「フライジン」を村八分にする日本
3月23日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、東日本大震災を受け、米国大使館が自国民間人を他の安全なアジア地域に航空機で退避させるための準備を進めていると発表した後、日本出国が最高潮に達し、多くの外国人が日本を離れた。これらの「出国する外国人」を表して“フライジン”(flyjin = fly+gaijin)なる言葉まで登場したという。
現在、各大使館も徐々に冷静さを取り戻し、国内のオフィスに復帰しつつある外国人もいるが、自分が避難していた間も働き続けていた日本人同僚の怒りを買ったり(furious)、仲間外れにされる(ostracized)恐れを抱いているという。
日本では、会社依存のホワイトカラーによる集団組織が主流であり、有事に仕事を放棄して避難することが微妙な決断と認識されやすい。同紙によれば、金融業界の求人情報を提供するトップ・マネー・ジョブス(TopMoneyJobs.com)のマーク・ピンク氏は「何に忠誠であるかについて、(日本人と外国人の間に)差がある。日本では、会社と家族はほぼ一つで同じだが、外国人はまず家族、次が会社だ」と述べた、と記載している。
しかし、今回の問題が果たして忠誠心の矛先だけで判断してもよいものだろうか? 今も、原発の危機は続き、地震による避難所生活者の今後の状況は決して明るくない。今回のような大災害において、Emergency Plan(緊急対応計画)には大きく2つのCore Plan(基本計画)が必要であるが、日本では確実に欠けていたものがあった。それは、Evacuation Plan(避難計画)である。
そもそもEmergency Plan(緊急対応計画)は、Evacuation Plan(退避計画)とRecovery Plan(復旧計画)の両方が整備されて初めて意味をなす。しかし、今回の地震でもそうであったが、日本人は「危機」に対する感度が非常に弱く、影響度の予測に対してEvacuation Plan(避難計画)の事前準備が極めて甘い。
さらに、Evacuation Plan(避難計画)の重要な点は、人、物、街、物流、情報、文化、思い出などの全てのネットワークの依存からの脱却である。多くのネットワークに依存している(have strong, emotional ties)日本人は、依存に対する脱却・切り捨てに慣れていなかった。
避難しなかったのは、会社のある土地、仲間、文化などの強い「しがらみ」に執着していたからであり、単に会社に対する忠誠心(Royalty)の一言だけで片付けられる問題ではないだろう。
会社の基本は「人」である。「人」は従業員であり、その心の支えは家族である。危機管理の基本は、自分の身は自分で守ることであり、家族の柱である者は家族を守る義務がある。家族ですら守れない日本人が、会社を守ることなどできるのだろうか?
リスクに対して過剰に反応する必要はないが、適切なリスク管理が行えない経営者は、家族ですら救えない現実が起こる可能性のあることを認識してほしい。そしてEmergency Plan(緊急対応計画)の初動の重要計画は、Recovery Plan(復旧計画)ではなく、Evacuation Plan(避難計画)であることを受入れ、フライジンを村八分にするような職場環境を無くしてほしい。
白井邦芳「CSR視点で広報を考える」バックナンバー
- 第19回 「危機管理の原則はサバイバル 最終的には自身で判断を」(3/23)
- 第18回 「災害時の企業広報と経営トップの心構え」(3/14)
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