「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。
揖斐理佳子氏(ネスレ日本/デジタルメディア開発ユニット ユニットマネージャー)
“楽しいから”が強いモチベーションに
年間予算50万円から1億円まで、さまざまな規模のサイトの企画・運営に関わってきた経験から、人が集まるサイトは「とても面白い」、または「役に立つ」のいずれかだと考えています。「役に立つ」サイトの場合は、加えて何らかのお得感も重要です。
そのため、サイトにたくさんの人を集める一般的な方法は、ユーザーの望むプレゼントをフックにすること。こまめにプレゼント企画を出しながら、サイトに来た人のデータを確実に取ることで、右肩上がりにユーザー数が増えていくというのが定石でした。ところが、その考え方を根本から覆す可能性があるのが、ゲーミフィケーションです。
ゲーミフィケーションとは、ゲームで用いる手法を使って何らかの課題解決をすることを指します。例えば、階段を鍵盤に見立て音の出る装置を付けることで、60%の人がエスカレーターではなく階段を選ぶようになったというフォルクスワーゲンの「ファンセオリー」がそうです。また、設置された“心の測定器”を使ったユーザーが気持ちに余裕があると判定され、その分で貧困をなくす募金をしましょうと訴えられ大多数がコインを投じたというペルーの貧困撲滅キャンペーンのように、“楽しいから参加する”ゲーミフィケーションの考えが、キャンペーンなど企業活動にも有効であることが分かってきました。
宣伝やプレゼントなしにファンが継続的に増加
中でも私が衝撃を受けたのが、昨年6月、ゲーマーたちがアミノ酸の構造をわずか3週間で解析してしまったというニュース。一流の研究者たちが解決できなかったことを、集まった人々の知恵=“衆知”によって短時間に解決してしまったのです。英国には、万引きの通報監視に一般の人が参加する制度があります。驚くべきことに、その参加者は監視するために月会費を支払っています。確かに、有効な監視・通報をすればポイントがたまり、企業から賞金をもらえることもありますが、それを目当てにしているのはごくわずかに過ぎません。大多数の人は会費を支払って、企業のために監視業務という「労働」をおこなっているのです。このことから、ゲーミフィケーションは「有償労働」と「無償労働」の概念を揺るがす可能性があると考えています。
ネスレ日本は、栄養・健康・ウエルネスに寄与する事業を行うという理念のもと、2010年10月からソーシャルゲーム「N君を探せ!」を提供しています。ユーザーが健康的な生活をしていればポイントが蓄積され、そのポイントをもとにN君が全国をまわってお土産を買ってきてくれる仕組みになっています。このゲームは、1年間で800万の訪問者数、1日100回以上アクセスするヘビーユーザーを生みました。通常、サイトオープン時にはプレゼントキャンペーンが欠かせませんが、そういったキャンペーンはもちろん、宣伝活動すらやっていないのにこれだけのファンが生まれているというのは画期的なことです。
ゲームのつくり方には、勝敗を五分五分にする、初級から上級までが楽しめるようにするといった工夫は必要であるものの、頻度高くたくさんの人が集まる仕組みというメリットは非常に大きなものです。当社では今、ゲーミフィケーションをあらゆる業務で応用できないかと考え、広く社内向けの勉強会を進めています。秋には、いくつかの部署とこの考えを応用した業務を推進していく予定です。
次回はタワーレコードです。
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