反DEIと図書館の「Book Ban」特定の本の排除にどう対抗する?

イメージ ライブラリー

トランプ政権に代わり、DEI(Diversity、Equity、Inclusion)に関する連邦政府の政策を廃止していく方針が発表されました。その影響があるのか、アメリカの一部の企業におけるDEIに対する取り組みの方針変更がしばしば発表されています。

DEIの中でも、Diversity(以下、ダイバーシティ)つまり多様性は、多くの移民が存在し、ネイティブアメリカンが居住するアメリカではとりわけ重要な考え方です。私個人としては、アメリカに限らず、豊かでやさしい社会をつくっていくためにはDEIの考え方は必要であり、その排除は好ましくないと思っています。

今回のテーマは、ライブラリー(図書館)とダイバーシティ。詳細は後述しますが、日本においては大学などアカデミックな組織や機関のライブラリーは除いて、公立のライブラリーで「ダイバーシティ」に触れる機会の創出はあまり見られないかも、と思いこのテーマにしてみました。

ライブラリーとダイバーシティについて考えるきっかけは、息子が参加したBattle of Booksというライブラリーを起点とするイベントでした。

子どもが多様な生き方を学ぶ「Battle of Books」とは?

イメージ 「Battle of Books」

アメリカでは一部の州では、州ごとにBattle of Booksというイベントが開催されます。参加対象は小学校3年生から中学生。通常、州の図書館協会によってイベントは運営されています。

地域のライブラリーと図書館協会が課題図書を選び、生徒はチームを組んで、その本にまつわるトリビア、クイズバトルに参戦するというイベントです。オレゴンの場合は課題図書が16冊あり、Oregon Battle of Books(OBOB)と呼ばれています。

参加者は、学校大会、勝てば地域の大会、そして州の大会へとトーナメント形式で進み、州のチャンピオンを目指します。

「主人公が訪れた店の名前は?」「犬の犬種は?」「あの時描いた絵は何だった?」など、「そんな細かいところ、覚えていないよ!」というようなクイズが出るので、生徒たちは担当を決めて本を読み、戦いに挑みます。

これ自体が実際にやってみると読書習慣がつく、チームワークを学ぶ、などさまざまな観点でも子どもたちにとって良い機会となります。OBOB自体が面白い取り組みなので、ぜひ日本の自治体単位などで開催するのもおすすめしたい!と思うぐらいです。もっとここでOBOB自体の面白さについて話したいのは山々なのですが、長くなるので概要までにしておきます。

息子が参加するということ、そしてこの選書が素晴らしいと聞いていたことから、私も家にある本を数冊読んでみました。今年は映画にもなった「Wild Robot」のような話題の本もあり、読書として楽しめます。

選ばれた本のラインアップを少しだけ紹介すると、縮毛に悩むアフリカ系の女の子の話、インドネシアが舞台であろう中学生のクラブ活動の話、黒人コミュニティで育ったディスクレシアのアーティストの自叙伝、メキシコを舞台にしたファンタジーとまあさまざまです。

なるほどなぁと。16冊すべて読んだわけではありませんが、数冊目を通しただけでも、このBattle of Booksを通して、多様な生き方を学べるようにと意識されて設計されていることがよくわかりました。過去には、LGBTQの子どもを主人公とした書籍なども選ばれています。

OBOBに参加しなくとも、子どもに渡す書籍を迷った時にはこのOBOBの書籍リストから選ぼう、という親御さんが多いのはわかります。

本は知識と経験の宝庫とはよく言いますが、私が日本にいた時、幼少期に読んだ本の中で「多様性を学ぶ」という観点で選ばれた書籍に何冊出会ったかな?とふと思いました。アメリカでは、現在は、ライブラリーや書店が多様性を育むという観点で大事な役割を担っているのでしょう。

気になったので、ちょっと図書館の歴史とその社会における役割の変遷を調べてみました。

古代、いわゆるメソポタミアとかその時代においては、国家や宗教機関が知識を管理したり、保存したりする場所として存在し、それから中世へと移ると、宗教機関や修道院がその教義や学問を守り伝承していく場所として存在したようです。

そして近代になり公共の図書館が広まり、「教育」「民主主義」といった思想の普及に貢献していく形に変わっていきます。さらに近年の傾向としてはデジタル化、コミュニティ創造の拠点としての存在にもなってきているという変遷がありました。

歴史からも、広めるべき考え方や思想を伝える、という役割を図書館は担ってきたことがわかりますが、近年、図書館の使命として、広めるべき考え方のひとつに、DEIに謳われている多様性と包摂性が含まれているのは確実でしょう。それはアメリカのみならず、世界の流れなのではないかと思います。

特定の本を排除する図書館へのBook Banと対抗策

一方で、昨今、LGBTQや人種差別などの特定の本を学校や公共の図書館から排除しようという動きもアメリカではあります。それを「Book Ban」と呼び、それへの対抗策として「Book Against Book Ban」という動きもあります。

その対抗策のひとつになっているのが「Little Free Library」を利用して本を届ける方法です。

イメージ 「Little Free Libraries」

Little Free Libraryは聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、簡単に説明を。

アメリカの家のまえに、小さなポストのような本棚が設置されていることがあります。そこから自由に好きな本を借りて、読み終わったら返すか別の本を入れていくという仕組みです。

イメージ 「Little Free Libraries」

本棚を設置したい人は、サイトで登録をすると、マップに表示がされます。この仕組みを使って、Book Banされた本を並べる動きも各地で起こっています。

前編はここまで。次回は、最近オレゴンのライブラリーでもスタートした、多様性を伝えるユニークなイベントを紹介します。

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松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)
松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

松原佳代(広報コンサルタント/みずたまラボラトリー 代表)

スタートアップの広報育成・支援を手がける「みずたまラボラトリー」代表。お茶の水女子大学卒業後、コンサルティング会社、出版社を経て、2005年に面白法人カヤックに入社。広報部長、事業部長を兼任したのち子会社カヤックLivingの代表取締役に就任。移住事業の立ち上げに参画。2019年、家族で米国ポートランドに移住。一方、2015年に自身の会社「みずたまラボラトリー」を設立し、広報戦略、事業開発、経営全般にわたる経験と実績を活かしスタートアップの広報育成と支援を展開。富山県出身。富山県の経営戦略会議ウェルビーイング戦略プロジェクトチーム委員も務める。

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