実験を、しよう。【後編】

森 オウジ(フリーライター・編集者/編集・ライター養成講座2005年大阪教室修了)

「向いている」武器と「書きたい」熱

フリーライターと聞けば、自分の書きたいことをひたすら追求しているものだと思われがちだけれど、全てのライターがそうではないはずです。ライターも人間だし、いろんなタイプの人がいて、それが記事や本の多様性を生み出しているし、いろんな関わり方ができる職種だ。それに、書くという仕事・表現を通して、自分がどういう人間かを知っていくのも、この仕事の面白みだと僕は思います。

この記事を読んでくださっている人は、ライターの仕事に興味をお持ちだと思うので、僕は敢えて、やりたい事が明確でなければライターになれないわけではない、というお話をしてみたいと思います。

僕はむしろ、書きたいことが不明確でも、向いていることがあればいいと思うし、向いていることを知っていることは、ライターとして大きな社会的価値であり、武器だと思う。それに自分に向いていることであれば「書きたいことが見つからない」と言って悲劇のヒロイン的に悲しくなる必要もないし、少し気楽に見つけられる気がしませんか?誤解を恐れずに言えば、たとえば数学が好きで、大学の理系の学部を偶然出ているだけで、それを向いていることにしてみてもいいわけです。おまけに、それらはあなたに書いてもらうことを待っているかもしれない。

それにフリーランスという働き方は、自由な響きがありますが、自由業ほど過酷な仕事もありません。極論すれば攻める時も自分ひとりだし、自分を守れるのは自分だけです。だから自分の武器をきちんと知っていることは、大切なことのはずです。
 
そして、僕が仕事を進めていく上で気をつけているのは、自分の向いていることと書きたいことをきちんと観察して、自分だけの考えを持つことです。

もちろん、自分の向いていることと書きたいことがぴったり同じであれば、これほど素敵なことはありません。でも、僕の場合は、この2つが相容れる部分もあれば、そうでない部分もある。そして、その2つを使い分けながら、けっきょく書くことを楽しむことができる人間だと経験から分かった。

向いていることというのは、自分の知識や経歴、仕事を依頼してくださる方々の媒体などを観察することで見えてきます。僕のケースで言うと、いちばん最初の仕事は京都のグルメライターでした。その後で、ふとしたきっかけから、映画のことを書いたり編集したりするようになり、そこから音楽や写真など、様々な分野のアートに関わらせていただけた。

でも、今は気づけば島根県の離島・海士町で起業した若者や、有名な書評家のご著書にも関わらせていただいている。意外なところでは、小学校時代最も苦手だった理系に関わるインタビュー記事も書いています。そしてそれらは、自分の書きたい事にも結びついていった。

それに僕の場合、向いていることが多岐に渡るタイプだったということも分かった。

こうしたことを見抜けているかどうかで、仕事の効率も変わるし、「自分の得意分野はこれです」と言える武器になるし、何が向いていないかも分かる。そして向いているわけだから、仕事としてきちんとアウトプットも出せて、結果として稼いで生きてゆくこともできる。 
 
でも、時として向いていることと、書きたいことがズレることもあります。もちろん、向いている仕事は楽しい。楽しいけれど、書きたいこと、なりたい自分は少し別のところにある、なんてことも当然あります。

その時に、「やりたくないから、やりません」というのは、もったいないなと思う。仕事としては、向いてさえいれば結果が出せるわけだから、書きたいことと必ずしも一致していなくてもいいと思うのです。そこに意外な発見すらあるものです。

それに、自分の書きたいことは「懐刀」のように胸にしまっておいて、いざという時にいつでも発揮できるように研いでおけばいいと僕は考えています。とはいえ、懐刀を一生抜かずに生きていけるような無難な物書きで終わりたくないし、研いでるだけで、気づいたらただの「研ぎ屋」になっていたなんて、まっぴらです。

そんなふうに、自分の書きたいことを実現できない自分に葛藤して、絶望したり希望したりする、そんな気持ちのブレそのものを楽しんでいくぐらいが、物書きとして一番面白いとも思います。言葉は決して冷静なところからは生まれない、非常に不安定で動的な部分からいつも生まれると思います。

それに日頃から自分の「懐刀」をきちんと研いでいれば、自分の仕事全体にも「冴え」が生まれ、書き手としての熱を生み出すとも思います。

もちろん僕の考え方が全て正しいなんて言うつもりはありません。でも、僕にとってはこの考え方が、一番自分をうまく理解しやすいし、仕事もやりやすい。一言にライターといってもいろんなやり方があります。大切なのは、自分の座りどころのいい考え方をきちんと持つことではないでしょうか?それさえきちんと持てて、書く力を鍛えていけば、自ずと目の前には楽しい仕事がたくさんあるものだ、と僕はいつも感じています。

フリーランスは働く場所を選ばない。パソコンさえあれば、公園もオフィスにできる。

その一方で、フリーランスの生活は厳しい。夏に電気代が払えず自作したペットボトル氷冷クーラー。けっこう冷えるが、ペットボトルを冷やす冷凍庫が熱暴走。結果的に部屋は温暖化し、失敗に終わった。

森オウジさん
森オウジ(もりおうじ)
京都生まれ。STUDIO VOICE、CINRA.NETなどのカルチャーメディアをはじめ、ダイヤモンド・オンラインやプレジデントといったビジネス寄りのメディアまでで、インタビュー記事等を執筆。書籍ではスープデザイン・尾原史和著『逆行』(ミシマ社刊)、成毛眞著『成毛眞のスティーブ・ジョブズ超解釈』(KKベストセラーズ刊)などに携わる。直近では阿部裕志・信岡良亮著『僕たちは島で、未来を見ることにした。(仮)』(木楽舎刊・予定)ほか2冊の発売予定のものに関わる。目下の興味は、サイエンスライターとして活動を広げること。

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