NHKの公式アカウントでありながら、そのイメージと異なる独特の“ゆるい”ツイートで人気の@NHK_PR。その中の人(NHK_PR1号)は、「ツイッター空間は、いわばネット上の大教室。クラスの中で視聴者の“友だち”をつくり、NHKについて一緒に考えてもらえたら」と活用の理由を語る(広報会議11月号より)。
巨大な教室で友だちづくり
NHK_PRは2009年、誰の許可を得ることもなく“勝手に”ツイートを始めた(現在は公式アカウント)。所属する広報局では番組宣伝のためのPR映像やポスターづくりなどを行っているが、もっと直接生活者に働きかける広報活動が必要ではないかと考えたためだ。「自らがメディアということもあり、つくったものを“一方的に”流す宣伝手法を長くとってきました。でも、それは広報活動の一つのやり方でしかありません」。NHKを知らない人はいない。しかし、放送局としては堅いイメージを持たれがち。“知らせる”よりも“好きになってもらう”関係づくりに重点を置くべきではと考えた。
「私は、ツイッター空間をいわば大きな教室のように捉えています。そこでNHKも友だちをつくるんだと」。これまで、NHKは友だちをつくるのは苦手だった。「中立公平の立場という基本理念がありますから、特定の地域、企業に肩入れすることはできません。とはいえ、受信料をお支払いいただき、一定の関係が成立している。広報としてはその関係をより良いものに変えていきたい」。加えて、NHKは友だちに気軽にメリットを提供することもできない。「多くの企業は、クーポンやオマケ、賞品といったものを使い、友だちを引きつけることができます。でも、私たちはそのようなものが提供できない。であれば、コミュニケーションでカバーできないだろうかと考えています」。NHK_PRは「今夜の番組」や「私が気になる番組」を紹介することがあるが、番組を宣伝するつもりはない。発言は、あくまでちょっと変わった番組を紹介したり、トボケた一言を加えることで会話のきっかけにしてもらうためのもの。
フォロワーが増えるにつれ、局内からはその“宣伝効果”に期待し、「ツイートしてほしい」という要請が増えたのはちょっとした悩みだ。「目的が違いますし、そもそも単純にツイートしたくらいで視聴率が劇的に上がるとも思えません」。
目標は、コミュニケーションを通じて友だちから恋人、恋人から家族、家族からNHKを自分ごとと考えてもらうこと。「よく『みなさまのNHK』と言いますが、私は『みなさまがNHK』と考えたい。お支払いただいている受信料をどのように使って欲しいのか、どんな番組を見たいのかを一緒に考えてもらえたらと思っています」。一度築かれた人間関係は崩れづらい。何かあった時、「あいつ友だちだったのにな」と、その関係を断ち切ることを躊躇してくれる。対話を通じてそういう人をたくさんつくることで、NHKは愛される放送局になる。
プロフィール
NHK_PR 1号
好きなこと:おやつの時間、ファンレター(月に2、3通届く)。
苦手なこと:番組宣伝(宣伝ではなく、会話のきっかけとして案内)。
現在の悩み:引き継ぎの資料ができないこと、局内外から過剰期待があること。
ポリシー:フォロワー数の増減は気にしない。ツイートは1日30件まで。目標はリプライ率8割。最近はメンション(アカウント宛てのメッセージ)に一喜一憂しない。
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