文/Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣
【レポート(1)「勢い増すインターネットTV、「見たい広告を選べる」Hulu」はこちら】
【レポート(2)「モバイルや体験型イベントで証明、“ブランドストーリー”の威力」はこちら】
【レポート(3)「モバイルアプリ&ソーシャルメディアサービスの気鋭たちのコンペ」はこちら】
今回のカンファレンスではテクノロジーサイドから音楽配信サービスのSpotify、マイクロブロギングプラットフォームのTumblrのCEOらが登場。若者層との接点づくりに強みを持つ各プラットフォームと、有名ブランドとの距離はより近付きつつある。
※このレポートは、『宣伝会議』5月15日号に掲載されたものです。
コカ・コーラとSpotifyのパートナーシップ契約
私はたまたまこのカンファレンスの会場でリハーサルを鑑賞するというラッキーな機会に恵まれた。各講演者がひとりずつ順番に登壇し、スピーチの練習を行なった。なかでもSpotifyのCEO、パトリック・バトラーとダニエル・EK氏は準備に余念がなかった。Teleprompting Script(観客から見えないように原稿が映る機材)を用意して万全の体勢で臨んだのは30人を超えるスピーカーの中で、彼一人だけである。
Spotifyは、米国および西欧諸国で利用することができる。1000万人を遥かに超えるユーザーと1600万曲以上の音楽配信サービスだ。広告収入と課金モデルで成り立っている。
コカ・コーラは、Spotifyを戦略上重要なパートナーと考え、パートナーシップ契約を結んだ。わずか設立4年の会社にとって、その名をとどろかせるためにはコカ・コーラというブランドの影響力は絶大な効果をもたらすに違いない。一方、コカ・コーラにとってSpotifyを利用する若者をファンとして巻き込むのは必須であり、アップルのように音楽というストーリーをブランドの一部に根付かせる絶好の機会となる。
コカ・コーラは今後、同社のフェイスブックと連動させ、Spotifyをキャンペーンの中核のメディアと位置づける。たとえば、オリンピックイヤーの今年、「Year Music」という名のキャンペーンとともに専用アプリをSpotify内に立ち上げる予定である。2020年までには、世界中のティーンの人口が全体の3分の1にまで及ぶと見られ、2倍のレベニューを狙う同社としては、彼らにリーチすることの意義は大きい。
ダニエル・EK氏は、「コンテンツこそが、次のジェネレーションにおけるブランドの経験になる」と締めくくった。
タンブラーのCEO「オンライン広告を始める」宣言
日本ではまだあまり馴染みのない、若年層に人気のTumblr(タンブラー)。タンブラーの名は若いクリエーターからよく聞いていたが、CEOのディビッド・カープ氏のことはよく知らなかった。そのため、カープ氏が登場した時には少々驚いた。「ディビッド、おまえもか? 」と、彼の10代の面影さえ残る表情をみて思った。
創設わずか5年。マイクロブロギングプラットフォームを提供するタンブラーの若き創業者は、少しはにかみながら「皆さんの前でこのニュースを発表できることに、とてもわくわくしています」と前置きし、5月2日からペイド・アドバタイジングを始めることを告げた。
なぜ照れる必要があったのか? 通常、アメリカ人がこのような席でみせる表情としては異例だと私は感じた。最初は年齢のせいだろうと思った。しかし、理由があった。
アドエイジによると、2010年にロサンゼルス・タイムズのインタビューに、彼は広告事業を始めることには非常に反対であると否定的に答えていたのだ。だから、オンライン広告を始めますと告げるには、多少照れざるを得なかったのだ。
もっともこの路線変更の是非は、彼が最終的にジャッジすることでは既にない。その判断は利用者に委ねられている。さて、これがユーザーの許容範囲として認められるかどうか、審判が下る日が楽しみである。
アメリカでは新しいオンラインのサービスと共に、20代のヒーローが続々と輩出されている。ブランドマーケーターやクリエーターにとって、ストーリーを普及させる上で、またひとつユニークなタッチポイントが増えたといえよう。
Ys and Partners 代表取締役社長 結城喜宣(ゆうき・よしのぶ)
日米に拠点を置くCreative Brand Communications – Ys and Partnersのエクゼクティブ・クリエイティブディレクター。JWTを経て、2002年に日本ブランドを世界で有名にすることをミッションに、米国カリフォルニア州に本社設立。2005年には横浜市に日本支社を設立。日米グローバル企業のブランド・コミュニケーションを成功に導いている。ブランド戦略に基づいたストーリーテリングを得意とする。6月から「アドタイ」にて、コラム連載「アメリカ女子高生のデジタルネイティブ日記」(仮題)を連載予定。