災害時に企業は何ができるか?
かつて、私は米国ニュージャージーの保険会社の損害サービス部署(保険金支払担当部署)で最新の保険金支払の方法を学んでいた。通常、地震や台風などで被災を受けると家財が大きな被害を受ける。火災保険は、概ね時価保険で、家財を新規に購入したとしても、事故発生時までに一定の年月が経過し、経年分の減価償却を控除した残額である時価相当分が保険金支払の対象となるため、新たに家財を購入するには資金が不足する場合が度々あった。
この米国保険会社の中央コンピュータは、米国中のあらゆる家財を販売する数千の小売店と直接ネットワークで結ばれており、コンピュータに被害品目を入力するだけで、新品から中古品まで、一斉に入札が開始され、一番低い価額で入札した小売店が自動的に保険契約者に対して被害を受けた家財を送付する権利を得ることができる。
この結果、契約者は被災を受けた家財を自ら探すことなく、保険金額を限度として自己負担をすることなく現物給付という制度に基づき、保険金を対価として現物を入手することができるのだ。
この制度は、災害に見舞われ、疲弊と交通を遮断された人々にとって、どれほど勇気を与えてくれることだろう。
あるファーストフード店では、災害時に自らの店舗の一部を救援センターの拠点として解放し、無料で飲料水等の提供を始めている。また、集まってきた罹災者から近隣の被害情報等を収集し、最新情報としてホームページ等で公開、通行する上で、危険なエリアや安全なエリアを見極め安全で安心な避難活動を支援するサービスを展開している。
あるガソリンスタンドでは、自動車事故や犯罪行為を抑止するため、屋根にカメラを設置している。このカメラは可動式で、カメラの向きを変えることで、近隣地区の被災状況を写す出すことができる。
ガソリンスタンドの経営者は、災害時に全てのカメラを動かし、各拠点に位置するガソリンスタンド近隣の被災状況や幹線道路の復旧情報を自社ホームページで情報提供し始めた。その結果、避難者は目的地近くの被害がどの程度かを概ね理解することができ、避難ルートの変更などを選択することが可能となった。
米国では大災害が発生するとFEMA (アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)が現場を統制するが、企業側も色々な支援活動を行っている。企業の災害時広報の初期段階では、従業員、取引先などの安否確認、インフラの被災状況が中心となるが、次の段階では被災エリア内での避難活動の支援に係る情報提供などが想定される。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第16回 「ニュージーランド地震に学ぶ」(3/3)
- 第15回 「犯人に告ぐ! 愉快犯に対する伝説の緊急告知」(2/24)
- 第14回 「世界の政治的均衡に革新的変化をもたらすSNS」(2/17)
- 第13回 「2011年、ISO26000でCSR報告書の流れが変わる」(2/10)
- 第12回 「散見されるフェースブック利用者のモラルハザード」(2/3)
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