[特別編]オリジナルキャラを宣伝に使う場合は常識人の対応で炎上回避

私はこれまでにかなりの炎上騒動を経験した過去があり、けっこう炎上や罵倒に慣れてしまったところもあるのですが、企業の方々と会うと、今でも炎上を恐れているケースをよく見聞きするものです。

炎上には様々なケースがありますが、その中でも対処と事前の心構えがなんといっても難しいのは「元作品」「元キャラ」があるものを他人が使うケースですね。人気作品/キャラであればあるほど、愛する人(「信者」も含め)が多いわけで、「なんでこんな風にデフォルメするの!」や「これは私の好きな◯◯ちゃんじゃない!」と怒りたくもなるものです。最近では、「実写版ドラえもん」(トヨタ自動車)や「正社員サイボーグ003」(スタッフサービス ※後に女優・多部未華子が『派遣社員サイボーグ022』に続く)などがありますが、「面白いwww」と人気となり、動画の再生回数などもかなり多くなっています。

で、普段の炎上については色々と私も書くことができるのですが、いかんせん、「元作品があるネタ」については経験がないので、経験者から「炎上しない方法」「心構え」「事前の準備」について取材をしてきました。

話を聞いたのは、お笑い芸人のなだぎ武が演じる「ディラン」を「消臭力ぷくポン」に、そしてタカラトミーの人気キャラ「リカちゃん」を「ムシューダ」のCMに起用した生活雑貨メーカー・エステーの特命宣伝部長である高田鳥場氏です。

鳥場氏が大事だと考えているのは、「長年かけて築いてきた人気のあるブランドを、カネの力で『消化』するだけではいけない」ということです。

キャラの権利者がノッてくれるような企画を提案しなくてはいけない

話は「ぷくポン」から開始しますが、ピン芸人No.1を決めるR~1ぐらんぷり覇者であるなだぎにとって、何よりも大切なキャラクターは『ビバリーヒルズ高校白書』にいかにも出てきそうなおとぼけ外国人キャラのディラン。

普通に考えれば、なだぎを起用する段階でディランのキャラを使いたくなるものですが、「ぷくポン」の企画をつくるにあたり、なだぎと打ち合わせをした鳥場氏は“ディラン”という名前を進んでは出さなかったそうです。

「キャラクター使用を納得してもらったというより、向こうに、ぜひ、と言ってもらえるような関係値をなだぎさんと作りました。なだぎさんの宝であるディランを使いたい、というのは、“消費すること”なのです。僕らは“なだぎさん!やっぱこの企画はディランでいくしかないでしょう!”なんて言いませんでした」(鳥場氏)

鳥場氏はなだぎに対し、企画全体を説明し、使いたい映像やなだぎにダンスをして欲しい旨を伝えたところ、なだぎはこう言ったそうです。

「これだったらディランでしょ?」

そして、鳥場氏はこう言いました。

「なだぎさん、ディランを大切にしているでしょ?」

なだぎはこう答えました。

「でも、これってディランでしょ? ディランでいきませんか?」

結果的にディランというキャラクターのことを一番分かっているなだぎが「ディランでいきませんか?」と提案しただけに、鳥場氏は振り付け指示などを一切しなかったといいます。

結局キャラの“消費”を狙うとロクなことはない

「なだぎさんのディランを“消費”したり、“あてはめる”のではなく、とにかくなだぎさんと一緒にやり、振り付けも彼に考えてもらいました。とにかく“一緒にやる”ことが重要です。キャラをエステーのために使うことでダメにするのではなく、僕らはなだぎさんに愛情いっぱい注ぐことを考えました。パートナーとして一緒に仕事をしたのです」(鳥場氏)

また、エステーは「ムシューダ」のCMにも今年で発売から45年になるタカラトミーの「リカちゃん」を2010年にCMに起用し、同商品のキャラ「熊雄」と「熊雄の兄」と共演させました。これについては、CM制作スタッフがリカちゃんにまつわる書籍を多数読んで研究を重ねるところから始めたといいます。

そして、リカちゃんの服に虫食いによる穴が開くのは可哀想だと考え、穴を開ける衣類は靴下にしました。さらに、決してスタイリッシュとは縁遠いキャラクターである「熊雄」と共演するだけに、リカちゃんが可哀想に見える演出や、茶化すようなことはやめました。結果、リカちゃんの担当者からは「そんなに理解してくれてありがとう」と言われ、企画が無事進んだそうです。たまたま熊雄のファンがタカラトミーにもいたことも好影響を与えました。鳥場氏は元ネタがあるキャラを自社のために使うことについてこう警鐘を鳴らします。

「他社の人気キャラを使うことは、“人気を消費する”ということです。リカちゃんが、熊雄の力で飛ばされるとか、転ぶとか、『あなた虫食われているよ』とか言われる演出をすることは、リカちゃんの人気と世界観を使って、こちらだけが得するやり方です。これはあくまでも“消費する”ということでしかありません。これをやるとファンからの反発は起こりますし、両ブランドを毀損することになります」

鳥場氏が語るのは、「元ネタの所有者の信頼を勝ち得る」というごく当たり前のやり方でした。でも、企業の宣伝担当者ってとにかく社内で「これじゃウチの商品が目立たないじゃないか、エッ! カネ払ってるんだからそんなの気にするな!ウチのやりたいようにさせろ!エッ!」なんて上司に言われるのを恐れ、時に元ネタをぞんざいに扱ってしまうこともありますよね(いくつか思いつくものありますが、言いません。あ~言いたいぜ)。

結果それが元ネタファンからの反発を買うわけですし、相手先とは今後付き合いづらい関係になったりするわけで…。なんだかんだいって、仕事ができる人ってアイディアとかそういったこと以前に、配慮ができる人なんだなぁ、と思ってしまった次第でございます。

ちゃんとその先にいるファン、そして権利者のことを配慮すれば、そうそう炎上なんてしないものであるようですよ~。皆さんも気をつけてくださいね。

最後に鳥場氏のひとことを

「人気キャラ・タレントを使わせる皆さん、広告は、その人気を使おうとするものなので、契約金が高いのは自然なことです。やっぱお金取らないとダメですよ」。

中川淳一郎「ネットで人気ものになるネタの生まれ方!」バックナンバーはこちら
中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)
中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)

1997年博報堂に入社。コーポレートコミュニケーション局に配属となり、企業のPR業務を担当。2001年に退社し、『日経エンタテインメント!』のライターとして活動後、「テレビブロス」編集者になる。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などをしながら、2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者になる。現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するプランニング業務も行っている。宣伝会議「Web&ソーシャルライティング実践講座」「戦略PR講座」講師。肉巻きアスパラ大好き。

Blog: http://blog.goo.ne.jp/konotawake
Twitter: http://twitter.com/unkotaberuno

中川 淳一郎(ニュースサイト 編集者)

1997年博報堂に入社。コーポレートコミュニケーション局に配属となり、企業のPR業務を担当。2001年に退社し、『日経エンタテインメント!』のライターとして活動後、「テレビブロス」編集者になる。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などをしながら、2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者になる。現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するプランニング業務も行っている。宣伝会議「Web&ソーシャルライティング実践講座」「戦略PR講座」講師。肉巻きアスパラ大好き。

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