「編集者の本分とは、雑誌や書籍をつくることではなく、才能を発掘し世に広めて、そこでマネタイズしていくこと」と語る、星海社の太田克史さん。講談社勤務時代の2003年には、一人編集部体制で文芸誌『ファウスト』を創刊し、06年にはレーベル「講談社BOX」を設立。京極夏彦や西尾維新ほか、多くの気鋭の作家を担当し、作品を世に送り出してきた。文芸の伝統を受け継ぎながら、現在、代表取締役副社長を務める星海社で、新たなコンテンツビジネスへの挑戦を加速させている。(この記事は『編集会議2012秋号』の記事を抜粋・再構成したものです)
編集者は最強のプロデューサーである
次世代の編集者にはコンテンツとメディアをつなぐプロデュース能力が求められます。いい本はつくれて当たり前。その本を映画、アニメ、ゲーム、ミュージカルなど、新しいビジネスとして発展させられるか。仲間とともに星海社という新組織を2年前に立ち上げたのも、紙媒体だけに頼らず、デジタルメディア、イベントという三本の柱を軸に新しいコンテンツビジネスに挑戦していきたいと考えたからでした。
いま、出版社の力が著しく低下しています。その最大の要因は、紙媒体だけでビジネスを考えていたからです。いつからか、編集者の仕事は過剰に因数分解してしまいました。漫画担当だから漫画だけ追いかければいい、文芸担当だから売れなくても文学のことだけを考えていけばいい、などと。
他にもさまざまな世界や方法があるのに自ら境界線を引いていたように思います。たしかに昔は分業化により力を発揮できた時代もあったかもしれません。でも、職人気質の編集者像はもはや色あせてしまっているのではないでしょうか。
気鋭作家5人がWeb上で共演 朗読会を映画館から衛星中継
「レッドドラゴン」は、ぼくが中学生のころ夢中になった『ロードス島戦記』の影響が強いコンテンツです。『ロードス島戦記』はシリーズ累計1000万部を超えるベストセラー小説ですが、元ネタはテーブルトークRPG(TRPG)。いつかこういうTRPGをつくりたいと密かに企画をあたためていたんです。
いまのデジタルメディアならば、音楽やフルカラーのイラストで世界観を広げることもできます。月に1回更新しており、現在のユニークユーザー数は約15万人。特に宣伝はしていませんが、次第に認知されてきました。
「栗山千明の新月朗読館」などの朗読館企画は、以前、声優の坂本真綾さんの朗読会に参加したときに思いつきました。『わたしの頭の中の消しゴム』という韓流ドラマの翻案を朗読したもので、自分でも驚くほどの感動を覚えました。朗読会と聞くと、多くの人は椅子を円のように囲み、皆で朗読に耳を傾けるイメージがありますが、イラストと効果音を入れて映画館でやったら面白いのではないかとひらめいて、実現に至った企画です。
両企画ともコンテンツプラットフォームサイト「最前線」から配信しており、話題を喚起してから紙媒体を出版したり、チケットやグッズを販売して収益をあげています。最新テクノロジーをかけあわせれば、伝統ある文芸も変わっていく。それを証明すべく今後もさまざまな企画を提案していきます。
編集者の本分とは、雑誌や書籍をつくることではありません。才能を発掘し世に広めて、そこでマネタイズしていくことです。面白いものを見つけたら、自由に何をやってもいいのです。いまこそ原点に回帰し、編集者の本分に立ち返ればいいのです。
太田克史(おおた・かつし)
1972年、岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、講談社に入社。講談社ノベルス、文芸雑誌『メフィスト』を中心に京極夏彦、清涼院流水、上遠野浩平、舞城王太郎、佐藤友哉、西尾維新、奈須きのこ、竜騎士07を担当。03年、講談社史上最年少の編集長として一人編集部体制で文芸誌『ファウスト』を創刊。2010年に星海社を立ち上げ、代表取締役副社長COOに就任。
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