業広報として迎え入れてもらったのですが、これまでの広報活動と企業広報とのギャップに衝撃を受けました。当時は、少しでも早く自分のスキル不足をカバーしたく半年間の宣伝会議の広報講座にも通い、業務をこなすのに必死だったと思います。プレスリリースのトンマナやメディア取材の作法などを学びつつ、広報がもたらすインパクトの大きさを肌で感じる経験が複数できました。
その後、置き型社食サービスの「オフィスおかん」を展開するOKANに入社し、リブランディングのプロジェクトに関わります。食の会社から、HRの会社というパーセプションチェンジを図ることを目的に、外部のPR会社の方に協力してもらいながら、企業ロゴの刷新、オフィスコンセプトの発信、新サービスの発表、カンファレンスの開催など連続的に情報発信の山場をつくっていきました。リブランディングだけではなく、サービス広報や採用広報も、事業部やHR部署と目標を共有し、その部署の成果が最大化に寄与するためのコンテンツ発信やイベント企画を進めていました。
Q3:転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?
転職において大事にしている点は、「サービス内容」と「メンバー(特に経営陣)」です。M&Aクラウドのnoteを読んだときに、このサービスが浸透したときの世の中が変わる瞬間が見たいと思い、当社への入社を決めました。
また、私は一人目の専任広報ではありましたが、“ひとり広報”ではなく、専門的なスキルを持ったメンバーと”広報チーム”として活動ができることも魅力でした。戦略立案が得意なPR会社、コピーライティングが得意なパートナー、M&Aの専門的な記事が得意なライター、メディア立ち上げ経験のある編集者。会社のフェーズにあわせ、プロフェッショナルな知見を集結させることで、効果を最大化させることができる体制が当社の強みだと思っています。
Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?
キャリア形成においては、同じ「広報職」と言っても業界や事業内容、企業のフェーズによって、業務内容や役割が大きく異なります。また、広報スキルは属人性が高く再現性が難しいため、共通見解を持つことが難しい点が課題です。そのため、持っているスキルと経営陣の求める期待値を事前にすり合わせをする必要があり、これを怠るとパフォーマンスが発揮できず、想定していたキャリア形成につながらない恐れがあると考えています。
また、広報職に限ったことではないですが、時代やサービスによって効果的な広報手法がどんどん変化するため、スキルが形骸化しないように常に情報をアップデートし続ける必要があります。そのため、私はスキルアップのための学びの場に定期的に参加するようにしています。
そして、効果測定の方法については、広報同士で繰り返し議論にあがる課題です。広報は、企業のミッションを達成するための重要な機能であり、ステークホルダーとの良好な関係性を築く大事な橋渡しの役割があります。その「継続的なリレーション」にこそ価値があるのですが、簡単に数値化できるものではなく、定性的な目標設定になりがちなことも事実。中長期的に、どんな姿になっていたいか?どんな企業というイメージを持って欲しいのか?を経営陣と目線合わせをし、社内メンバーにも協力を得られるような丁寧なコミュニケーションを重ねる必要があると考えています。
Q5:広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?
これまでtoCtoB分野を問わず、スタートアップの広報部門の立ち上げや事業拡大のための広報活動を経験してきましたが、領域問わず、引き続き経営方針に沿った広報戦略を立案・実行し、企業価値の最大化を目指す広報チームでありたいと考えています。
また、M&Aは企業成長のための有効な手段であり、今後の日本経済のためにも必要不可欠な手段です。規模に関わらずどのM&Aにもドラマがあり、経営者の並々ならぬ思いや決断があります。そうした思いを受け止め発信をするとともに、さらに企業のバリューアップにつながるような広報支援がしたいと考えています。
【次回のコラムの担当は?】
アスエネの伊集 理予(いじゅ りよ)さんをご紹介します。アスエネさんは、クライメートテックのスタートアップで、伊集さんは広報リーダーとして日々精力的に活動されていらっしゃいます。プレスリリースの発信数がとにかく多くニュースが途切れない。伊集さんは、以前メディア運営もされていたこともあり、文章やデザインも美しく企画書や事例集はいつも参考にさせていただいております。その伊集さんが大切にしている広報としてのモットーなどをぜひお聞きしたいです。