上海に出張でいらした方がみなさん口を揃えておっしゃるのが、中国は屋外広告が多い、ということ。確かにいろんなところに大きなLEDや看板が競いあうように乱立しています。急速な経済発展を象徴するかのようなこの光景ですが、これらは実は中国特有の賄賂の賜物だ、という噂があります。
どういうことかというと、地方政府の屋外媒体を建てる部署のエラい役人と民間の広告会社、看板会社がグルになって、新しいLED媒体や屋外看板の設置を考えます。この新規の屋外広告を制作すれば、役人は施工する業者から賄賂がもらえ、その屋外広告の枠を売買する広告会社から賄賂がもらえ、そのアガリから上司に賄賂を渡せて覚えもめでたくなる、広告会社・看板会社は賄賂を払うものの、利権ビジネスができるからだ、と。
これが本当かはわかりませんが、普通に仕事をしていると、僕にも賄賂の魔の手は歩み寄ってきます。僕が自らローカルのタレント事務所と値段交渉をした時のこと。 100万元(約1250万円)を80万元(約1000万円)に値切ろうとあの手この手で奮闘していたらマネージャーから、「頼む!90万元で手を打ってくれ。そのかわり個人の口座に2万元(約25万円)振り込んでやる!」と。うっかりイイネ!と言いそうになりました。
みなさんうっすらご想像の通り、はっきり言って中国は賄賂天国。スイカのような交通カードや、スマートパスと呼ばれる色々なスーパーで使えるチャージ式のカードもありますが、これらも賄賂の温床になっているといいます。先方の担当者に現金であげると領収書が出ませんが、スマートパスなら、チャージをした際に領収書が出ますので、企業は賄賂を財務処理できるのです。ホント、ある種スマートですね…。
弊社は日系なので当然社員を厳しく管理していますし、もちろん賄賂の授受は認めていません。僕はこの場を借りて宣言しますが、1元たりとも貰ったこともないし、これからも受け取りません(当たり前のことを声高に言っていますね)。当然、弊社社員ももらっていないし渡していない・・・と信じています(←小声)。
僕は中国で広告の仕事をとても楽しくやっていますし、ここでは外国人なので郷に入っては郷に従うということは僕の義務だとは思っていますが、やはり自分の仁義にもとる行為はできない。海外で働いているからこそ、自分の中で許さないことを持つことはとても大事だと思います。
最近こちらの広告業界で話題になっている、道理に背いていると僕が憤慨している例をあげます。ローカルの代理店がやっているという噂が絶えないのですが、テレビCM制作の際に、クライアントにはアメリカの有名監督を起用することを提案。絵コンテまでは実際にメールなどでその監督にやってもらうものの、撮影の現場には“欧米人の役者”を雇って監督のフリをさせる。実際の撮影は、後ろで中国人の若手監督が、クライアントにバレないようにしっかりやっている。これで制作会社は、ディレクターフィーや飛行機代・ホテル代などをグッと抑えて高利益率にしているというのです。
また、一般向けの商品でも、良心がないニセモノも多く見られます。出張者が必ずといっていいほど飲む青島ビールにもなんとニセモノがありますし、ウイスキーなどにもニセモノがあります。豆知識ですが、缶のものはコストが掛かるのでほとんどホンモノと言われています。みなさん、もし出張などで中国地方都市のアヤシイお店に行かれる際は、是非缶ビールを頼んでください。体に入れるものがニセモノなのは、ホント避けたいですよね。
先日はBlackBerryの広告にオバマ大統領が使われていてスゴイ!と思ってよく見てみると、なんとBlockBerry。オバマさんもビックリしていると思います(画像載せたいのですが、権利関係でダメみたいなので、下記よりご覧下さい)。
BlockBerryのオバマ携帯(Google検索へリンク)
こんな風に色々なものが信用出来ない中国は、日本よりも口コミ文化が発達しています。日本ではコンビニで売っていれば、少なくともちゃんとした商品だと思われます。100円のお菓子と300円のお菓子であれば、本人にクオリティの鑑定能力がなくてもそこに歴然と品質や味の差があり、懐具合やその日の気分で、商品の見た目と値段から買う方を決めることが多いと思います。
しかし、中国では友達がオススメしたりしない限りなかなか高いほうは買われません。日本では、携帯電話でもキャリアの名前がついて売っていればマイナーな機種でも、おかしなものだなんて当然誰も思いもしませんが、中国でマイナーな機種は、誰か使っている人に使用感を聞いてから買われます。上記のオバマ携帯も、おそらく完全に人を騙しているというニュアンスではなく、まず目立って、それを誰かが使ってみて、意外に機能がいいから買う人がいる、というようなサイクルがあるような気がします。
以上のように、B to Cの消費者向け商品でも、テレビCM制作のようなB to Bの現場でも、仁義にもとる商品やサービスがある中国広告シーン。それらの結果、中国人消費者が商品を買うときには知り合いの紹介などの口コミを信じ、また僕達のような広告会社でも、信頼できる知り合いから紹介されて仕事が始まるケースがとても多いのです。実は設立から現在に至るまで、弊社のクライアントさんのほとんどすべては、過去に一緒に仕事をさせていただいたクライアントさんや協力会社さんからの紹介で、弊社では電話営業などは、数えるほどしかしたことがありません。仁義のない中国だからこそ、日々の仕事をコツコツ真面目に誠実にやることがそのまま営業活動になっているのだと思っています。
重松 俊範「中国で広告一筋7年目」バックナンバー
- 第5回 信頼獲得に成功した中国版SOYJOYのプロモーション(7/5)
- 第4回 大学では学べないMCBA(6/28)
- 第3回 中国人スキ?キライ?(6/21)
- 第2回 日系企業、成功への糸口(6/14)
- 第1回 「日本」という財布を分厚くしたい!(6/7)