トヨタ、連結営業利益1兆円超え、次のマーケティングにも高まる期待
4月9日、トヨタ自動車が2013年3月期の連結営業利益(米国会計基準)が1兆円になるとの見通しを発表した。前年比は2.8倍。朝のテレビ番組やオンライン、新聞でこのニュースに触れた少なからぬ人が「元気」をもらったのではないだろうか。「復興の星」アクアがバカ売れということで、決算発表に期待していた投資家も多かったことだろう。
「ソーシャル」なマーケティング活動に関心のある読者は、AQUA SOCIAL FES!!(アクアフェス)の次の展開が気になってくる頃かもしれない。また、いち視聴者の立場からは、ブロンディのヒット曲「ハート・オブ・グラス」のキャッチーなメロディに乗ってビタミンカラーのAQUAが走るテレビCMもいいが、早く次のバージョンが見たいと思う。
好業績だと、クリエイティブにも、プロモーションにも潤沢な予算が確保されるのではないかと期待してしまう。4月22日に開催されたアクアフェスの「保水の森再生とホタルの水辺再生作業体験」では、トヨタマーケティングジャパンの折戸弘一さんがいつも以上に張り切っているように見えた。いまから思うと、決算発表を前にして、気持ちが浮き立っていたのかもしれない。
ちなみに、製造業にとって円高は完成品を輸出には不利でも、材料を輸入する際には有利に働く。1ドル79円75銭の円高を記録した1995年は、トヨタが最高益を更新した年だ。
モノづくり企業のチャレンジ精神は雇用と社会の安定に効く
インターネット産業のGDPに占める割合が約3.7%となり、自動車産業などの約2.7%を上回るようになった(グーグルと野村総合研究所(NRI)による『インターネット経済調査報告書』)。これを受けて日本の「モノづくり偏重」を批判する経済評論もある。
それでもやっぱり自動車産業が元気だとうれしいのか、ニュースを読むアナウンサーの声にも歓喜がにじむようだ。クルマが売れる、メーカーが儲かる、市場が活気づく、消費が上向く……という、80年代の好景気を思い出させるからだろうか。あるいは、「モノづくり」企業のチャレンジ精神に、スポーツの試合を見たときのようなすがすがしさを覚えるからだろうか。
昨年、GDPが中国に抜かれ第3位になり、先週の英エコノミスト誌では、購買力平価での一人当たりのGDPは2017年に韓国に抜かれるという予測も出た。世界経済フォーラムの国際競争力ランキングでは、2010年6位から2011年9位にダウンするなど、日本の地位低下を示す統計指標は増える一方だ。
しかし、モノづくりの競争力があるなら希望が見える。もちろん、金融や貿易、インターネット・サービス産業など、ほかがどうでもいいというわけではない。
ただ、日本ではGDPに占める製造業の割合が低くなったとはいえ、まだ20%近くあり、アメリカ、イギリス、フランスよりも高い。製造業は、工場のみならず、物流や流通のほか、立地エリアの飲食店など、周辺分野への波及効果が大きく、これが雇用に効いてくる。
人口減少に転じたとはいえ、日本はまだ1億2000万人の人口を抱えており、人々が働いて生計を立てていくうえで「モノづくり」の力は大きい。
2011年の日米の失業率は4.5%と8.9%。GDPに占める製造業の割合は、日本が19%台、アメリカが11%台となっている(2008年)。昨年の「ウォール街を占拠せよ(OWS)」運動は、高い失業率や非正規雇用によるワーキングプアの増大を招いている金融資本主義やそれを野放しにしている政治への不満が表れたものだ。
ソーシャル・マーケティングは何のために行うのか
さて、「ソーシャル」の話題に戻る。
2011年は北アフリカの「アラブの春」でも、OWSでも、ソーシャルネットワークサービス(SNS)が活用された。北アフリカは若年人口が多いにもかかわらず、観光以外に競争力のある産業がない。失業率が高く、貧富の差が大きい。大きな原因の1つは雇用に効く製造業が弱いことだ。アメリカではオバマ政権は製造業復活と雇用創出を掲げたがうまくいっていない。どちらも仕事がなくておカネがなくて、肉体的にエネルギーが余っている若者たちがソーシャルメディアによってつながった現象だ。しかし、理念やリーダーシップや行動計画がない状態で、これから何ができるのかはまったく未知数だ。
一方、未曾有の大災害にみまわれ、政治に不満をもちながらも、どうにか安定を保っている日本では、トヨタマーケティングジャパン(TMJ)が「TOYOTA SOCIAL APP AWARD」や「AQUA SOCIAL FES!!」を開催し、クルマを売るため、カーライフを楽しむため、アプリ開発から自然環境の保全まで、新しいコミュニケーションにチャレンジしている。
実際、フェスに参加してみると、いったいこの活動の目的は、「クルマをつくって売ること」なのか、「参加者に楽しんでもらうこと」なのか、「自然環境の保全なのか」わからなくなってくる。しかし、これが日本流「ソーシャル」なのかもしれない。
あまりにも人間の便利さ中心に偏った経済活動の結果、人間が生きる社会とそれを支える環境がおかしくなりつつある。行き過ぎれば経済活動の基盤が成り立たなくなってしまう。悪循環の連鎖を断ち切るには、経済活動に社会の価値を組み込んでいかなければならない。企業単独では実現が難しいので、もともとソーシャルな存在であるNPOをパートナーに、個人を巻き込んでいく。TMJはこのようなマーケティングを、企業と社会と生活者が垣根を超えて一緒に成長する“共成長マーケティング”と呼んでいる。
前回、歴史的経緯から、日本人は「ソーシャル音痴」であり、ソーシャルメディアを活用していこうという貪欲さも弱いのではないかという仮説を述べた。しかし、TMJの活動を取材してみると、自分たちの歴史や文化の文脈に合った「ソーシャル」の創造が、いまのマーケティング・コミュニケーションの課題であることが見えてくる。
※『人間会議』2012年夏号(6月5日発売)では、「ソーシャルメディアの本質」を特集しています。
エネルギー問題や自然環境保護など、環境問題への対策や社会貢献活動は、いまや広告・広報、ステークホルダー・コミュニケーションに欠かせないものとなっています。そこで、宣伝会議では、社会環境や地球環境など、外部との関わり方を考える『環境会議』と組織の啓蒙や、人の生き方など、内部と向き合う『人間会議』を両輪に、企業のCSRコミュニケーションに欠かせない情報をお届けします。 発行:年4回(3月、6月、9月、12月の5日発売)