日本の老舗企業には、何百年も前から「ブランドマネジメント」が根付いていた?~シリーズ「ブランドマネジメントの今」 第1回

[アドバイザー] えとじや 岡本晋介氏

欧米に端を発すると言われる、ブランドマネージャー制度。日本では大手企業の一部で導入されているが、最近では中小企業のほか、長い歴史を持つ老舗企業もブランドマネジメントという考え方に注目している。本シリーズでは日本企業が取り組むべき、ブランドマネジメントのあり方について考えます。

『宣伝会議』15日発売号にて、宣伝会議主催のブランドマネージャー養成講座と連動して連載中のシリーズ「日本企業とブランドマネジメントの今」より抜粋。本記事は2011年9月15日発売号に掲載されたものです。

地域の有力メーカーや老舗でブラマネ育成の動きが活発化

ブランドマネージャーの使命は、ブランドの世界観を醸成し、その本質を守りながら消費者の支持を得ること。具体的な業務で言えば、マーケティング活動を実現するためのマネジメント(利益管理・販売量の管理・価格戦略・社内調整)のほか、売上高目標を達成するためのマーケティング活動(一貫したメッセージやプロモーション・メディアプランニング・セールスプロモーションなど)などに取り組むことになる。

宣伝会議ではこのようにブランドマネジメントの基礎から実践までをレクチャーする「ブランドマネージャー育成講座」を2008年から開催しているが、近年、受講希望者が増加。申し込み企業もバラエティに富んでいる。ブランドマネジメント制度を導入している外資系企業や消費財を扱う日本企業はもちろんのこと、注目すべきは、地方の有力メーカーや中小企業、あるいは数百年の歴史を持つ老舗企業による受講が増えている点だ。全国から参加者が集まっており、今年8月に開催した講座では2~3割が東京以外からの申し込みであった。

そのニーズはさまざまで、「ブランドマネージャー制度の導入を検討している」という企業はもちろんのこと、「自社が築いてきた歴史やアイデンティティを引き継ぎ、伝統と革新のバランスを重視した戦略を実行したい」「地元の伝統産業活性化やブランド管理に取り組みたい」という声も聞かれる。

図1_老舗企業、中小企業がブランドマネジメントに関心を示している

伝統的な縦割り組織の弊害?日本の大手メーカーの課題

「そもそもブランドマーケティングとは、一言で言えば100年かけずに“老舗”をつくるための手法。だから評判や信頼、愛着を醸成して、裏切らずに強化しながら、継続的なマーケティング活動を通じてブランドをつくり上げてきた老舗企業には、意識せずともブランドマーケティングの考え方が根付いているのではないか」と説明するのは、えとじやの岡本晋介氏だ。岡本氏はP&Gで21年にわたりマーケティングに携わってきた経歴を持ち、前述の講座でも講師を務めている。

ブランドマネジメントの手法やシステムは欧米で築き上げられたものであり、日本古来の老舗企業には縁遠いもののようにも思える。ところが家訓や理念を大事にしながら「のれん」を守ってきた日本の老舗は、「創業者の考えを受け継ぎ、実行していこう」という考えが従業員に自然と共有されている。

ブランドマネジメント制の導入に成功している外資企業なども同様で、営業部門も管理部門も、全社員がマーケターと同じ目線で「自分たちでブランドを育てよう」という高い意識を共有している。「ブランドづくりによる経営が根付いていない国内の大手メーカーなどに比べれば、老舗の方がブランドマネジメント制の実行に適した精神構造が形成されている」と岡本氏は言う。

国内の大手企業の多くは縦割りの組織で、ブランドマネジメント制が根付かない、あるいはブランドマネージャーが育たないという課題を抱えている。それは社内のシステムや体制の問題で語られがちだが、そもそも「ブランド」に対する考え方や文化が大きく異なっている点も一因だと言えそうだ。

「多くの日本企業にとって、ブランドマーケティングは必要なときに選択可能な手段のひとつで、結果としてブランドができあがっていれば良い、という程度の位置づけになってしまっている。ブランドを育て、愛されるようにしていくことが目的で、その結果として売上や利益につながるという考え方を持っている老舗から学ぶべき点は多いのではないか」と岡本氏。

図2_「ブランドづくりによる経営」への認識の違い

自然とブランドが根付いていく「老舗」の精神的な構造とは

ではなぜ今、老舗企業や地方の企業がブランドマネジメントというシステムそのものに、関心を示し始めたのだろうか。岡本氏は「外資ブランドの侵食や地方産品のブランド化など、売れるブランドを目にする機会が増えたことで、ブランディングという考え方への“気付き”があったのではないか」と分析する。

老舗が時代に合わせて事業の成長を目指すとき、自社が築いてきた大切な何かを見落としていないか、慎重に見直すことになる。それこそがまさにブランド・エクイティ(資産)である。「古くからある事業=ブランドを大事に育てることが、会社の成長につながる」という認識を元々持ち合わせているだけに、彼らが長年続けてきた取り組みには学ぶべきヒントがありそうだ。

次回からは、実際にブランドマネジメントというシステムを学んだ老舗企業のインタビューを通じて、ブランドに対する考え方を探っていきたい。

※次回(第2回)は1月18日(水)更新予定。

[アドバイザー] えとじや 岡本晋介氏
1988年P&G入社以来、P&Gマーケティング一筋21年。7年間のブランドマネジメントを経験後、14年間、マーケティングコミュニケーションの社内コンサルタントを務める。「パンテーン」「ヴィダルサスーン」「SK-II」「Max Factor」「アリエール」「ボールド」「レノア」などのブランドのコミュニケーション戦略・企画を担当するかたわら、 ブランドマネジメントや関連部署、担当広告会社などの人材育成・教育・指導にもあたる。 2009年退社後、マーケティング・ブランディング支援を行う株式会社えとじやを設立、宣伝会議を通じ、数多くの研修などに携わっている。

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