カタログ燃費と実燃費の違いが再購入の意向に影響している可能性
前回「アメリカ人の6割超がハイブリッド車を2度と買わない?」に対する反響は思いのほか大きく、エコカー・マーケティングへの関心の高さを実感した。
ハイブリッド車を再購入したいと思わないアメリカ人が多い理由には、2010年2月、社長に就任したばかりの豊田章男氏がアメリカ議会の下院公聴会で受けた質疑など、一連のバッシング報道の影響も否定できない。大きな業界団体を形成することから政治的に利用されやすい商品である。
そのほかに日本ではテレビCMによる「補助金」連呼も大きく影響している可能性がある。
さらに、ドライバーの実感を考えると、一般ドライバーにはカタログ燃費をなかなか出せないことがあるのではないかと考えられる。日米両国の思考傾向から、日本人は「カタログ燃費が出せないのは自分の運転が未熟だから」「街乗り中心でストップ・アンド・ゴーが多いので仕方がない」と考えるが、アメリカ人は「クルマが悪い」または「自分には向かない」と考えるのではないかという仮説がたつ。
日本人でも念願のハイブリッド車を手に入れ、嬉々としてドライブに出かけたが、カタログ燃費の7~8割程度しか出せず、がっかりしたことがある人は少なくないのではないだろうか。
どうしてカタログ燃費を出せないのか、モータージャーナリストに聞いてみた
カタログ燃費と実燃費の乖離の問題について、モータージャーナリストの鈴木ケンイチ氏(@danganjiro)に聞いてみた。
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ガソリン価格の高騰や気候変動の原因とされる二酸化炭素排出量が話題になるほどに、クルマの燃費性能への注目は高まるばかり。そんな時代のニーズに応えるために、自動車メーカーはクルマの燃費向上の技術開発や、そのアピールに懸命に取組む。
そうしたときに大問題となるのがカタログ燃費と実燃費の乖離だ。燃費は、同じクルマであってもドライバーや環境、走るルートによってあまりにも大きな差が出てしまう。そのため、燃費性能の測定方法は、より実走行に近いように改められてきた。
- 最初は、時速60kmでの一定速度での走行。
- 加速や停止を織り交ぜた10モード。
- 市街地を想定した10モードと郊外の15モードを組み合わせた10・15モード。
- 2011年春からは、エンジンが冷えた状態からのスタートも加えたJC08モードを導入。
カタログの燃費数値と実燃費とのギャップを縮めようという努力は、業界を挙げて実施されているのだ。
しかし、それでもギャップはゼロにはならない。そこには、ドライバーの問題だけでなく、メカニカルな理由も存在している。そのひとつが、ハイブリッドカーにある。
ハイブリッドカーが燃費のよい理由を簡単に言えば、減速で捨てていたエネルギーを再利用できることだ。減速の力で発電を行い、その電気でエンジンが不得意とするゼロ発進をモーター走行に置き換えるのだ。効率の悪いゼロ発進は電気&モーターで行い、そのためのエネルギーは本来捨てていた減速エネルギーを使う。つまり、カタログ燃費を測定するような発進&減速を繰り返す走りに向いた仕組みなのだ。だからこそ、カタログ燃費では、驚くような良好な数字が出てしまうのだ。
逆に一定速度で淡々と走るシーンでは、その真価は発揮できない。減速が少ないとモーター用のエネルギーを回収できないし、モーターを使う機会も少 ない。
結局のところ、ほとんどをエンジンで走る、しかも重い電池とモーターを背負いながら…ということになる。
ある意味、ハイブリッドカーはカタログ燃費に適合しすぎた技術だからこそ、リアルワールドでの燃費との乖離も大きくなりがちなのだ。しかも、元の期待が大きいほど、それが達成できなかったときの失望は大きくなる。特にハイブリッドカーは、エンジン以外にモーターやバッテリーという普通のエンジン車にはない機構を備え、その分だけ車両価格は割高になる。「高いものを買ったのだから」という気持ちが底にあれば、たとえ他のエンジン車よりも数字がよくても、カタログ燃費に実燃費が届かないと残念な気持ちになるのも仕方ないのではないだろうか。
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モータージャーナリストのエコカー試乗に同乗させてもらうと、彼らはクルマの性能をよく理解したうえで、性能を発揮できるように運転技術を駆使しているので、カタログ燃費に近い値が出て感動したりするのだが、その巧みな運転をみていると、「一般ドライバーには難しい…」と思う。
と同時に広告メッセージにカタログ燃費の優位性を強く打ち出すと、実燃費が低い(運転が下手な)ドライバーほど自分の運転技術を棚上げしてメーカーに不信感を抱く可能性が高いと思う。
モータージャーナリストや週末にボンネットを開けて整備するなど、クルマ好きな一部のドライバーを除き、一般的なドライバーが年々高度化するクルマの性能を理解して独習で運転技術を高めるのは困難だ。メーカーの開発努力を活かすためにも、マーケティング・コミュニケーションを通じた運転技術向上への働きかけにも期待したい。クルマがドライバーの癖を学習して勝手に燃費をよくするようなハイテクもいいかもしれないが、運転がうまくなることで同乗する家族や友人に喜んでもらえることも、カーライフをより楽しいものにしてくれるはずだ。
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