【インターネットフォーラム(1)特別対談:イナモト・レイ×本間充】「コミュニケーションは20世紀の考え方です」

「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。

イナモト・レイ(AKQA チーフ・クリエイティブ・オフィサー)
本間 充(花王 デジタルコミュニケーションセンター企画室長)

21世紀は「コネクト」の時代

イナモト・レイ氏(AKQA)

本間 テクノロジーの強さがAKQAの独自性をつくっているように感じます。

イナモト 社内には、クリエイティブ、テクノロジー、そして戦略・営業という部門があり、戦略(Strategy)、ストーリーテリング(Story Telling)、ソフトウエア(Software)という「3つのS」を提供しています。必ずしもテクノロジーが中心というわけではありません。

本間 AKQAのチームは、クライアントごとに分かれていますね。

イナモト はい。クライアントごとのチームの中に、ストラテジスト、テクノロジスト、クリエイティブがいます。テクノロジストもクリエイティブも最初のアイデア出しの段階から会議に参加します。テクノロジーは制作の段階で検討するもの考えるエージェンシーも多いですが、AKQAでは重要な戦略のひとつです。

本間 充 氏(花王)

本間 中長期的なビジョンやブランドの育成、マーケットでのクライアントの成長を共有していくわけですね。日本の広告主は、キャンペーン単位でクリエイティブブティックやエージェンシーと付き合うケースが中心です。

イナモト 当社ではキャンペーンという言葉を使いません。キャンペーンは「一発屋」の仕事になりがちだからです。コミュニケーションデザインという考え方はもはや古いと思います。コミュニケーションは20世紀の考え方で、21世紀はコネクションの時代です。

このことについては、「360から365へ」という言い方もしています。これまでの「360度のコミュニケーション」からさらに進化して、「365日のコネクション」、つまり常に消費者とコネクトしていかなければならない、という意味です。

経営陣と戦略レベルの話をする

本間 より広い視野でクリエイティブを考えていますね。具体的にどのような手法を取っていますか。

イナモト 広告代理店を一切通しません。100%、広告主と直接仕事をしています。さらに、いわゆる「Cレベル」、つまりCEO、COO、CFOと早い段階で戦略的な話をします。

本間 日本の多くの広告主はキャンペーンレベルでのオリエンテーションはできても、経営戦略レベルのオリエンテーションはできていません。

イナモト 「広告」という言葉を使わないほうがいいのかも知れません。広告ではなく、どうサービスを提供するのかを考えるべきです。

英語は海外で働くことの壁にならない

本間 日本人が海外で活躍するためにはどうしたら良いでしょうか。

イナモト 英語がすべてではありません。2~3年前に入社した日本人スタッフは、30歳までアメリカに行ったことがなく英語もできなかったのに、入社前8カ月英語の勉強をした結果、今では立派に活躍しています。日本人が感じる「壁」は、精神的な壁に過ぎません。個人的には、日本人はよく働くので好きです(笑)。積極的にチャレンジしたほうが良いと思います。

次回はネスレ日本です。


イナモト・レイ(稲本 零)/AKQA チーフ・クリエイティブ・オフィサー
高校からヨーロッパ・スイスに留学。大学はアメリカのミシガン大学で美術とコンピューター・サイエンスを専攻。1996年タナカノリユキのもとで活動開始。1997年からニューヨーク在住。R/GA、Tronic Studioなどを経て、2004年10月、欧米大手デジタル・エージェンシーAKQAにグローバル・クリエイティブ・ディレクターとして入社。2008年から現職。2010年には日本人として初めてカンヌライオンズのチタニウム・インテグレーテッド部門の審査員に抜擢される。Creativity誌「世界の最も影響のある50人」の1人にも選ばれた。「広告業界のイチロー」とも呼ばれる。

本間 充(ほんま・みつる)/花王 デジタルコミュニケーションセンター企画室長
1992年、花王に入社。1996年まで、研究所に勤務。研究所では、UNIXマシーンや、スーパー・コンピューターを使って、数値シミュレーションなどを行う。研究の傍ら、Webサーバーに遭遇し、花王社内での最初のWebサーバーを立ち上げる。1997年から研究所を離れ、本格的にWebを業務として取り組み、1999年にWeb専業の部署を設立した。新しいWebのコミュニケーションの検討・提案や、海外への展開なども担当し、広く花王グループのWebのコミュニケーションに関わっている。2011年1月からは、日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会の代表幹事を務める。北海道大学卒業。数学修士。


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