拡張現実の未来、即ち広告の未来なのである(AR)。
川田十夢(AR三兄弟)
過去3回に渡った連載も今回で一応の最終回。最後は未来のARについて書いておこうと思う。ARの未来について書くことは、すなわち広告の未来を語ることになるからだ。
ARは時間の経過とともに、より身近なインフラとして機能してゆくだろう。スマートフォンの普及は高まり、駅張りの広告もサイネージ化が進む。よりリッチな体験を以て広告を提供できるようになるのは自明だが、ここで僕たちが肝に銘じておかなくてはいけないことがある。それは余白を残しておくことだ。
WEB広告が成熟する前、コピーライターという仕事が広告において重要な役割を担った時代があった。彼らは、新商品を大袈裟な言葉で修飾することをせず、誰かの胸に去来する具体的な気持ちを言語化した。誰もが感情移入できる余白を残した言葉は、やがて人々の心に真芯から宿り、遠心力を以てその商品の魅力に辿りついた。視点を変えて、同じことを説明する。浮世絵が持つ奥行き、ファミコン時代のゲームにあったドット画キャラの愛くるしさ、この正体は何か。視覚情報だけで全てを説明しきらない、観ている人の中にある想像力を信頼することだったのではないだろうか。
ARに限らず、技術の進歩によって、人間の五感に訴える手段としての広告のパターンは、きっと限りなく増えてゆくだろう。僕はそのテクノロジーを使いながら、ちゃんと残すべき余白を残すとともに、人間が持つ想像力を信頼し続けたいと思う。(「宣伝会議」2011年3月1日号から)
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(かわだ・とむ)
未来開発プロダクション ALTERNATIVE DESIGN++ 主宰。ARを実体化する「AR三兄弟」として、国内外のAR広告を数多く手掛ける。『AR三兄弟の企画書』が絶賛発売中。Twitter IDは「cmrr_xxx」。