知り合いのイラストレターの女性は、週に一度、かつて自分が所属したプロダクションで仕事をする。普段は自分の仕事をこなしつつ、週一で辞めた会社ともうまくやっている。傍から見ると、すごく羨ましい関係だ。
さて、フェースブックやツイッターなど、ソーシャルメディアの普及は、言うまでもなく僕らの交友関係を広げた。中でも劇的なのが、旧友や昔の取引先といった“再会”である。ツイッターがきっかけでウン十年ぶりに同窓会を開いたり、フェースブックで昔の取引関係が復活したりといった話はよく聞く。その昔、某テレビ番組で「友だちの友だちは皆、友だちだ」というフレーズが流行ったが、つまるところ、ソーシャルメディアは「友だちの友だちを探すメディア」である。友だちを辿っていくことで、交友関係が広がっていく。
ただ、そうなると問題も生じる。必ずしも会いたくない相手とも、接触してしまうことである。例えば、別れた恋人とも、友だちの友だちを辿れば、いつかどこかで繋がってしまう。ソーシャルメディアの性格上、避けて通ることは難しい。辞めた会社の上司や、トラブルで疎遠になった取引先とも“再会”する危険性は十分ある。
そこで、冒頭の話に戻る。辞めた会社と良好な関係を保つ――もしかしたら、それはソーシャルメディアの社会では必要不可欠な要素かもしれない。辞めた会社に限らない。別れた恋人、トラブルを起こした取引先――要は、「ソフトランディング」である。何らかの原因で袂(たもと)を分かつことになっても、決定的な別れ話にしない。もはや昔のように、別々のテリトリーで生きることは不可能である。この先、いつ再会しないとも限らない。ならば、腹をくくって全方位外交というか、良好な関係を保つ生き方が賢明ではないだろうか。
極端な例を挙げる。昨今「離婚式」なるイベントが注目を浴びている。離婚式プランナーの寺井広樹さんが一昨年から手掛けているもので、文字通り、離婚の儀式を執り行う。新郎新婦ならぬ“旧郎旧婦”がいて、仲人ならぬ“裂人”が立ち会い、参列者はご祝儀ならぬ“ご終儀”を持参する。これがなかなか評判で、一昨年は6組だったのが、昨年は53組、更に今年は昨年を上回るペースだという。これなど、友人・知人を巻き込んでの離婚のソフトランディングである。
また、意味合いは少々異なるが、近年、電通や博報堂といった大手の広告代理店が、シンガタやワンスカイ、博報堂クリエイティブ・ヴォックスといったプランニングブティックを設立するケースが目立つが、これもソフトランディングの1つの方法じゃないだろうか。自社の有能なクリエイターたちの独立心を尊重しつつ、組織との関係性も維持させるという意味合いで、その“組織内独立”は効果的である。
この先、日本の離婚率は増加の一途を辿り、転職希望者も増え続けるだろう。だが、元のパートナーと完全に関係を断ち切るのではなく、ソフトランディングで良好な関係を保つことは、けっして悪い話ではない。ソーシャルメディアの社会では、復縁のチャンスはいくらでもある。
友だちの友だちは、皆、友だちなのだ。
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