インターネットとリアル

中国に出張に来られて、「中国人ってなんてうるさいんだ…大声でずっと喋ってる…よくそんなに喋ることがあるな…」と思われた方も多いかと思います(日本にいる中国人と接してそう感じる方もいらっしゃるでしょう)。そう、中国人は本当にオシャベリが大好きです。男同士でもずーーーっとしゃべっている。これは、実はリアルの世界だけでなく、インターネットの世界でもそうなのです。

日本では、2ちゃんねるみたいなネット掲示板(以下BBS)を使う人って、ごく限られた人というイメージがありますよね。言い方は悪いですが、オタク同士がキモチ悪い言葉で絡んでいる、みたいなイメージがちょっとあると思います。ところが、僕が中国に来たばかりの頃(06年)は、中国人ネットユーザー全員2ちゃんねらー状態でした。全員がBBSでずーっとぺちゃくちゃ喋っていたのです。ただし、日本の2ちゃんねるとくらべて明らかに健全的なイメージで、みんなBBSを使いこなしていました。

QQ

QQインスタントメッセンジャー

また、中国人社員のPCでは、MSNやQQという会社が運営しているインスタントメッセンジャーが常にオンラインになっています。これは2005年から現在でも変わらない習慣。僕の席からは、数人のPC画面が見えるのですが、みんないつも誰かと激しくチャットしている。一応上司なので、コラッと怒ろうにも、クライアントや制作会社の人とのやり取りにも頻繁に使っているので、いつが仕事でいつがデートの約束をしているのかが分からない。淘宝網(楽天みたいなECサイト)でモノを買うときにも、売り手側にチャット要員が必ずいて、ユーザーはあれやこれや質問をしながら購入しています。

また、中国人は誰かと何かを共有することが大好き。これは中国に住んでいないとなかなか実感できないかもしれませんが、弊社の社員もランチ時に路上でさくらんぼを大量に買ってきて周りの人に自主的に配ったり、どこかで関係者しか入れないインナーセールをやっていると同僚を誘いまくって大挙して行くのです。実は意外に日本にいる日本人は気付いていませんが、日本に買い物に来た中国人が、マツモトキヨシで大量に化粧品や薬を買う、とか中国人が炊飯器を幾つも買って帰る、イタリアでブランド物を大量に買う、というのも、あれは家族や友達など、スゴイ人数分を買っていってあげているのであんな量になっているだけです。家族思い、友達思いの中国人ならではの光景だったりするのです。

こんな風に、リアルでもオシャベリ好きで、シェア好きな中国人が、インターネット上で友達と色々なものをスゴイ勢いでシェアしないはずがありません。中国人がソーシャルメディア大好きな理由はここにあります。

中国は、僕が来た2005年から2012年で、ネット人口が1億人から5億人超に急増しました。現在使われている携帯電話は10億台、来年にはスマホの出荷量が普通の携帯を超える、こんなニュースを見て、クライアントさんが「中国ではとにかくインターネットを使ったプロモーションだっ!」と思う気持ちは分かります。

ただここで気をつけたいのは、ネット上で起きていることは、あくまでもリアルの延長にあるのだ、ということ。日系企業がネット上で成功しようと思ったら、まずはリアルの中国人をちゃんと尊重して理解することが必要だと思います。「中国ではインターネットが流行っているからネットエージェンシーに頼んで予算をつけたらいい」なんていう、簡単なことではありません。

下記は弊社で実施したカルピスの事例です。「“初恋の味CALPIS”を若い女性にインターネットを使って訴求したい」というのがクライアントからのブリーフでした。そこで僕達は、ネット上に「初恋探偵所」をオープンし、本気で男性に告白したい女性を募集。探偵がターゲットの彼のことを調べてあげます。最後は、彼女をキレイにして告白の舞台を整えて、いざ告白! そのリアル告白の甘酸っぱい気まずい様子をビデオに撮ってキャンペーンサイトに載せさせてもらったのですが、そのビデオがたくさんシェアされました。

日本人からすると、何でわざわざ自分の告白シーンをビデオに撮らせるんだ? そんな恥ずかしいことするわけない! と思うかもしれませんが、中国人はとっても出たがり(もちろん全員ではないですが)。自分の写真をアップロードして相手の情報や相手への想いを書くというとっても面倒な応募フォームだったにも関わらず、告白したい! という募集に、なんと800人が応募してきましたし、この動画自体はこれまでに色々なソーシャルメディア上で約300万回再生されています。

中国に来られたことがある方ならお気づきかと思いますが、中国ではフェイスブック、ユーチューブ、ツイッターが政府のファイヤーウォールによりアクセス制限されています。その分、中国は独自のソーシャルメディアを持つようになりました。冒頭に紹介した、中国版フェイスブックの人人網(レンレンワン)、中国版ミクシイの開心網(カイシンワン)、そして最近、BBS、インスタントメッセンジャーに取って代わっておしゃべりな中国人のメインプラットフォームになっているのが、日本でも報道されていると思うのですが、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)です。

微博に関しては、攻略本が日本語でもすでに数冊出ていますし、詳細はここでは紹介しませんが、簡単に言うと、ツイッターとフェイスブックが合体したような感じです。ツイッターと同じく140文字でつぶやくのですが、そのつぶやき自体にコメントを残したり、転送(RT)したりすることも出来ます。中国ではネットユーザーが5億人以上と言われていますが、その中の3億人が微博で遊んでいるというデータもあります。

もちろんすでに企業もプロモーションに使いはじめていていますが、上手に使えているのは、繰り返しになりますがインターネットが上手な会社ではなく、中国消費者をよく理解出来ている会社なのだと思います。 僕が総合広告会社の立場でインターネットを中心にプロモーションを組み立てるときには、いつも一番ここに気をつけるようにしています。

第9回「小さな会社の大きなチャンス」はこちら

重松 俊範「中国で広告一筋7年目」バックナンバー

重松 俊範(読広大広(上海)広告有限公司副社長兼クリエイティブディレクター)
重松 俊範(読広大広(上海)広告有限公司副社長兼クリエイティブディレクター)

1978 年生まれ。2001年中央大学法学部卒業後、読売広告社に入社。営業・プランニングの部署を経て2005年に中国に赴任。中国語を勉強しHSK9級(通訳初級レベル)を取得。大広(広州)でOJTを経た後、07年読売広告社の海外拠点である“読広大広(上海)広告有限公司”を、大広と合弁で設立。現在は副社長兼クリエイティブディレクター。

読広大広(上海)広告有限公司は2012年5月現在社員数約30人。 クリエイティブとWebを絡めたプロモーションを武器に、日系大手メーカーを中心に現在も鋭意業務拡大中。

facebook : http://www.facebook.com/Shige.Shanghai
twitter : @Shige_Shanghai

重松 俊範(読広大広(上海)広告有限公司副社長兼クリエイティブディレクター)

1978 年生まれ。2001年中央大学法学部卒業後、読売広告社に入社。営業・プランニングの部署を経て2005年に中国に赴任。中国語を勉強しHSK9級(通訳初級レベル)を取得。大広(広州)でOJTを経た後、07年読売広告社の海外拠点である“読広大広(上海)広告有限公司”を、大広と合弁で設立。現在は副社長兼クリエイティブディレクター。

読広大広(上海)広告有限公司は2012年5月現在社員数約30人。 クリエイティブとWebを絡めたプロモーションを武器に、日系大手メーカーを中心に現在も鋭意業務拡大中。

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