「宣伝会議インターネットフォーラム2012」が6月6日、東京都内で開かれ、フェイスブックや動画活用、オウンドメディア、ECなどを、デジタルメディアやツールを活用したマーケティングをテーマに多くのセミナーが行われました。その一部を6月から7月上旬にかけて、本欄で紹介します。
村山直樹氏(A-Sketch/取締役副社長)
CDからライブへ変化する音楽の消費スタイル
A-Sketchは、アミューズとKDDIが共同出資して2008年に設立した音楽レーベル・アーティストマネジメント会社です。音楽ソフト・有料音楽配信の売り上げは、1998年の6075億円をピークに減少を続け、2010年には2836億円にまで落ち込みました。音楽配信市場が伸びていると思われがちですが、2009年の910億円をピークに下降傾向にあります。
こうした状況下、なぜあえて音楽業界に新規参入したのか。それは、音楽の需要自体が低下しているわけではなく、音楽の消費スタイルが変化しているだけだと考えたからです。注目したのは、音楽ライブ市場の伸長。ライブの入場者数は1998年に1432万人だったのが、2010年には2613万人と2倍近くに増加しているのです。
このことは、今、人々の音楽消費を喚起するのが“経験価値”であることを如実に物語っていると思います。実際にコンテンツを経験・体験することで得られた価値を、ソーシャルメディアで共有する。その投稿を見た人が「いいね!」と共感することで、さらにその価値が広く拡散していく。
市場のコモディティ化が進むなか、従来型マーケティングで重視されてきた「安い」「お得」「機能的に優れている」といった「経済的価値」「機能的価値」は、差別化要素にはならず、思わず「拡散したくなる」経験価値こそが、消費を動かす力を持つようになったのではないでしょうか。これは、音楽だけでなく、あらゆる業界に共通することだと思います。
いかに拡散してもらうか“ライブ型”マーケティングの発想
当社所属のアーティスト・ONE OK ROCKは、いわゆる「SIPS」モデル的な売れ方をしています。
テレビ出演や大型タイアップは一切行わず、ロックフェスへの出演に注力しています。フェス・ライブに行った人が、自らの体験をSNSで拡散させる。その投稿を見た人がWeb検索し、パフォーマンスの動画を見て価値に共感する。そうしてその人もライブに行き、自らの経験を拡散する。このように、経験価値は連鎖していくのです。
結果、ONE OK ROCK の昨年の音楽CD売り上げは10万枚を突破、当社公式ユーチューブチャンネルでの動画再生回数は、最も多い楽曲で860万回を記録しました。ONE OK ROCKのライブような強いコンテンツこそが、「SIPS」モデルの上で、ドライブフォースとなって機能するのではと思います。
レディ・ガガの奇抜なファッションや圧倒的なパフォーマンス、そしてライブでの写真撮影を許可していることなども、ソーシャルメディアでの拡散を見据えての取り組みです。マスメディアで露出することを目的とするのではなく、いかに経験価値として訴求し、拡散してもらうかという“ライブ型”のマーケティング発想を持つことが、今後はあらゆる業界に必要になってくると思います。
次回は全日本剣道連盟です。
連載【インターネットフォーラム】バックナンバー
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