松倉早星さんに聞く(前編)「解決しない広告」

COMMUNICATION SHIFT、
前半は、広告業界の真ん中にいる方にお話を聞いてきたのですが、
後半は、「広告の未来の種が、もう生まれている場所」に行きたい。

その考えたとき、直感的に「若い人だ!」と思いました。

世代によって、今は、まったくといっていいほど考え方が違う。

個人やクローズドな世界を大切にして、規模拡大よりも、幸せのシェアに興味がある。
そうした若い世代のクリエイターで、新しい広告のカタチを(もしかしたら、もう僕らが知っている広告のカタチではないのかもしれないけれど)つくりはじめている人に会いたい。

そう考えたときに、松倉早星さんの名前が浮かびました。

クリエイティブ・ディレクター/プランナーの松倉早星さんは、まだ20代。昨年1-10designから独立し、社員2人だけの会社ovaqeを立ち上げ、HOTEL ANTEROOM KYOTOのプロデュース、ギャラリーのキュレーション、ウェブマガジンの運営、ワークショップの主催などを手がけています。

広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT

今回は、松倉早星さんです。

松倉早星 プロフィール
ovaqeクリエイティブ・ディレクター/プランナー。1983年、北海道富良野生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。東京のウェブ制作会社にてウェブプランナーとして2年間在籍。2008年4月より、1-10designに転職後、2011年退職。同年12月ovaqe inc.設立。HOTEL ANTEROOM KYOTOのWEB制作およびホテルのメディアブランディング・プロデュースサポート、同ホテル内のGALLERY9.5にてキュレーターを担当。関西のカルチャー情報を集約と発信するWEBメディア“CNTR”や、トーク&ワークショップ・プログラム”MNRV”の主催。国内外の広告賞・デザイン賞受賞多数。
http://ovq.jp/
http://subarumatsukura.com/
http://cntr.jp/
http://mnrv.org/

人間らしく、仕事していきたい。

並河:はじめまして。

松倉:まさか、僕のところにこのインタビューのお話が来るとは思いませんでした(笑)。

並河:僕は、松倉さんの働き方が、「広告の未来の働き方」なんじゃないかなと、直感的に感じているんです。まず、松倉さんのワークスタイルについて聞かせてください。

松倉:昨年までウェブプロダクションの1-10designにいました。プランナーの自分にとって、1-10designは、最高のクリエイター集団でした。でも、1-10designって、澤邊(芳明)社長が24歳の若さではじめた会社なんです。だから自分もがんばらないと、と奮起して、ovaqeを立ち上げました。2人だけの会社です。

プロデュースをしているHOTEL ANTEROOM KYOTOというホテルの中に一室借りて、そこをオフィスにしています。

並河:これまた勝手な想像なんですが、松倉さんは、身近で顔が見えるクライアントとの仕事が多いんじゃないかなと思うのですが。

松倉:そうですね。いまはリピートになる仕事がほとんどです。
以前は違ったんです。数年前までは、ウェブのスペシャルサイトをとにかくたくさん手がけていて、わーっと一つのサイトをつくるけれど、それが終わると、担当の方ともう会わなくなってしまう。それは、せつないな、と感じていたんです。

並河:僕自身、個人的な活動が仕事になったり、仕事が個人的な活動になったりしていて、その境界線はあいまいなんですが、松倉さんもブログに「生活と仕事を分けられない」と書かれていましたよね。

松倉:人間らしく、仕事していきたいんです。
今は、ちゃんと向き合える仕事の数と向き合っていきたい。
忙しすぎると、ちゃんと考えずに、「流行みたいなものに乗っかっていってしまう」危険性があって。あとになって、ほんとうにそれ正しかったのかなあと振り返ることもありました。
ウェブは移り変わりの激しい世界だからこそ、ゆっくり、丁寧に、いきたいんです。
今は、クライアントから「どうしよう?」って最初のところから相談してもらえる。
だから、そこからいっしょにクライアントと延々と悩んでいける。
ずっと関係は続いていくんです。

「場所」をつくる、というのは自分のテーマとしてあります。

並河:松倉さんは、ウェブマガジンの運営をはじめ、「場所」をつくる、ということもいろいろ手がけていますよね。

松倉:「場所」をつくる、というのは自分のテーマとしてあります。
大学生のとき、京都にいて、フリーペーパー制作やクラブイベントの企画をいろいろやっていたんですが、その後、東京に行って戻ってきたら、そういうことを京都の学生たちが全然やっていなかったんですよね。
学生たちが何かをはじめる、その「はじめ方」を知らない状態になっていた。
景気が悪くなって、世の中の元気がなくなったら、すぐにこうなっちゃうんだなあって思って。
実は簡単にいろんなことってはじめられるんだよって、学生にそういう体験をさせたくて、いろんなメディアを立ち上げました。
CNTRというメディアは、11人のメンバーで運営していて、ほとんどは、20代。大学生もいます。
月に1回、誰を取材したいか、みんなで話し合って、トークショーを開いて、その様子をウェブにUPして、というような活動をしています。

並河:CNTR……これはなんと言えばいいんだろう……?

松倉:一言でいえば……趣味です。(笑)

並河:僕自身、CNTRと似たような、うまく説明できないいくつかのコミュニティのメンバーになっていて、仕事とつながったりもするけれど、仕事とつなげるためにやっているわけでもないし、でも、もちろん価値があると思って参加している。
僕より上の世代だと、こういう明確な目的のないコミュニティに来てもらっても、なかなか理解できない。「これって、一体、何の目的でやってるの?」とか「え、これで終わりなの?」ってなっちゃう。

松倉:あと、もうひとつのメディアが、MNRV
学びのプログラムというテーマで、トークイベントを開いています。

並河:……(ウェブサイトを見ながら)ぱっと見、何をやっているか、めちゃくちゃ、分かりづらいですよね。

松倉:分かりにくいです。
あえて、目的を明確にしないようにしているんです。
プロフェッショナルのクリエイターたちが集まってつくれば、きちんとしたものがつくれることは、もう分かっている。
だから、こうした活動では、どうなるか分からないことをやりたいというのがあります。
知っている人は知っている良さ。京都的とも言えるのかもしれないけれど、ちゃんと質を担保して、深くしていけば、みんなとずっと学んでいけるんです。

クローズドな世界で、価値観の理解を深めていく、「学習期間」が必要。

並河:広告って、オープンな世界。でも、CNTR やMNRVは、クローズドな世界ですよね。
今、若い世代は、クローズドな世界に幸福があると感じている。
でも一方で、厳然と、オープンな世界というものはあって、グローバルな市場経済の中で、満員電車にゆられながら働いているサラリーマンがいたり、世界中のスーパーマーケットの棚に並ぶ商品があったりして。
僕は、クローズドな世界で起きていることと、オープンな世界で起きていることがどうつながっていくのかに興味があります。

松倉:今、学生たちと話していると、趣味のようなクローズドな世界をとても大事にして生きている。
でも、そうしたクローズドな世界で生まれた新しい価値観が、そこを飛び越えて伝播していくときがありますよね。
Facebookも、最初はクローズドな世界からはじまっていた。
僕は、いきなりオープンに行くんじゃなくて、クローズドな世界で、価値観の理解を深めていく、「学習期間」が必要なんだと思うんです。

並河:広告って、すぐに外側を見てしまう。自分たちの内面性を深める前に、「伝える」にいってしまう。
ある課題があったときに、「最速」で、その課題を解く方法を求めがちですよね。すると、一休さん的な、ある種強引なやり方になりがち。
でも、あえて解かずに、みんなで考えよう、みんなで学んでいこうっていうのが、これからのやり方なのかもしれません。

後半に続きます。

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並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)
並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

並河 進(電通ソーシャル・デザイン・エンジン コピーライター)

1973年生まれ。電通ソーシャル・デザイン・エンジン所属コピーライター。ユニセフ「世界手洗いの日」プロジェクト、祈りのツリープロジェクトなど、ソーシャル・プロジェクトを数多く手掛ける。DENTSU GAL LABO代表。ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン・クリエーティブディレクター。宮城大学、上智大大学院、東京工芸大学非常勤講師。受賞歴に、ACCシルバー、TCC新人賞、読売広告大賞など。著書に『下駄箱のラブレター』(ポプラ社)、『しろくまくん どうして?』(朝日新聞出版社)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他。

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