ソーシャルメディアを使えば、自然と「口コミ」が生まれて商品が売れるはず──。
ソーシャルメディアの発達、浸透により、そんな「口コミ幻想」が生まれているが、「口コミ」の効果に期待してプロモーションに取り組んだものの思った以上に人手も予算もかかり、さらに思うように話題をつくれなかったという話もある。さらに、最近は企業が恣意(しい)的に起こす口コミを「ステルス・マーケティング」(通称「ステマ」。消費者に宣伝だと気付かれないように密かに宣伝を行うこと)が問題視されている。
そこで、「口コミ」に関わる実務家としてアイランドの粟飯原理咲氏、トーチライトの矢吹岳史氏および、研究家としては国立情報学研究所・鈴木努氏の3名に、「どうすれば口コミを起こすことができるのか」「今後ソーシャルメディアはどう変わるのか」議論してもらった。
アドタイでは、ソーシャルメディアによって話題を拡散することが果たして商品購入につながるのかという部分などを紹介。「どうすれば口コミを起こすことができるのか」は、現在発売中の「宣伝会議2012年7月1日号」マーケティング最先端会議をご覧ください。
ソーシャルメディアを使い分けるユーザーたちを理解し
企業も使い分けることが必要
矢吹 最近、フェイスブックの普及でソーシャルメディアでも実名で語る傾向が強くなってきたので、口コミの質は高まっています。フェイスブックでは、勤めている会社名を明らかにしている場合が多いので、友人たちに支持されやすい内容を書きます。逆にツイッターだと周りの目を気にせずに書く人も多い。一方、ブログメディアだと、濃い内容を書かなければ評価されません。いずれにしても、思いついたことをそのまま書くことはないですね。
粟飯原 昨年、実験的に当社が運営している食品通販でとりよせた商品の感想を紹介する「おとりよせネット」のレビューを、フェイスブックやツイッターと連携させてみました。すると、ユーザーから「おとりよせネットという客観的な場では冷静に書くが、同じ内容がフェイスブックにも書き込まれるのは違和感がある」という意外な意見が寄せられました。フェイスブックで冷静な分析や丁寧な説明をすると、商品の宣伝だと思われてしまうというのです。フェイスブックやツイッターでは逆に「うまーい」「食べたよ〜」という情報が求められます。
矢吹 ライトな情報ですね。
粟飯原 スペックや味についての細かい批評は必要とされません。ここを企業が使い分けられるといいなと思います。
矢吹 そうですね。通常、ブログのほうが深い内容を書くので、フェイスブックやツイッターでは軽く読みやすいように書きます。いわゆる、告知をして、濃い内容を書いてあるブログに誘導するといった考え方が最近増えていますね。
粟飯原 気軽なフェイスブックやツイッターで拡散し、濃い内容は口コミサイトやブログメディアで書くというように相互補完し、そこにオウンドメディアがある設計ができるとおもしろいですよね。
鈴木 最近は、ユーザーも口コミを評価する目が養われていますよね。口コミがいわゆる〝ステマ〞なのか、本当に目利きの人が書いたものなのか判別できるようになり、踊らされなくなりました。
ソーシャルメディアは認知媒体
知っているもののほうが、知らないものより好きになりやすい
矢吹 ユーザーもある程度、欲しい情報がどのサイトにあるか分かるようになってきていますしね。たとえば家電の場合、友人、知人からの情報でまず気付き、最終的に買うときは「価格.com」に行くプロセスですね。
鈴木 ソーシャルメディアで存在を認知するということですね。社会心理学では、知っているものは知らないものより好きになりやすいという傾向があります。
粟飯原 「おとりよせネット」のユーザーアンケートでは、商品購入の決め手が、「複数の情報源で紹介されていたこと」と答えた人が、2012年は2011年の倍になっています。複数ソースで口コミを見て、最後に「価格.com」のように客観的に分析されたレビューサイトを見て、購入後は使用者のブログを見るという流れになっています。今後は、「絵の口コミ」がどうなるか気になりますね。米SteelHouseによる5月の調査では、SNSのコンテンツをきっかけに商品を購入する割合は、Pinterestがフェイスブックの2倍ということが分かりました。
矢吹 テキストだけでは厳しいですよね。
粟飯原 むしろ、ビジュアルだけで購入を促せるのがおもしろいと思っています。ビジュアルでの広がりを想定し3月に発売した「ザクとうふ」のような商品もありますし、今後はフォトジェニックかどうかという観点の商品開発もおもしろいと思います。
(宣伝会議2012年7月1日号一部抜粋)