安野モヨコ『働きマン』、三田紀房『ドラゴン桜』など数々のヒット作を担当した、講談社モーニング編集部の佐渡島庸平さん。「日本の漫画家が、ハリウッドスターやメジャーリーガー並の収入を得られるしくみを作りたい」と話す佐渡島さんに、別冊『編集会議』(@henshukaigi)「編集の流儀」を聞いた。(この記事は別冊『編集会議2012年夏号』・5月11日発売の記事を再構成したものです)
「絶対に才能がある」漫画家に就職させた責任
累計発行部数700万部を突破し、映画が5日に公開されたばかりの漫画『宇宙兄弟』。主人公南・波六太(ムッタ)が上司に頭突きをかまして会社をクビになった一方、弟・日々人(ヒビト)は日本人初の月面着陸者に選ばれる。物語は、ムッタが「お前が月に行くんなら、兄ちゃんはその先へ行くに決まってる。――火星に行くよ」とヒビトに宣言した言葉を思い出し、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士選抜試験に挑むところから始まる。連載は2007年12月発売の『週刊モーニング』からスタートした。
担当編集者は講談社モーニング編集部の佐渡島庸平さん。『宇宙兄弟』の作者・小山宙哉さんには特別な“責任”がある。「絶対に、才能があります」と、デザイナーを辞めてもらい、漫画家のアシスタントから修行させたのだ。
「小山さんには年をとっても長く続く作家になってほしいですし、僕が担当を外れてしまったとしても、編集者がたくさん集まってくるような大ヒット作品を描いていただかなくては、と考えていました」。
無名の新人作家の漫画を、より多くの人が読むためには――考えぬいて生まれたアイデアが、「宇宙」と「家族」というテーマを掛け合わせることだった。名前で選ばれるよりはテーマで選ばれるはず。仮に宇宙モノが好きな3000人と、家族モノが好きな3000人が作品を読み、周囲に進めれば、次は1万人以上が手に取るかもしれない、そんな発想だった。
「作品とは種のようなもので、見事花を咲かせるのはすべて種の力です。編集者が見計らわなければならないのは、水や肥料をあげるタイミング」と話す佐渡島さん。今年3月23日の最新刊発売、4月のテレビアニメの放送開始だけでなく、ムック本の出版や、書店の装飾コンテスト、ソーシャルゲームの配信など、クロスメディア展開やプロモーションをしかけたのも彼の仕事だ。すべての企画が同じタイミングで始まるように2年前から仕込んでいたという。
「編集者は、自分の才能を認めてほしい人が就く仕事ではなく、他人の才能を認めるのが好きで、誰も気づいていない人の良さを高く売る、まるで古美術商のような仕事ですね。これからアジア市場も大きくなるでしょうし、世界でも日本の漫画がもっと読まれるはず。日本の漫画家がハリウッド・スターやメジャーリーガーと同じくらい、収入を得られるしくみを作りたいんです」。
(この記事の全文は、『編集会議2012年夏号』にて)
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