「個」の時代だから、ビッグイベント症候群

ツイッターを用いて、在京キー局6社7チャンネルで、同時に番組を視聴している人同士のコメントが見られる「ツイテレ」。テレビを見ながらソーシャルメディアが活用されている(クリックして拡大)

2月11日深夜。日本においても、ツイッターのTL(タイムライン)は、かの「エジプト政変」で盛り上がった。皆、ネットやソーシャルメディア経由で事件を知り、こぞってエジプトの民主化に歓喜した。同政変がフェースブック革命と言われるくらい、ニュースの伝達もソーシャルメディアが大きな役割を果たしたのが印象的だった。

一方、テレビはと言うと、ニュース速報で「ムバラク辞任」をテロップで流しただけで、バラエティやドキュメンタリーの再放送を延々と続けていた。深夜における生放送の対応が難しいという事情もあっただろうが、改めてテレビメディアの限界を見せられたようだった。

あれから10日。今、僕らはツイッターのTLでエジプト政変についてのつぶやきを見る機会は少ない。世間は熱しやすく冷めやすいのだろうか。でも、僕は少し違う見方をしている。少々、語弊のある言い方かもしれないが、僕ら日本人はあのエジプト政変を、まるでサッカーのアジアカップや、アメリカのスーパーボウルを楽しむような感覚で眺めていたのではないだろうか。もちろん、独裁政権が民主化されることは喜ばしい。だが、果たして歓喜した日本人の何割が、ムバラク政権の30年を知っていたというのか。独裁という事実はおろか、ムバラクの存在すら知らない者が大半だったのではないだろうか。

誤解を承知で言えば、あのエジプト政変のTLは、「このビッグイベントに、皆と一緒に盛り上がりたい」という単純な動機が一番だったのではないだろうか――。

テレビ離れなのに、高視聴率

よく、ツイッターやフェースブックを始めてから、逆にテレビの視聴時間が増えたという話を聞く。ソーシャルメディアは同好の士と交流する場なので、誰かの「今夜、放送される××はおススメ!」という話に乗りやすいのだ。僕も何度か、そうやって面白い番組に出会えた経験がある。「今、NHK教育でBBCの面白いドキュメンタリーをやっているよ!」なんて情報は、普段、テレビ欄をよほどチェックしていないと分からない。それがツイッターだと、誰かが教えてくれる。

先のアジアカップは、深夜24時以降の放送ながら、決勝の「日本×オーストラリア」戦は33.1%という驚異的な視聴率を記録した。今年のスーパーボウルは、アメリカのテレビ史上、最高視聴率となる46.0%を記録した。テレビ離れが叫ばれる一方、このビッグイベントに群がる傾向はなんだろう。恐らく――先で示したソーシャルメディアの影響が大きいのではないだろうか。

大きな流れでいえば、人類のライフスタイルは「個」へと向かっている。かつての「地縁」「血縁」「社縁」が薄れ、いわゆる「無縁社会」へと向かっている。でも、僕はその流れに、あまり危機感を抱いていない。なぜなら、その一方で僕らはソーシャルメディアを介して、むしろ以前よりも“繋がる”機会を増しているからだ。更に言えば、以前の“クローズドで狭い社会”ではなく、“よりオープンで広い社会”と繋がるようになっている。それは、客観的で公平な道徳観を生み、オープンであるがゆえにモラルも向上させた。

「個性」と「つながり」は両立する

直接、顔を突き合わせた者だけがつながる時代は終わった。今や顔を突き合わせなくても、毎日、ソーシャルメディアを介して、心を通わせることができる。風邪をひいた時など、リアルな仲間よりも、ソーシャルな仲間のほうに先に情報が伝わるくらいだ。

実は、「個」へと向かいつつある社会と、ソーシャルメディアが生む「つながり」の社会は、相反しない。一人一人の人間性を尊重する、新たな“縁”が生まれたと思えばよい。

そういう意味では、ソーシャルメディアと、皆がビッグイベントを共有できるテレビメディアとの相性も悪くない。両者を対峙させるのではなく、連動させることが、これからのメディアの大きな流れではないだろうか。一人一人の「個」を尊重する社会だからこそ、気の合う仲間同士で心おきなく盛り上がれるのだ。

ほら、一人の時間は好きだけど、一人ぼっちは嫌いでしょ?

※連載「『瞬』を読む!」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

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草場 滋(作家・メディアプランナー)
草場 滋(作家・メディアプランナー)

エンタテインメント企画ユニット「指南役」代表。

米エミー賞にノミネートされたテレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画や、映画「バブルへGO!」の原作ブレーン、日経エンタテインメント!誌「テレビ証券」の連載など、メディアを横断したプランニング活動に従事。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。著書には「キミがこの本を買ったワケ」(扶桑社)、「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)などがあり、マーケティング・企画関連で幅広く執筆活動を行う。

最新刊「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)が12月18日発売。

指南役: http://www.cynanyc.com/

草場 滋(作家・メディアプランナー)

エンタテインメント企画ユニット「指南役」代表。

米エミー賞にノミネートされたテレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画や、映画「バブルへGO!」の原作ブレーン、日経エンタテインメント!誌「テレビ証券」の連載など、メディアを横断したプランニング活動に従事。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。著書には「キミがこの本を買ったワケ」(扶桑社)、「『考え方』の考え方」(大和書房)、「情報は集めるな!」(マガジンハウス)などがあり、マーケティング・企画関連で幅広く執筆活動を行う。

最新刊「一流の仕事人たちが大切にしている11のスタンダード」(実務教育出版)が12月18日発売。

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