澤本嘉光さんに聞く(前編)「広告の未来は、広告をつくっている僕らが決めることができる」

きっかけ。

みなさん、はじめまして。
電通ソーシャル・デザイン・エンジンのコピーライター並河進です。

この連載は、「未来の広告は、どうなっていくか、どうあるべきか」というテーマを、広告の真ん中で活躍している方々と話していこう!という企画なのですが、今回は初回なので、なぜ、この連載をはじめることになったか、少しだけお話ししたいと思います。

僕は、10年ぐらい前から、広告というものが、もっと「社会にとって価値あるものになれないか」、そんなことを考えるようになりました。ひとりで、夜中そんなことを考えて、いろんな妄想のプロジェクトを企画書にして、あちこち行って断られて、という日々を送っていました。

そして、今でいうソーシャル、当時はそんな言葉は知らなかったのですが、社会貢献と広告を融合させるような試みを、四苦八苦しながら、少しずつカタチにしてきました。また、広告のスキルを活かし、NPOと協働で、いろんなプロジェクトを立ち上げてきました。

でも、振り返ってみれば、出発点は、「広告が、広告以上の存在にどうやったらなれるか」ということ。いつのまにか、「ソーシャル」といった言葉が生まれ、ソーシャル系の人たちというくくりで見られるようになり、そうした社会貢献の意識の高い仲間で集まって、語りあうようになって、それはそれで楽しいんですが、でも、それじゃだめだ。広告の未来について考えるなら、一部の人とだけじゃなくて、今、広告の最前線で動いている人たちと話さなくては!

自分から会いに行こう。話しにいこう。
そんな気持ちがふつふつと心の中にわいてきました。

そのときに、最初に頭に浮かんだのは、「澤本嘉光さん」の名前です。

広告の未来の話をしよう。
COMMUNICATION SHIFT

第1回は、澤本嘉光さんです。

澤本嘉光 プロフィール:
1966年生まれ。電通コミュニケーション・デザイン・センター クリエーティブディレクター、CMプランナー。主な仕事に東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、ソフトバンクモバイル「白戸家」など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、TCCグランプリなど受賞。

「広告はどうなる?」より、「広告はどうにでもできる!」なんですよ。

sawamoto

並河:同じ会社ですが、ちゃんとお話しするのははじめてですね。この連載を立ち上げた理由のひとつが、広告の未来について、一度澤本さんとお話してみたかったからなんです。

澤本:光栄です。よろしくお願いします。

並河:今日は、広告の未来について、じっくりうかがってみたいと思っています。

澤本:広告の未来ですか……。「広告の未来」は、本当は、広告を作っている人が決められると思うんですよ。誰が何を言おうと、僕らは広告をしているわけだから。僕らがこうしたいって思う広告を作ればいいはずじゃないですか? それなのに、広告の外にいる人に「広告が死んだ」なんて言われて、それに従ってしまうような風潮があって。「広告はどうなる?」より、「広告はどうにでもできる!」なんですよ。どうにでもできるなら、いい方に持っていこうと考えればいい。

最近、学生たちと話していると、「クリエイター」になりたいと言う人が多いんです。「コピーライター」や「アートディレクター」「CMプランナー」ではなく、「クリエイター」。イメージとしては、ストラテジー系で、戦略を立てる人というのが、今の若い子たちから見た「クリエイター」みたいなんです。それも一つのかたちなのは間違いないけど、そこには、クラフトをつくる、モノをつくるというイメージはあまりない。

本来は、ケーキ屋さんでもなんでも、モノをつくるというのが、クリエイティブだから。作るということをベースにしないと、ダメだし、できたものも広がっていかない。それなのに、なぜ学生たちから、そこが抜け落ちているんだろうって思うんです。

並河:今の若い子がコピーライターやアートディレクター、CMプランナーに魅力を感じないのは、そうした職人的な技術でつくられたCMで、実際にリアルな高校生なり、大学生にちゃんと届くCMが、あまりにも少ないのが問題なんじゃないでしょうか?

広告に職人技は確かにあるんだけど、ある意味、技術ばかりが磨かれた日本料理のようになってしまっていて。もう少し、見てくれは悪いけどうまくて、リアルな高校生たちにもちゃんと受け入れられる、どんぶり料理的な広告もあってもいいんじゃないかと考えて、僕は、2010年にDENTSU GAL LABO(ギャルのマインドとパワフルな行動力に着目したプランニングチーム)を立ち上げたんです。

広告というものが、リアルに響かないという風に、いつからかなってしまった。マス広告は、自分たちの側にないものだという意識を多くの人が持っています。

澤本:とはいえ、今でもこれだけテレビが見られている国はないですけどね。アメリカはチャンネルが100くらいあるけれど、日本は民放が手厚く保護されている。この間、あるドラマの視聴率が低くて、3%しかないというニュースを見たけど、3%の視聴率って、すごいよね。10%の視聴率なんて、他の国だとなかなかない。

僕が子どもの頃、テレビは「見なきゃいけないもの」で、みんなの家の中心にあった。今のテレビはそれほど存在感はないけど、映像の受像機を通して不特定多数の人が動画を見るという仕組みはなくならないと思う。目の前で物が動いて、それに音がシンクロして合ってくるというのは、みんな生理的に大好き。「動画」って、やっぱり強いんです。

15秒というCMのフォーマットの弊害を強く感じています。

並河:そもそも、テレビと共にCMという構造が生まれたのは、みんながテレビを無料で見られるようにするために必要だったから。つまり、元々は、世の中のために、CMという構造ができたんだと思うんです。

でも、それが今も同じ形のままでいいのかとか、広告に携わる人たちが、マスコミと、それを支えるCMという仕組みについて、良いところだったり、弊害だったり、そういうことについて語る場所がないじゃないですか?

ネット上では、マスコミについて批判的な人も結構いるし、いろんな意見が出ているなかで、広告業界の人たちが、そうした意見に対して向き合っていないと僕は感じています。メーカーの方々と話していると、商品のプラスの面だけでなく、マイナスの面もちゃんと見つめている。でも、それがあるからこそ進化するんだと思うんです。

広告という構造が、これから、もっと世の中から支持されるには、どんな問題をどう解決してどう進化していけばいいと思いますか?

澤本:僕は、広告の問題の一つとして、15秒というCMのフォーマットの弊害を強く感じています。

例えばネーミングの告知や、キャラクターの認知、歌モノといった、15秒という単位がベストなものは15秒で作ればいい。

でも、多くのCMが、15秒で伝わらない情報を、無理やり15秒の中に詰め込んで、結果、伝わらず、つまらないCMになってしまっている。

テレビを見るのがあたりまえの時代は、それでも見てもらえたかもしれないけれど、今は、伝わらない、つまらないCMが流れた瞬間、もう見てもらえないんです。

秒数が長い方がきちんと伝わるし、面白いものがつくれるはず。広告会社と放送局が一緒になって、15秒CMから、30秒CM、60秒CMにシフトして行ければいいと思う。

極端な話、15秒CMを法律で禁止するとする。もしくは、よほど面白くないかぎり15秒は禁止、とか。そうすれば、ずいぶん変わると思うんですよ。

CMが、コンテンツとして、もっと面白くなっていけば、みんなに支持されるはずで、その最大の阻害要因は、僕は、実は秒数だと思っています。

並河:さらに考えていくと、そもそも、商品というもの自体を、CMを通して面白く伝える必要性は果たしてあるのか……。誰でも、インターネットで、その商品について多角的に調べて自分で判断できる時代に、CMで、商品の情報を面白おかしく演出を加えて伝えることに、どんな意味があるんでしょうか?

澤本:すべての企業のCMに当てはまる訳ではないですが、僕自身は、CMの大きな役割は、「ブランディング」だと思っています。単に商品を売るためだけでなく、CMを通じて、企業イメージを作っていくんだ、と。そういう意識を持たれている経営者の方々は、CMを上手に使っていますよね。

すべてのCMが、必ずしも、面白いCMである必要はない。そこに、企業やブランドの意志がきちんと反映されていればいいんです。

でも、そう考えていくと、また秒数の話に戻ってしまうけれど、やっぱり15秒では短すぎるんですよね。

―――――――――――

<後半>に続きます。
8月8日(水)に更新予定です。

並河 進「広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT」バックナンバー

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)
並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

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