ヒットの仕掛け人となったのは、UCCジャパン サステナビリティ経営推進本部 EC推進室 室長の小坂朋代さん。小坂さんがリードしたプロジェクトの裏側には、マーケターと研究員が一丸となった部門横断型のプロジェクト体制と、自由な発想を生む雑談がありました。「YOINED」開発の背景を、マスメディアンのキャリアコンサルタント・荒川直哉が伺いました。
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マーケターだけでマーケティングを考えない
──小坂さんが商品開発に携わられた新商品「YOINED」について教えてください。
「YOINED」は、「香りの余韻を楽しむ、飲まないコーヒー」というまったく新しいコンセプトの食品です。カカオ豆からチョコレートをつくる工程をヒントにした独自製法で、コーヒー豆を抽出せずにそのまま粉砕することで、豆本来の味や香りを新鮮なまま閉じ込めた食品です。
UCCジャパン
サステナビリティ経営推進本部
EC推進室 室長
小坂朋代(こさか・ともよ)氏
2007年、新卒でジュエリー会社に入社。広報、広告の運用や企画、デジタルマーケティングに12年間従事。2020年にUCC上島珈琲へ入社し、マーケティング本部 デジタル推進部 係長として、楽天市場やAmazonなどのECモールを担当。2022年より「YOINED」プロジェクトマネージャーに就任。現在はUCCジャパンに在籍し、EC業務とプロジェクトマネージャーを兼務。
──そもそも、EC部門担当である小坂さんがどうして「YOINED」の開発に携わることになったのでしょうか?
以前から、ブランドマーケティングに挑戦したいと周囲に話していたんです。ある時、「これで新しい商品をつくってみる?」と、チョコレートの欠片のようになったコーヒーを渡されたのが、プロジェクトをリードすることになったきっかけでした。
ただ、当時の私はブランドマーケティングどころか、商品開発もまだ携わったことがありません。さらに、飲むコーヒーを販売してきたUCC上島珈琲にとって、飲まないコーヒーはまさに未知の領域でした。そこで本来ならマーケティング本部で進めるプロジェクトを部署横断型に変更。UCCイノベーションセンターでコーヒーの味覚や品質を追求する研究員たちと一緒になって、マーケティングから商品コンセプトまでを考えることにしました。
最初に試作品を食べたときの衝撃はよく覚えています。まるで口の中でコーヒーの香りが爆発するみたいだったんです。研究員になぜこのような試作品にしたのかと尋ねると、「コーヒーの香りが大好きで、コーヒー豆をまるごと食べてみたかったから」との答えが。マニアックなまでの情熱に感動するとともに、コーヒーに特化した研究を続ける人たちがいたからこそ生まれた商品であることをなんとしてもお客さまに伝えたいと、マーケターとして胸が高鳴りました。
雑談が生んだ名前「YOINED」の由来
──「YOINED」開発中のこだわりを教えてください。また、どんな人たちに手にとってほしいと考えていますか?
「YOINED」は、香りの「余韻」の体験にとことんこだわった商品です。
私も研究員から教えてもらったのですが、実は香りには2種類あると知っていますか? 口に入れる前に鼻から嗅ぐ香り「オルソネーザルアロマ」と、口に入れた後に鼻に抜けて感じられる口中香「レトロネーザルアロマ」です。この「レトロネーザルアロマ」を、コーヒーの専門用語では「アフターテイスト」と呼ぶんです。具体的にはコーヒーを飲んだあとに喉から鼻孔に抜ける香りと口腔内に残る香りを指し、アフターテイストにはコーヒーの味や香りの特徴が出やすいと言われています。
お客さまにコーヒー豆をまるごと食べているような感覚を味わってもらうには、固形の状態でもアフターテイストを強く保持させることが課題でした。そうして試作を重ねる中で、この新商品の本来の価値は「食べること」ではなく、「香りの余韻という体験」にあると気づいたんです。この「余韻」という言葉も、研究員との雑談中に生まれたものなんですよ。
さらに、香りの余韻という体験価値を象徴する名前として「YOINED」が付けられました。「YOINED」の香りや開発の秘密は、商品パッケージにも記載しているのでぜひお手に取っていただきたいです。
2024年に発売された「YOINED」の新パッケージ