客が支払い料金を決める「パネラケアズ」カフェ~米国1800万世帯の食糧不安(food insecure)への取り組み

パネラブレッド

パネラブレッドの創立者で共同最高経営責任者であるRonald M. Shaich
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米国では約1800万世帯が食糧不安(food insecure)に苦しむ

米国では大統領選も大詰めを迎え、大統領選に関するニュースを聞かない日はない。世界中で繰り広げられる反米国デモの中、外交政策も注目されているが、やはり米国国民が一番関心をよせているのは経済だ。今月発表されたデータによると、1800万(18million)世帯が食べるのに困っており、それは米国の7分の1世帯に匹敵するというから驚きだ。フードインセキュア(食糧不足)と呼ばれるこの問題は、2008年から悪化する一方で、回復の兆しを見せない。

北米1600店舗あるパネラブレッドが運営する「パネラケアズ」

Panera_cares
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米国では知らない人がいないほど有名なパネラブレッドは、この状況に変化をもたらそうと立ち上がった。北米に約1600店舗のカフェを持つパネラブレッドは、おいしいパンが食べられるコーヒーチェーン店だ。パネラブレッドは、ただ多額の寄付をするのではなく、客が払える分だけの料金を払うカフェ「パネラケアズ」を運営している。

「パネラケアズ」は、なぜ始まったか

店内で働く人

店内で働く人の様子


食事をする人

店内で食事をする人の様子
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パネラブレッドの創立者で共同最高経営責任者であるRonald M. Shaichは、貧しい人々へ食料を配るボランティアをした際、食料をとりに行くのに1時間、配達する家まで2時間、次の家まで3時間と運転をした経験がある。起業家の彼から見ると信じられない効率の悪さだ。自分には起業家としてできることがあるのではないかと思っていた。そして数年前のある晩、テレビを見ていて「客が払う金額を決めるカフェ」の試みを知り、「これだ!」と思ったとShaich氏は語る。その後リサーチを重ね、パネラブレッドの株主を納得させるため、「パネラブレッドファンデーション」という非営利団体を設立し、自らの、パネラブレッドの経営経験を生かし「パネラケアズ」カフェをオープンする。パネラブレッドは既に年1.6億ドル($160million)寄付していたが、もっと個人な支援を行い、自分の持っているスキルを生かしたいと感じていた。最初は、パネラブレッドのメニューの中から数種類のスープやパンを出そうという考えだったが、結局パネラブレッドと同じメニューをこのパネラケアズでも出すことになる。これは、大変なリスクを背負うが、ここまでしてやるのだから、正しくやりたかったとShaich氏は語る。


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そして2010年5月、ミズーリ州セントルイスに第一号店をオープンした(各店舗の所在地リストはこちら)。パネラブレッドの店員も客もシステムをよく理解しない混乱のままオープンした。そこら中に「あなたが払える金額を払ってください」という看板があるにもかかわらず、客はどうしたらいいかわからなかったという。レジの変わりに募金箱にしたのは、客にプレッシャーをかけたくなかったからだ。「払えなければ払わなくていいですよ」といいながら、レジが置いてあると、お客は払えないのを負い目に感じてしまうという。パネラケアは、貧しい人々の胃袋を満たすのと同時に心も豊かするのが目的だ。心を豊かにしたいという思いは、Shaich氏が実際に食料配給所に並んだ経験から来ている。そこにいる人々は全員が貧しく配られる食料もけっしておいしいとはいえない。「食べたい」とおもう食べ物をもっと希望のある環境で食べて欲しかった。

キーワードは「自立」。参考価格より多く支払う客は20%、ほぼ同額60%、安い金額20%

パネラブレッドのリソースに影響を及ぼさないためにも、このカフェは自立していかなければならない。自立していくためには、ローケーション選びが重要だ。貧しい人々しか住んでいないような地域では、お金が集まらず運営していくことができない。1ドル79セントのコーヒーに2ドル、3ドル払う人々も客としてこないと運営費用の捻出ができないのだ。パネラスタッフを初め、ボランティア等誰もがこのモデルが成立するか心配していたが、蓋をあけてみると、2割の客が目安として提示してある価格よりも多く払い、6割がぴったり、そして残りの客が提示価格よりも少なく払うか全く払わないという。非営利団体としては立派にやっていけるのだ。料金を払うかわりに1時間カフェで働くボランティアシステムもある。こうした素晴らしい取り組みを成功させるためには、永続的に発展できるかどうか、自立しているかがポイントとなる。

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まとめ

Shaich氏とパネラブレッドには夢があったという。ただ空腹を満たすだけではなく、世の中から見捨てられてしまったような子どもたちが、少しでも世の中に入る訓練となるような場を提供したい。もう一つは、他の企業が、お金を出す以外の方法で(財務や運営ノウハウなどの専門サービスを提供するなど)多くの支援をし始めるという夢だ。Shaich氏は「ウォルマートのような企業が、食糧配給のマネージメントをすることについて想像してみて欲しい」と語る。ウォルマートより物流ノウハウを知るものはないだろう。

Shaich氏とパネラブレッドの夢の詰まったパネラカフェズは、シカゴに4店舗目をオープンさせる。米国に訪問する際は、このカフェを利用し、できるだけ多くのお金を支払いたいと思っている。

マーケティングコンサルティング会社サイコスの青葉哲郎によるコラム「マーケティングから、イノベーションを起こすために。」は、今回で終了となります。当初4回の予定でしたが、ご好評につき、12回までコラムを書かせていただきました。コラム読者の皆様には、改めてお礼申し上げます。

※連載「マーケティングから、イノベーションを起こすために。」は今回で終了です。ご愛読ありがとうございました。

青葉哲郎 「マーケティングからイノベーションを起こすために」バックナンバー

青葉 哲郎(サイコス代表取締役社長 マーケティングコンサルタント)
青葉 哲郎(サイコス代表取締役社長 マーケティングコンサルタント)

1994年4月 ジャスコ (現イオン)入社。1995年マイクロソフト入社。トップセールスを経て、最年少プロダクトマネージャに就任。米国ソフトウェアのローカライズを担当。MSN事業開発など担当。2001年インテリジェンス入社。マーケティング部を設立し『はたらくを楽しもう。』で同社を転職ブランド1位に。2008年リクルートエージェント入社。『転職に人間力を。』で新ブランドを立ち上げ、コスト減と広告効果の最適化で成功を収める。同年10月リクルート出向。2009年11月サイコス株式会社を設立。2010年より、宣伝会議「インターネットマーケティング基礎講座」の講師も務める。

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青葉 哲郎(サイコス代表取締役社長 マーケティングコンサルタント)

1994年4月 ジャスコ (現イオン)入社。1995年マイクロソフト入社。トップセールスを経て、最年少プロダクトマネージャに就任。米国ソフトウェアのローカライズを担当。MSN事業開発など担当。2001年インテリジェンス入社。マーケティング部を設立し『はたらくを楽しもう。』で同社を転職ブランド1位に。2008年リクルートエージェント入社。『転職に人間力を。』で新ブランドを立ち上げ、コスト減と広告効果の最適化で成功を収める。同年10月リクルート出向。2009年11月サイコス株式会社を設立。2010年より、宣伝会議「インターネットマーケティング基礎講座」の講師も務める。

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