経営者が語るWebプロダクションの理想と現実

リーマンショック以降、周りでいくつもの会社が消え、もしくは部門を整理するなど、負の変化が見られました。倒産や縮小により転職を余儀なくされ、そういった理由で求人に応募される方も多くなりました。正直にお話しすると、昨年の震災直後に弊社でも8000万円程の案件が停止もしくは失注となり、非常に厳しい事態を経験しました(最終的には無事に黒字決算となりましたが)。

受託モデルである以上、Webプロダクションの利益率はどこもそう高くはないと思います。弊社(ワン・トゥー・テン・デザイン)は内制率が高く、外注比率が10〜15%程しかないため、人件費と販管費が原価の大半となります。それらは、ほぼ固定費のため、売り上げが落ちると当然赤字となり、逆に労働生産性には限界があるために大きな利益を短期間に確保することも難しく、通年で平均的な受注数調整を行う必要があります。ゆえに受託制作のみのビジネスモデルはローリスクローリターンのモデルであると言うことができます。

参入障壁が低いため、個人でもWebプロダクションを始められる半面、組織化が進むにつれて安定的な収益の確保は必須となります。数を追うがゆえに、工場化し、デジタル土方(どかた)と化してしまうことも少なからずあると思います。そうなると、優秀なクリエイターは新天地を求め去ってしまうでしょう。今回は私なりに企業組織としてのWebプロダクションの未来を探ってみたいと思います。情熱に支えられた小規模組織のお話ではありません。

規模と変化

皆さんの会社に部署はありますか? 意外と、数十人規模のプロダクションでも組織化を行っていないところは多くあります。Webの仕事は職域がいくつかにまたがるマーブル状の場合が多く、部署を設置しづらく設置したとしても、営業・ディレクター・クリエイターもしくは、長の下にグループを作るということが多いのではないでしょうか? フラットな組織として機能していればそれがベストですが、15人程を超えてくると100人規模と同じで組織作りが必要となってきます。また、経験から考えるに、年商の3000万、1億、3億、5億、10億というラインごとに変化が必要になるとも感じています。まあ私の場合、利益のための組織ではなく、組織がよりよい仕事をできるようにするための利益と捉えていますので、そのラインを意識したことはありません。あくまで振り返ってのお話です。

ラインによる変化、それは取引先と取引額の変化です。このラインを超える度に、その変化が起こり、社内体制の再整備が必須となりました。我が社で組織化が始まったのは、2006年、社員が一気に辞め、新しく多くの仲間が入ってきた時でした。現在、我が社には5つの部署があります。プランニング&マネジメントグループ(営業・企画・進行)、デザイングループ(デザイン)、モーションデザイングループ(CG・映像・アニメーション)、インタラクションディベロップメントグループ(デバイス制御・プログラミング)、アーキテクチャデザイングループ(マークアップ・サーバーサイドプログラミング)です。

なぜ部署で分けたのか? それは、スキルセットを明確にするためです。部署ごとに予算を持ち、書籍購入や勉強会参加を行い、社内でのナレッジ共有を加速させるためでした。これまで、我々は技術の進化と共に歩んできました・・・そう、最近までは。

Flashと黄金時代

この業界の方はご存知のように、2004〜2010年ぐらいまでFlashの黄金時代がありました。まるで技術展覧会の様相で、ブラウザ上で何ができるのかを競い合った時代でした。技術が表現を生み、アイデアが技術を発展させ、その過程が評価と比例した時代でした。コンテンツジェネレートサイトやブランデッド(エンターテイメント)コンテンツが隆盛を極め、エポックメイキングとなる時代を牽引したサイトがいくつか登場しました。中村勇吾氏によるインテンショナリーズ、Bussiness Architectsによる富士フイルムFORESTS FOREVER、中村洋基氏とバスキュールさんのアド・ミュージアム東京 A Pencil Odysseyなどは私は特に記憶に残っています。

クレイアニメ

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黎明期からFlashを強みとしていた弊社でしたが、関西ではなかなかチャレンジの機会がなく、東京でのWebプロモーションの隆盛を見てとても羨ましく、悔しい思いをしていました。当時、同心円がいくつか重なったアーチェリーの的のような絵を描いて、この中心にいかなければ、活躍のチャンスはないとよく話していました。企画倒れに終わったものも多くありましたが、純粋に面白いと思えるクリエイティブアイデアを出し続けていました。そして、いくつか受賞の機会にも恵まれ、徐々に中心へと近づいていきます。

ブログやブックマークサイトでの掲載数、PVのみがKPIだった時代は終わり、SNSの普及によって、ソーシャルメディア上でのバイラルを意識したキャンペーンが増え、必ずしもクリエイティビティーが重要ではなくなり、エグゼキューション(実行施策)にアイデアが移っていきました。また、HTML5対Flashという二極構造がなぜか形成され、表現のためのツールとして非常に優れたFlashが現在のような憂き目に遭っているのは寂しい限りです。やはり、モバイル向けFlashの開発を中止した(せざるを得なかった)ことが大きいでしょう。この変化によって、Webプロダクションの多くが少なからず影響を受けました。

コンテンツマーケティングが我々を救う?

では、もうあの時のような黄金時代は来ないのでしょうか?? 来ないです。残念ながら。

2010年夏、The Web Is Dead. という衝撃的なタイトルのコラムが発表され、日本でも大きな話題になりました。ネットサーフィンという言葉はもはや死語となり、ブラウジングによってWebサイトを閲覧する時間が減り、オープンなWebからクローズドなアプリへと滞在時間が推移していっています。また、ブラウジングの対象も検索からヒットした多数のWebサイトを見るのではなく、特定のサービスやメディアへの依存が強くなってきています。

参考:http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20101214/355218/

“私たちはオープンで制限のないウェブが好きだが、より単純でスマートなサービスが機能するからという理由で、ウェブを捨てはじめた。”

もう何か切なくなってきますね。The Web Production Is Dead・・・

違う違う、そんなことはありません! チャンスは広がっているのです。複雑化しているだけなのです。

◯◯マーケティングという言葉は大体において、バズワードとして息が短く定義も曖昧なものが多いので、こういった文脈ではあまり使いたくないのですがご説明のためにあえて使います。コンテンツマーケティング(Content Marketing)という言葉をご存知でしょうか? 2008年以降使われるようになり、国内でも昨年あたりから記事などで頻出するようになりました。コンテンツマーケティングの定義も例にもれず、多様に語られているのですが、

Content Marketing Instituteによる定義では、

Content marketing is a marketing technique of creating and distributing relevant and valuable content to attract, acquire, and engage a clearly defined and understood target audience ? with the objective of driving profitable customer action.

コンテンツマーケティングとは、購買に結びつく顧客行動を目的として、ターゲット顧客を引き寄せ、獲得し、明確に定義し、理解するための適切かつ価値のあるコンテンツを作成し配布するマーケティング技術である。

とあります。

分かりやすく言うと、有益で魅力的なサービスやアプリを提供し、見込み客との接点を生み出すマーケティング手法のことです。

タッチポイントは、スマートフォンやデジタルサイネージなど、デジタル技術によって、広く多く身近に常時存在するようになりました。そう、Webプロダクションの活動範囲は増えたのです。この変化に対応していけるかどうかがWebプロダクションの未来を分けることでしょう。ここで始めのお話に戻ります。こういった多様性に対応する組織が職域単位でいいのでしょうか? いいえ、違うことはお分かりですね。

Webをなめるな

最近、強く感じること、それはWebプロダクションの人間が本当にWebを理解しているのか? という疑問です。

ホームページを作る延長で、自らその可能性を矮小化させていないでしょうか?
ITバブルの頃、Webデザイナーが主人公のドラマも作られ、新しい響きの憧れの仕事として非常に人気のある時代がありました。しかしいつしか、ホームページを黙々と生み出す何でも屋を指す言葉となり、そして、それがいつしか忌み嫌われ、プライドを持ったこの業界の人々は自らをそう名乗らなくなりました。

なぜそうなってしまったのか? 簡単です。自らがそういった状況を招いたのです。結果責任を伴わない制作に終始し、Webを信じていないからです。未だにトラディショナルへの一方的な憧れを持っているものも多くいます。しかしその一方、多くの広告人の大先輩方が日々Webを勉強し、その未来を探ろうとしています。ホールディングスの社外取締役の横山隆治氏や取締役の橘守氏もそうですし、企業のマーケターの方も本当に驚くほど知識をお持ちです。幸いにも最近、多くの広告代理店の経営者クラスの方とお会いする機会があり、お話をさせて頂くことが増えたのですが、皆さん、デジタルに非常に興味をお持ちです。

カンヌの今年のサイバーライオン受賞作、あなたはいくつ言えますか?
もしくは、企業のフェイスブックページでどこが活発な活用をしているか知っていますか?
なぜ最近同じバナーが目に付くのか知っていますか?

Webに興味を持ちましょう(まあ正確にはデジタル全般ですが)、胸を張って肩書きを名乗れるように。

では、次回、持ち株会社を軸とした企業合流についてお話をさせていただきます。タイトルは、「ホールディングスにして良かったの? に対する本音の回答」。

色々とご質問いただく機会も多いのでさらに赤裸々に綴ってみたいと思います。

澤邊 芳明「Webプロダクション進化論」バックナンバー

澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)
澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)

京都工芸繊維大学卒業。1997年にワン・トゥー・テン・デザインを創業し、ユニークなアイデアと時流に合わせた先進的なチャレンジによって、多くの大型キャンペーンを成功に導いてきた。ワン・トゥー・テン・デザインはこれまでに、カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)金賞、One Show Interactive金賞、アジア太平洋広告祭(アドフェスト)グランプリなど、国内外のアワードを80以上受賞。デジタルテクノロジーを軸としたインタラクティブスタジオとして、国内外から注目を集めている。

2012年4月には5社と合流し、広告クリエイティブ領域からコーポレートサイト構築までのデジタルマーケティングを総合的にプロデュースするクリエイティブエージェンシー、「ワン・トゥー・テン・ ホールディングス」を設立。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス:http://www.1-10holdings.co.jp
ワン・トゥー・テン・デザイン:http://www.1-10.com

個人ブログ:http://sawablo.com
twitter:http://twitter.com/sawablo
facebook:http://www.facebook.com/sawablo

澤邊 芳明(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)

京都工芸繊維大学卒業。1997年にワン・トゥー・テン・デザインを創業し、ユニークなアイデアと時流に合わせた先進的なチャレンジによって、多くの大型キャンペーンを成功に導いてきた。ワン・トゥー・テン・デザインはこれまでに、カンヌライオンズ(カンヌ国際広告祭)金賞、One Show Interactive金賞、アジア太平洋広告祭(アドフェスト)グランプリなど、国内外のアワードを80以上受賞。デジタルテクノロジーを軸としたインタラクティブスタジオとして、国内外から注目を集めている。

2012年4月には5社と合流し、広告クリエイティブ領域からコーポレートサイト構築までのデジタルマーケティングを総合的にプロデュースするクリエイティブエージェンシー、「ワン・トゥー・テン・ ホールディングス」を設立。

ワン・トゥー・テン・ホールディングス:http://www.1-10holdings.co.jp
ワン・トゥー・テン・デザイン:http://www.1-10.com

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