2024年11月28日、29日に開かれた「宣伝会議サミット2024」では、同社のDX戦略のキーパーソンであるシンガ・ルピンダー氏と徳武直樹氏が登壇。モデレーターを務めるアンダーワークスの米倉礼氏とともに、DXプロジェクトの具体的な取り組みや課題、未来への展望を語った。
加速する音楽業界のゲームチェンジ
CDやDVDといったフィジカルメディアが中心だった時代から、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスが音楽聴取の主流となっている音楽業界。その変遷は、ワーナーミュージック・ジャパンのような音楽レーベルのビジネスモデルにも大きな影響を与えている。ストリーミングサービスでは、楽曲が再生された回数などに応じて収益が発生するため、新作だけでなく、過去の作品、いわゆる「カタログ作品」の価値が向上。TikTokなどのSNSが楽曲のヒットに大きく影響するようになり、従来のプロモーション手法の見直しも必要となっている。
「このような変化への対応は、従来のフィジカル販売・新譜リリース中心のバリューチェーンを持つ音楽レーベルにとって急務となっています。SNSでのバイラルヒットへの対応の遅れや、勘と経験に偏重したアーティスト発掘・育成、部門ごとにサイロ化したデータ、意思決定に必要なデータの質・量の不足といった課題が顕在化。デジタル時代に対応した新たな体制が必要になっています」(徳武氏)
ワーナーミュージック・ジャパン Strategy&Insights Manager 徳武直樹 氏
データ駆動型意思決定でビジネスを変革
これらの課題を解決するためワーナーミュージック・ジャパンは、アンダーワークスのサポートのもと、データ駆動型の意思決定とDXプロジェクトを推進している。アンダーワークスは、ワーナーミュージック・ジャパンに所属するアーティストのデジタル・フィジカルにおける活動状況や結果など、主要なKPIやKGIをBIツールでデータ統合したダッシュボードの構築を支援している。このダッシュボードは、収益、再生数、CD売上、ソーシャルメディアの動向など、アーティストに関する様々な情報を一元的に可視化するものだ。
ワーナーミュージック・ジャパン Strategy&Insights Director シンガ・ルピンダー 氏
ルピンダー氏は、DX推進の際に重視した3つの原則「PREMISE(前提)」「ACTION(行動)」「RESULT(結果)」について説明した。
PREMISEとは、DXを単なる技術導入ではなく、ビジネスオペレーション全体の変革と捉えることだ。「音楽レーベルというビジネスモデルに基づき、すべてのステークホルダーとプロセスを含めてデジタル思考を促進することが重要でした」とルピンダー氏は指摘する。
「デジタルマインドセットの醸成については、デジタルパフォーマンスに基づいた成果判断や、ダッシュボードを活用したデータに基づくミーティングを日常的に取り入れることで、デジタルを当たり前のものにすることを目指しました」(ルピンダー氏)
ACTIONとは、デジタルファーストの環境を整備し、データに基づいた意思決定のことであり、既存ソリューションに頼らず、自社に最適なソリューションを構築する専門チームの編成に注力。それによりデータ基盤を強化し、企業文化の変革にも取り組んだ。
RESULTとは、リアルタイムのKPIモニタリングや改善ポイントの特定により、ストリーミングの成長を促進させること。データ統合・ダッシュボード構築により、数カ月でデジタルパフォーマンスが向上した。その結果、情報に基づいた戦略立案と革新的なチーム運営が可能になったという。
アンダーワークスの支援により構築した、プロモーション活動の効果測定のダッシュボードやアーティストとブランドの親和性を分析するダッシュボードは、日本だけでなくグローバルチームからも高く評価され、活用されているという。
米倉氏は、「ビジネス、データ、ユーザー、そしてダッシュボードの目的と示唆を深く理解した上で、現場で本当に使えるダッシュボードを開発することにこだわりました」と述べる。
アンダーワークス コンサルティング事業本部 マネージャー 米倉礼 氏
ダッシュボードにより部門横断コラボが活発化
徳武氏は、DXを推進する中で見えてきた課題として、データのサイロ化、文化的な抵抗、データの質、データマネジメントのコスト、ユーザビリティ、部門間のコラボレーションの6つを挙げる。データ関連領域のチームとして特に重要なポイントは、ユーザー中心の設計と、経営層・現場双方の信頼を獲得したうえで改革を進めていくことだと強調する。
「これまでは、収益データは財務部門、ストリーミングデータはデジタルチーム、CD売上はフィジカルチームと各部門が個別にデータを見ていたため、アーティストの活動に関する全体像を把握しにくいという難しさがありました。現在では、アンダーワークスと共同開発したダッシュボードを基に、関連部門が集まってミーティングを行うようになりました。新たな視点や気付きが得られるようになり議論が活性化し、部門間の連携も強化されました」(徳武氏)
ルピンダー氏は、今後のDX推進における3つの重要なテーマは「AUTOMATION(自動化)」「REAL-TIME ANALYTICS(リアルタイム分析)」「HUMAN TOUCH(人間らしさ)」であると語る。
「DX推進により業務効率化や予測精度の向上、リアルタイム分析による迅速な意思決定に今後も取り組んでいきますが、データやデジタルツールはあくまでクリエイティブな活動を支援するツールです。将来にわたり、あらゆる全ての中心に人々を置いたアプローチを維持し続けたいと考えています」(ルピンダー氏)
米倉氏は「変化の激しい音楽業界において、データとテクノロジーの活用は不可欠ですが、ワーナーミュージックさんのように人間中心のアプローチを維持していくことが、今後の成功の鍵となるはずだと実感しています。業界全体の協力や知見の共有がさらに進むことを願っています」と締めくくった。
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