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6日で1万台を販売したフォードの成功事例「フィエスタ・ムーブメント」を振り返る
海外のソーシャル・マーケティングはどうなっているのだろうか。
ここで、2009年に始まったFord Fiesta Movement(フォード・フィエスタ・ムーブメント)を振り返っておきたい。
2010年1月にハーバード・ビジネスレビューで、「フォードはいかにソーシャル・マーケティングをうまくやっているか(How Ford Got Social Marketing Right)」がリリースされた。このレポートを書いたグラント・マクラッケン(Grant McCracken)は、フォード・フィエスタ (Ford Fiesta)のマーケティングは、「デジタル空間における賢明な方法を示している」と高く評価している(※グラント・マクラッケンはMITの調査アフィリエイトで「Chief Culture Officer」などの著者)
フィエスタ・ムーブメントは、100人の生活者に6カ月間フィエスタを提供し、毎月異なるミッションを依頼するというもの。2009年12月28日の Ikedahayato.news「SMM事例研究」やTRIAL’S BLOGの池田勇人氏執筆の記事でも紹介されている。
フォードは、2010年のフィエスタ発売に先駆けて、フォードはソーシャルメディアスペース(マイクロサイト、Facebook、YouTube、 Twitter、Flickr、その他)を活用したマーケティングを行った。その結果、YouTubeで600万PV、Flickerで74万PVを稼ぎ、認知度は60%向上。8万人がフィエスタを購買すると手を挙げ、1ドルの広告費も使わず、若干のマーケティング予算を支出しただけで、フィエスタは発売開始から6日間で1万台のセールスを記録した。
100人のフィエスタのエージェントに課されたテーマは、誰かを巻き込まないとできないものばかり。多岐に渡っていて、遊び心に飛んだ内容となっている。
以下に、Ikedahayato.newsで紹介されたものを紹介する。
- Travel
「今までに海を見たことが無い人をFiestaに乗せて、海まで行く」 - Technology
「パナソニックのタフブックがどれくらいタフか試す」 - Style/Design
「デザイナーのマット・ムーアにFiestaをデザインしてもらう」 - Social Activism
「障害者のボーリング大会を支援する」 - Adventure
「目隠しをしてペイント弾を打ち合うゲームをする」 - Entertainment
「犬にサッカーをさせる」
この動画やFlickrへの投稿、ブログ記事は100人のエージェントが、自発的に行ったもので、フォードは広告費を使っていない。エージェントは、「マーケター、女優、歌手、ビデオアーティストなどで、セルフブランディングを目的にFiesta Movementに参加していると思われます」(Ikedahayato.newsより)。
マーケターの仕事は、人々に文化的な楽しみを提供することになった
また、グラント・マクラッケンは、フォードの事例からソーシャル(デジタル)マーケティングの成功のための3ステップをあげている。
- 文化的にクリエイティブな消費者をコンテンツをつくることに従事させる。
- そのコンテンツをデジタル通貨のかたちで、ソーシャルネットワークやデジタルマーケットで広める。
- これを紡ぎだすことでブランドへの信用として返ってくる。
この3ステップとは、マーケティングの仕事を外部に委託(アウトソース)することだが、その過程で、ブランドが担う役割は、エージェントが文化的・創造的で楽しい活動ができるようにすることだ。そこで、グラント・マクラッケンは「マーケターの仕事は、人々の文化的な活動を手助けすること」と位置付けている。
また、池田勇人氏は、クマムラゴウスケ氏のブログを引用しつつ、フォードのマーケティングの成功要因を「エージェントたちが自発的に発信する内容がクリエイティブであり、かつこのマーケティングを仕掛けたフォード側が、従来情報の受け手ととらえられていた一般生活者を情報の発信者としてとらえていること」の2点をあげている。
進化するソーシャル・マーケティングにどう対応するか
フィエスタ・ムーブメントは、クール&スタイリッシュなイメージを打ち出し、ジェネレーションYと呼ばれる若年層をターゲットにしたトヨタのサイオン (Scion)を意識したものだ。
そこで、フィエスタ・ムーブメントの成果が出る前は、この新しいマーケティング手法に対して、「トヨタの二番煎じ」「当てにならないギャンブル」など、どちらかというと否定的な論評も見られた。しかし、ふたを開けてみれば大成功となった。
一方、2011年に始まったAQUAのソーシャル・マーケティングも、新しい試みが取り入れられている。
昨年、トヨタマーケティングジャパンが開催したソーシャルアプリのコンテスト「TOYOTA SOCIAL APP AWARD」もそのひとつ。「クルマの楽しさ・面白さを広く若い世代へ伝える活動の一環」として、クルマに関連するソーシャルアプリのアイデアを広く募集し、優秀なものを表彰するとともに、実際にアプリとして開発・サービス提供するというもので、 コンテストには、グリー(GREE)やディー・エヌ・エー(モバゲータウン)、ミクシィ(mixi)のほか、ソーシャルアプリ業界からも審査に参加した。若手クリエーターらによるさまざまな新しいクルマの楽しみ方を提案するアイデアが集まり、5月13日の締切りまでに、1255の企画が寄せられた。うち3作品がグランプリに選ばれ、6月21日には授賞式が開催された。
こちらは、フォードのフィエスタ・ムーブメントにおけるクリエイティブなアイデアを、ソーシャルアプリに絞ったかたちとなる。
また、AQUA SOCAIL FES!!(アクアフェス)は今年3月に始まったが、その直前の3月2日、3日には、学生をターゲットにした「AQUA SOCIAL FES!! Student Camp」が行われている。全国から学生が集い、社会を変えていくためのグットアイデアや、それを実現するためのプロジェクトの作り方について様々なジャンルの講師陣から学び、実際に「楽しく社会を変えていくグッドアイデア」をプロトタイプするというもので、全国 47 都道府県から各 2 名程度が参加した。
そのなかで、アクアフェスの仕掛人、岸勇希氏(コミュニケーション・デザイナー、電通)は「“SAY”から”DO”へ!」というスローガンの意味を解説している。
※詳細はこちら
Greenz.jpで報じられた「AQUA SOCIAL FES!! Student Camp」での岸氏の講義から、広告コミュニケ―ションの機能を「言う」「伝える」から「やる」「行動する」へと進化させていることがわかる。
そして、アクアフェスでは実際にAQUAのオーナーやほかの参加者たちが環境活動を行う「DO」がプログラムに埋め込まれている。フォードのフィエスタ・ムーブメントではアクティビティの社会貢献性は要素のひとつだが、アクアフェスでは、環境活動のなかに楽しさや達成感が盛り込まれている。
「ソーシャル」の時代になり、企業のマーケティング・コミュニケーションの進化の速度が速くなっており、いかにして新鮮さや独自性を打ち出すかに、関係者が知恵を絞っていることがうかがえる。
と、同時にこうした先駆者たちの取組みを、自社や自分の担当するブランドや商品にどう落とし込むかという課題に頭を悩ませている担当者も多い。「ソーシャル」は、やり方を間違えると消耗戦になってしまうので、ここ数年のソーシャルブームにもはや「疲れ」「行き詰まり」を感じているケースもあるだろう。
この山を乗り越える方法はあるのか、次回、そのヒントを探ってみたい。
【連載】
エネルギー問題や自然環境保護など、環境問題への対策や社会貢献活動は、いまや広告・広報、ステークホルダー・コミュニケーションに欠かせないものとなっています。そこで、宣伝会議では、社会環境や地球環境など、外部との関わり方を考える『環境会議』と組織の啓蒙や、人の生き方など、内部と向き合う『人間会議』を両輪に、企業のCSRコミュニケーションに欠かせない情報をお届けします。 発行:年4回(3月、6月、9月、12月の5日発売)